自動運転の普及と駐車場の集約化-完全自動運転が普及した社会とまちづくり。その6:研究員の眼

附置義務駐車場の有効な活用方法を見いだすことが、将来的に大きな課題になるはずである。
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完全自動運転の普及によって、都市空間から必要なくなるものの代表選手が駐車場である。少し踏み込んでまちづくりの観点から完全自動運転の普及を見据えた駐車場のあり方を考えてみたい。

以前執筆したコラムでは、商業施設などの必要なくなった駐車場は、すべてを売り場の拡張に使うのではなく、アメニティを高める空間に用いた方がまちづくりにとってはよいと述べた。もともと素っ気ない空間である駐車場から、うるおいのある空間に生まれ変わることは、自動運転という技術を勝ち取ったことで得られる人間らしさという意味でも望ましいと思うからだ。

ただし、建物個々にアメニティ空間を設けても、それらが点在するだけで、その効果は小さいかもしれない。そこで、まちづくりの観点からは、集約化することをまず考えたい。

商店街に点在する平場の駐車場は、そこに出入りするクルマで歩行者の通行を妨げ、店舗が連続する街並みを分断し、商店街の賑わいを阻害する要因となる。こうした駐車場を集約化してまとまった面積にすれば、様々な活用が考えられるし、賑わいをよみがえらせることにつながる。

集約化には通常、権利調整などで時間を要する。だからこそ、今からそれに取り組むことが重要である。今から少しずつでも集約化していけば、完全自動運転が普及した際には、もはや駐車場としての機能は不要で、まとまった土地をまちづくりに活用できる。非常に有益な考え方だ。そうした土地は、アメニティも含めて、地域全体の価値を高めることに使うべきである。

だが、駐車場にもいろいろある。一定規模以上の建物には、駐車場の附置が義務づけられている。

国土交通省の調べ(*1)では、附置義務駐車場は全国に約6万8,000箇所、約305万8,500台分ある。面積に換算すると東京ドーム980コ分だ。

これらは機械式の立体駐車場であることが多い。機械式立体駐車場は、建物の中に組み込まれていたり、建物の脇に独立して設けられていたりする。平場の駐車場と違って集約化は難しい。したがって、何らかの活用方法を考えなければ、使われない空間の維持管理コストだけがかさんでくる。

このままではいずれ立体的な小さな空間が都市のいたるところに生まれることになってしまう。これだけの数あるとしたら、附置義務駐車場の有効な活用方法を見いだすことが、将来的に大きな課題になるはずである。

このように、完全自動運転が普及することによって必要なくなる都市空間の有効活用に、今から知恵を絞っていくことが重要なのである。

(*1) 平成27年度版 自動車駐車場年報(国土交通省都市局街路交通施設課)より。

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(2018年3月29日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 准主任研究員

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