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2015年08月31日 14時08分 JST | 更新 2016年08月30日 18時12分 JST

約款の数字 1から1095まで-第5回 「8」について(クーリング・オフ):研究員の眼

第5回のテーマは、クーリング・オフ(顧客による保険契約締結の撤回)の期間である「8日」としたい。

クーリング・オフとは、契約の申込みの後、消費者が頭を冷やして(Cooling Off)、冷静に考え直す時間を考慮して、一定期間内であれば無条件で契約を解除することができる制度である。

しかしながら、クーリング・オフについては約款そのものには記載されていない。

約款は、契約締結の後、保険給付支払いなどによる消滅までを規定しており、クーリング・オフという契約締結時の事項については、約款の記載にはなじまないという整理のためである。

ただ、顧客にとって非常に重要な事項であることから、約款とともに契約締結前に提示している「ご契約のしおり」(約款の重要部分について平明に解説するとともに、契約締結に当って熟知しておくべき事項を記載)や、「注意喚起情報」(顧客に対して注意喚起すべき情報を記載)などに掲載されているので(*1)、ここで紹介することとしたい。

クーリング・オフについては、保険業法第309条に、「保険契約の申込みの撤回等」として、「保険契約の申込みをした者または保険契約者は、書面によりその保険契約の申込みの撤回または解除を行うことができる」と定められている。

クーリング・オフ期間は、「クーリング・オフに関する書面を受け取った日」または「申込日」のいずれか遅い日からその日を含めて8日とされている(一部生保会社では10日、30日などに延長)。

ただし、つぎのような保険契約は対象外となる。

 ・法人契約や、営業や事業のためなどに締結した保険契約

 ・保険期間が1年以内である保険契約(損保は保険期間を1年とする保険が多く、対象外となる)

 ・法令で加入を義務付けられている保険契約[自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)]

 ・保険会社などの営業所などで、保険契約の申込みをした場合など、保険契約者の保護に欠けるおそれがない保険契約(医師による診査が終了した場合、更新や契約内容変更の場合や、住宅ローンの担保のための保険である場合など、自発的な申込みと認められるケース)

また、クーリング・オフがあった場合は、すでに支払った保険料は全額返金され、保険会社から違約金などの請求はできない。

こうした法律上の定めは、訪問販売により保険契約が締結されるケースでは、「顧客が受動的な立場に置かれたり、販売が不意打ち的であったりすることがあり、その場合には顧客の契約意思が不確定のままに保険契約の申込みや契約締結が行われ、事後にトラブルが生じるおそれがある」(*2)ことから、顧客保護のために1996年の保険業法改正により規定されたものである。

一方、保険業法改正の20年以上前の1974年9月から、生保会社は実際にクーリング・オフ制度を実施している。

これは、1973年の改正割賦販売法(現在の特定商取引法)の施行により、割賦販売(訪問販売による分割払い)にクーリング・オフが導入されたのを契機に、生保業界が自主的に導入したものである。

当初のクーリング・オフ期間は、当時の割賦販売法と同様「4日」であったが、割賦販売法などのクーリング・オフ期間の延長に伴い、1985年4月に「7日」、1989年4月に「8日」とされた(*3)。

1996年の改正保険業法により、上述の通り保険のクーリング・オフが法的にも整備されたが、当時のクーリング・オフ規定では、「保険料が口座振替により支払われるもの」全体が自発的な申込みとみなされて、クーリング・オフの対象外となっていた。

当規定により、銀行窓販解禁に伴い販売された商品(2002 年 10 月個人年金、2005年12月一時払終身保険など)は、すべてクーリング・オフの対象外となった。しかしながら、当該商品についても、実際に苦情の発生が見られたことから、2007年6月から、口座振替を保険販売銀行と同一の銀行で行なった場合などはクーリング・オフ制度の対象とされた(*4)。

従来、クーリング・オフについては、「生命保険では見ず知らずの生命保険募集人が突然訪問してきてその場で直ちに契約締結まで強引にすすめるようなことは稀であろうし、生命保険にせよ損害保険にせよ契約締結後も保険契約者との接触は続くことが多くその分強引に売りっぱなしというということもそう多くはないであろう。

現に、生命保険業界では、1974年から自主的に保険契約者のクーリング・オフを認めてきたが、その行使事例はきわめて少数にとどまってきた」 とされてきた。

しかし、その後の銀行窓版などでの苦情発生を踏まえ、上述の通りクーリング・オフの対象は拡大されている。

なお、海外においては、米国ニューヨーク州では保険証券が交付されてから10日以上30日以内(医療保険では10日以上20日以内)、英国では契約締結から30日間(損害保険契約は14日間)、ドイツでは申込みから2週間以内などのクーリング・オフが認められている(*6)。

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(*1) 「ご契約のしおり」や、「注意喚起情報」についての詳細は小著「顧客への約款等の開示について-インターネットによる開示の動向-」『基礎研REPORT(冊子版)』、ニッセイ基礎研究所、2009年11月参照。

(*2) 保険研究会『コンメンタール保険業法』、財経詳報社、1996年11月、489ページ。

(*3) 二澤一進「クーリング・オフの法律上および実務上の問題点」『生命保険経営』第42巻第6号、1974年11月、「クーリング・オフ期間の延長について」『生命保険協会会報』第70巻第1号、1989年12月、89ページ、濱田盛一「生命保険契約とクーリング・オフ」『生命保険経営』第64巻第3号、1996年5月。

(*4) 田口城「生命保険契約のクーリング・オフ制度」『生命保険経営』第77巻第1号、2009年1月。

(*5) 山下友信『保険法』、有斐閣、2005年3月、218ページ。

(*6) 田口城「生命保険契約のクーリング・オフ制度」前掲など。

(2015年8月17日「研究員の眼」より転載)

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保険研究部 上席研究員

小林 雅史