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2018年01月30日 17時22分 JST | 更新 2018年01月30日 17時22分 JST

返礼品競争から脱却できるか?-ガバメントクラウドファンディングとしての機能:研究員の眼

ふるさと納税のさらなる活用に関する総務大臣書簡が発出された。

2017年9月26日、都道府県知事および市区町村長宛に、ふるさと納税のさらなる活用に関する総務大臣書簡が発出された。書簡によると、総務大臣には、ふるさと納税の有効活用のために重視している事が2つある。

1つ目は、ふるさと納税の使い途を地域の実情に応じて工夫して、事業の趣旨や内容、成果をできる限り明確化することであり、2つ目は、ふるさと納税をしていただいた方との継続的なつながりである。

これを前提に、総務省から、3つの支援策(「ふるさと起業家支援プロジェクト」、「ふるさと移住交流促進プロジェクト」および「優良事例集の作成による横展開」)が示されている。

今回は、支援策の1つ「ふるさと起業家支援プロジェクト」に焦点を当てる。「ふるさと起業家支援プロジェクト」の目的と概要は、図表1に示すとおりである。筆者には、このプロジェクトに関し、思うことが2つある。

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【ふるさと起業家支援プロジェクトに対する危惧】

筆者は、このプロジェクトの意義は、ふるさと納税に対する利用者の視点を返礼品から用途に移すことにあると理解している。しかし、結局返礼品競争に終始するのではないか、返礼品競争の新たな抜け道になるのではないかと危惧している。

そのように考えるのは、概要の2つ目「支援先の事業に継続して関心をもってもらう為の工夫」の具体例として「自社製品の試供品等の送付、事業所見学への招待、起業が成功した際の新製品の贈呈」が例示されているからだ。

用途に視点が移っているようだが、試供品や新製品と名称が異なるだけで、結局返礼品競争に終始するのではないだろうか。加えて、「起業が成功した際の新製品の贈呈」が厄介で、新たな返礼品競争の抜け道になることを懸念している。

起業家の事業に関する審査項目として、事業の公益性や採算性の他、自社製品の送付等がふるさと納税の趣旨に沿ったものであるか等が例示されている。御存知の通り、3割を超える返礼割合のものは、ふるさと納税の趣旨に反するとされている(2017年4月の総務大臣通知)。

では、起業が成功した場合にのみ贈呈される場合、何割以下までなら許容されるのだろうか。「確実にもらえる3割相当の返礼品」と「成功した場合に限りもらえる3割相当の贈呈品」では、釣り合わない。投資理論に基づけば、不確実性を伴う場合の適切な贈呈割合は起業が成功する確率に大きく依存する。

しかし起業が成功する確率を正しく見積もることはできない。起業が成功する確率を正しく補足できない以上、起業が成功した際に贈呈される新製品の適正割合は設定できない。これが、返礼品競争の新たな抜け道になることを危惧している。

【ふるさと起業家支援プロジェクトに対する期待】

一方、筆者は、このプロジェクトによって自治体間の競争の適正化と、都市部住民が抱える課題解決につながることに期待している。

東京23区で構成する特別区長会は、「ふるさと納税」に関する要望(2017年3月23日提出)において、待機児童対策に必死に取り組んでいる特別区にとって、ふるさと納税による特別区民税の減収(区立保育所(100人規模)109所分の年間運営費に相当)が大きな痛手になっていると訴えている。

それなら、当該プロジェクトを活用すればよいのではないだろうか。地域課題に直面している居住者ほど、課題解決に資する事業に共感しやすいはずだ。ならば、居住者の多い都市部ほど、潜在的支援者も多いはずだ。

当プロジェクトの目的に「地域の外から資金を調達する」との文言があるが、居住する地方団体に対する寄附もふるさと納税制度の対象となる。居住者への返礼品送付は、ふるさと納税の趣旨に反するとされているが、居住する地方団体に寄附する事で、日常生活の利便性に繋がるならば、返礼品を求めない寄附者(居住者)も多いのではないだろうか。

ふるさと納税の意義の一つに、「自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。」とある。

この意義に照らせば、都市部の取るべき戦略は、地域で営業する輸入業者が取り扱うフランス産ワインを返礼品とし、非居住者から寄附を集める事ではなく、地域課題の解決の道筋を示し、居住者から寄附を集める事ではないだろうか。

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(2018年1月24日「研究員の眼」より転載)
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