第2回のテーマは学術出版倫理です。その中でも、しっかりと理解しておくべき4つの事柄について説明します。
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評判は、学術界での「通貨」です。あなたの評判が、専門とする研究分野で世界的になるに従って、あなたの影響力は強まります。国際的な共同研究も増えていき、あなたの研究はさらに前進することでしょう。評判を確立するには長い時間がかかり得る一方で、倫理に反する行動をとればたちまちその評判は失われてしまいます。こうした事態に陥らないために、研究成果を発表するときに従わなければならない「国際的な倫理基準」をよく知っておく必要があります。この記事では、学術出版倫理の観点の中でもより一般的かつ熟知しておく必要のある①オーサーシップ、②盗用、③データ操作、④透明性について考えていきましょう。
①オーサーシップ(Authorship)
あなたの論文の共著者となる資格を持つのは、どのような人でしょうか? 実験を助けてくれたラボテクニシャン(技術員、技術補佐員)は、著者として記載されるべきでしょうか? 論文の英語の校正を手伝ってくれた英国人の同僚はどうでしょうか? あなたの所属先の長は、著者として加えるべき人でしょうか? 多くの場合、これらの質問の答えは「いいえ」です。
ほとんどの学術雑誌が、オーサーシップには2つの重要な側面があると考えています。ある個人が、研究および原稿執筆の知的内容に関して重要な貢献を果たしたことと、発表されたデータおよび考え方に関する説明責任を負うことです。Natureおよびその関連誌の著者ガイドラインでも、それについて明記しています。
著者として認められない人々を共著者として加えることを、「ギフトオーサーシップ」といいます。この行為は問題となっており、一部の学術雑誌は現在、著者らに対し「オーサーシップ声明を書き上げて署名し、原稿と共に提出すること」を義務付けています。不正行為と見なされることがないよう、投稿を考えている学術雑誌の著者ガイドラインを必ず、注意深く読んでください。あなたの研究を助けてくれたけれど著者としては認められない人に対しては、原稿の謝辞の欄で感謝の意を示すのが、より適切でしょう。
②盗用(Plagiarism)
英語で論文を書くのは容易ではありません。そこで、すでに発表されている英文をコピーしてあなたの原稿に使いたくなるかもしれません。しかし、この行為は「盗用」と見なされてしまうでしょう。学術雑誌の編集者は、提出された原稿とすでに発表されている論文の間の類似性を検出できるソフトウエアを使って、原稿をくまなく調べます。原稿に盗用した内容が含まれていると見なされれば、原稿は、修正が求められて返却されるでしょうし、不採択となることすらあります。
原稿の中で、以前に提唱された考えについて論じたいときは、自分自身の言葉でそれを言い換える必要があります。こういうときはまず、その考えについて、ノートに日本語で説明を書いてみます。そして論文の原稿を書くときに、英語に翻訳します。この翻訳ステップによって、あなたの文章と、オリジナルの文章との類似性が低くなり、盗用と見なされにくくなるでしょう。また、同僚に口頭で説明してみるのもいいですね。話すときには、自分の言葉で語らなければならないわけですから、その言葉を論文執筆の際に利用できるのです。とはいえ、方法論の執筆では、偶然に盗用となってしまうことが多いものです。そうした場合、ただシンプルに、以前の論文を引用してもいいのです。
盗用と見なされないためには、言い換えを行うことに加えて、その考えの出典を明示することも重要です。出典を明示しなければ、最初に考えたのはあなたである、という間違った印象を与えてしまいます。オリジナルの著者に対し敬意を払う必要があるのです。
③データ操作(Data manipulation)
データ操作が禁じられていることを知っていても、データを都合の良い形に加工したいという衝動に駆られるかもしれません。事実に基づかない情報は、その分野の発展を妨げる場合があるため、学術雑誌の編集者は現在、不自然な加工がないかどうかをソフトウエアを使って確認しています。また、査読者があなたの図の信憑性に疑問を抱くことがあるかもしれません。査読者には、評価のために生データを要求する権利があります。
単に、図やグラフの品質を向上させるために図を加工したい場合もあります。図をより明確にするために明るさやコントラストを調節したいとき、図の操作は、図全体に対して行わなくてはなりません。また分析の際に、統計的な外れ値(正規分布するデータセットにおいて平均値±3SDより外にあるデータポイント)を除外したいと考えることもあるでしょう。このどちらのケースでも、透明性と再現性の確保のために、論文のMethods(方法)のセクションで、あなたが何を行ったかを説明する必要があります。読者には、あなたが実際に得たデータに基づいて、あなたの研究やあなたが発見したいと望んでいたことを評価する権利があるからです。
④透明性(Transparency)
科学において再現性は不可欠です。あなたの行った実験を他の研究者が再現できないのなら、あなたの結果には疑問の目が向けられるでしょう。そのようなことになれば、あなたの評判に悪い影響を与えかねません。ですから、他の人々があなたの研究を再現できるように、研究がどのように行われたかを正確性と透明性をもって説明することが肝要です。また、実験を行うときにどのようなことが起こり得るのか、さらに実験に際しあなたが直面した技術的難題やそれをどうやって克服したかについて論じることも有用でしょう。つまり、人々があなたの研究を再現するときに、どういうことが予想されるかが正確に分かるようにするのです。
Natureおよびその関連誌で透明性を改善するために、私たちは、方法のセクションの字数制限を廃止しており、現在、全ての生命科学論文に対し、報告が必要な事項に関するチェックリストの記入・提出を義務付けています。これらの書類は論文と共に掲載されます。また、他の研究者たちがその研究を評価し再現できるよう、私たちは論文著者に、研究で使われた全データの所在について説明することも要求しています。科学の発展にとって、再現性は非常に重要です。他の出版社も、技術的透明性およびデータの透明性を担保するために、著者に対し、より厳格な要求を課すようになることでしょう。
出版倫理に関してあなたが考慮すべき事柄は、他にもたくさんあります。例えば、多重投稿、多重出版、利害の対立などです。今回はそれらについて割愛しましたが、ネイチャー・リサーチの出版倫理に関するウェブサイトにて再確認することをお勧めします。
まとめ
論文出版の第一のステップは、倫理に関するガイドラインを意識することです。ガイドラインに従って慎重に研究論文を書くことは、次のステップです。これらを実践することで、あなたが発表する情報がその分野で価値の高いものであると保証できるだけでなく、同分野の研究者たちの間で評価されるようになり、評判を確立することができるでしょう。
ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)
ネイチャー・リサーチにて編集開発マネー ジャーを務める。ペンシルべニア大学でPhD取得後、シンガポールおよび日本の研究所や大学に勤務。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。学術界での20年にわたる経験を生かし、研究者を対象に論文の質の向上や、研究のインパクトを最大にするノウハウを提供することを目的とした「Nature Research Academies」ワークショップを世界各国で開催している。
NEXT TRAINING:「英語論文の読み方」は 7月号掲載予定です。
Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 5 | : 10.1038/ndigest.2018.180526
Jeffrey Robens
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