EU離脱で英国不動産市場に暗雲 Part2~英不動産ファンドの解約凍結、2007年パリバショックとの相違点は?:研究員の眼

EU離脱は英国の不動産市場にとってマイナス要因である。UK REITが大幅に下落するなど、市場では英国不動産市況の悪化を織り込む動きが既に出ている。

6月23日に英国で行われた国民投票では、EU離脱派が勝利した。EU離脱は英国の不動産市場にとってマイナス要因である。UK REITが大幅に下落するなど、市場では英国不動産市況の悪化を織り込む動きが既に出ている(*1)。

英不動産ファンドの解約も増えている。投資家からの解約請求が急増したことで、7月4日にStandard Life Investmentが約£29億(約3,800億円)の英不動産ファンドの解約凍結を発表した。手元資金だけでは解約に応じられなくなったことが要因だ。

資金を手当てするために保有する不動産を売却する場合、適正な価格で売却するためには時間を要するため、今回の措置をとったとしている。

翌5日以降も、英不動産ファンドの解約凍結が相次いでおり、Bloomberg社の報道によると、解約を凍結した不動産投資ファンドは計6本、運用資産規模は少なくとも約£148億(約1.9兆円)にのぼる(本稿執筆時点、7月6日)。

今回の出来事は市場関係者の注目を広く集めたが、それには理由がある。「ファンド解約凍結」という言葉が、世界金融危機の発端ともなったパリバショックを想起させるのだ。

仏銀大手BNPパリバが2007年8月9日、サブプライムローン関連の証券化商品に投資していたファンドの解約などを凍結すると発表した(*2)。これによりサブプライムローン問題が改めてクローズアップされ、信用不安が高まったことで、欧米金融機関の経営悪化に拍車をかけた。

では、今回の英不動産投資ファンドの解約凍結は、パリバショック同様、世界的な金融危機の幕開けを告げる出来事になるのだろうか。ファンド解約凍結という点では、両者とも同じだ。

一方、相違点もある。パリバショックは信用不安を高め、金融機関が資金を融通しあう短期金融市場を機能不全に陥れた。

世界金融危機の一連の出来事の中で、パリバショックが重要なイベントとして位置づけられているのは、この信用収縮を引き起こしたためである。

しかし、今回は今のところ、短期金融市場に動揺は見られず、資金の目詰まりは起こしてはいない。短期金融市場が正常に機能し続けるかというのは、今後グローバルな金融危機に発展し得るかという観点で重要なポイントの一つである。

短期金融市場の逼迫度合いを見る際によく参考にされる指標が、LIBOR-OISスプレッドである(*3)(図表―2)。LIBOR-OISスプレッドが拡大するほど、短期金融市場が逼迫していることを表す。パリバショックの際は、LIBOR-OISスプレッドは急拡大した。

米ドルで見ると、それまで0.10%程度で推移していたが、BNPパリバのファンド解約凍結が発表されると0.40%まで拡大した。その後も拡大を続け、2007年9月には0.95%に達した。他の通貨も程度の差はあるが、顕著に拡大している。

一方、今回は、英国国民投票後に英ポンドで0.15%から0.30%まで上昇したものの、解約凍結が発表された2016年7月4日、5日に大きな動きはなかった。また英ポンド以外の通貨は、ほとんど変動していない。

欧州金融機関の株価下落など懸念すべき要因はあるものの、短期金融市場に逼迫感は見られない。

また英国以外の不動産市場への波及も限定的で、主要各国の不動産市場は底堅い動きを続けている。

その主な理由としては、世界的に緩和的な金融政策が継続・拡大されるとの期待が高まったことや英国から流出した資金が主要先進国に流入するとの思惑が高まっていることが挙げられる。

特にその恩恵を被っているのが米国の不動産市場である。米国REIT指数は6月29日に2007年の最高値を更新し、その後も堅調に推移している(図表―3)。

今回の英不動産ファンドの解約凍結に対し、市場は冷静に反応し、英国内の話として消化しつつあるようだ。しかし、依然不透明な要素も多く、影響が拡大していく可能性がある。

特に短期金融市場に影響が波及した場合には、グローバルな金融危機に発展する懸念が高まるため、今後も注意が必要である。

関連レポート

(*1) EU離脱が英国不動産市場に与える影響については、佐久間(2016)「EU離脱で英国不動産市場に暗雲~マイナスの影響が大きく、UK REITは大幅下落~」、ニッセイ基礎研究所、研究員の眼(2016年6月28日)を参照されたい。

(*2) BNPパリバのファンド解約凍結の理由は、ファンドの資産価値を適正に評価できなくなったためとしており、今回の英不動産ファンドとは異なる。

(*3) LIBOR(London Interbank Offered Rate)は銀行の資金調達金利の目安であり、OIS(Overnight Index Swap)は将来の翌日物レートの予想を反映し、リスクフリーレートを表す。両者の差分であるLIBOR-OISスプレッドは、銀行が資金調達する際のリスクプレミアムを表し、短期金融市場の逼迫度を示す。

(2016年7月7日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 研究員

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