医療の臨床試験では、結果を表示するために、死亡率、治癒率など、様々な確率の値が用いられる。これらの確率の値は、ある一定期間での死亡や治癒などの試験結果を表すため、期間と確率は、セットで示されることとなる。
複数の試験結果を比較する場合などで、これらの確率に対して、期間の調整が必要となる場合がある。そのために、例えば、次のような問題に、回答できるようにしておかなくてはならない。
問題1
ある病院で、1,000人の患者を2年間追跡調査したところ、2年後に400人が治癒しました。治癒しなかった600人は、2年後も治療を続けています。治癒率が期間によらず一定と仮定すると、この1,000人の患者の年間治癒率はいくらでしょうか ?
2年間に400人治癒したのだから、1年間で、半分の200人が治癒したのだろう。治癒率は、1,000人中200人で20%、としてはいけない。もし、1年目に200人が治癒したとすると、2年目の年始には800人しか患者がいないことになる。
すると、2年目には、800人の中で、残りの200人が治癒したことになって、治癒率が25%に上がってしまう。これでは、治癒率が期間によらず一定という仮定に反してしまう。
2年目に治癒した人の数は、1年目には治癒しなかった人の数に、年間治癒率を乗じた人数である。
そこで、1年目に治癒した人(1,000人×年間治癒率)と、2年目に治癒した人(1,000人×(1 - 年間治癒率)×年間治癒率)の合計が、400人という方程式を作る。
これは、年間治癒率を変数とした2次方程式となる。そこで、これを解いて年間治癒率は、22.5%となる。20%より、やや大きい結果となる。
それでは、追跡調査の期間が2年よりも長かったらどうなるだろうか。例えば、次のような問題が考えられる。
問題2
ある病院で、1,000人の患者を5年間追跡調査したところ、5年後に500人が治癒しました。治癒しなかった500人は、5年後も治療を続けています。治癒率が期間によらず一定と仮定すると、この1,000人の患者の年間治癒率はいくらでしょうか ?
追跡調査の期間が5年間となると、先ほどの方程式は、年間治癒率を変数とした5次方程式となる。2次よりも高次の方程式になってしまうため、一瞬、解けるのかという気がする。
代数学では、5次以上の一般の代数方程式に対する、解の公式は存在しないことが示されている。しかし、実際に方程式を立てて計算を進めてみると、この問題のケースでは、解が定式化できることがわかる。そして、年間治癒率は、12.9%と、結果が求まる。
一般に、上記の2つの問題と同様に、1,000人の患者をn年間追跡調査した結果、n年後の治癒者数がわかった場合、治癒率が期間によらず一定と仮定すると、年間治癒率は次のようになる。
年間治癒率 = 1 - (1 - n年後の治癒者数 / 1,000人) の (1/n)乗
それでは、逆に、年間治癒率がわかっている場合に、ある期間の治癒率を求めるとしたら、どうなるだろうか。つまり、次のような問題が考えられる。
問題3
ある病院で、1,000人の患者を1年間追跡調査したところ、1年後に200人が治癒しました。治癒しなかった800人は、1年後も治療を続けています。治癒率が期間によらず一定と仮定すると、この1,000人の患者のうち、最初の3ヵ月後に、何人が治癒したと考えられますか ?
上記の年間治癒率の算式で、nを3/12年(=3ヵ月)、年間治癒率を20%(=200人/1,000人)とおいてみよう。これを解いて、3ヵ月後の治癒者数を求めると、54人となる。
このように、べき乗の計算が入るものの、比較的に簡素な算式で、治癒率の期間調整を行うことができる。この計算のベースとなっているのは、高校で学ぶ、方程式やべき乗の数学だ。高校での数学の知識が、実務で、このように役に立つことは、なかなか興味深いと思われるが、いかがだろうか。
(*)問題3の計算
3/12年後の治癒者数 = 1,000人 × (1-(1-20%)の(3/12)乗)
= 1,000人 × (1-0.8の(1/4)乗)
= 54人
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(2018年2月5日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 主任研究員