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2018年07月17日 11時00分 JST | 更新 2018年07月17日 11時00分 JST

ふるさと納税の使途に注目が集まれば-都市部ほど有利だと考える根拠:研究員の眼

ふるさと納税の使途に注目する向きがある。

2017年9月26日に発出された総務大臣書簡を機に、ふるさと納税の使途に注目する向きがある。

その書簡において、ふるさと納税の更なる活用のために重要なことが2つ示されるとともに、地方団体の取り組みに対する支援が表明されている。

重要なことの1つ目は、ふるさと納税の使途を地域の実情に応じて工夫し、ふるさと納税を活用する事業の趣旨や内容、成果を出来る限り明確化すること、そして2つ目は寄附者と継続的なつながりを持つことである。

使途に注目したふるさと納税制度の活用が進めば、過熱する返礼品競争の鎮静化が期待できる。過熱する返礼品競争が鎮静化すれば、返礼品を調達するための費用が減少するので、実質的な財源減少を抑制することにもなる。つまり、ふるさと納税で得られた資金のうち、より多くの資金を地域の課題解決のために活用できることになる。

近年ふるさと納税により多くの寄附金を集めていた地方部への恩恵が増すようにも思えるが、地方部は喜んでばかりいられない。ふるさと納税の使途に注目したふるさと納税制度の活用が進めば、都市部(*1)ほど有利に働く可能性もある。

ふるさと納税に対し、都市部の住民が地方部を支援する制度といったイメージを持っている人も多い。確かに、制度創設のきっかけは、都市部に住んでいても、自らの意志で自分を育んでくれた地方部に納税できる制度があっても良いのではないか、といった問題提起であった。

しかし、制度上、都市部の自治体を支援することも、自分が居住する自治体を支援することも可能(*2)なので、都市部に多額の寄附金が集まることもありえる。そこで、ふるさと納税の使途に注目したふるさと納税制度の活用が進めば、都市部ほど有利だと考える根拠を2つ紹介したい。


(*1) 本稿では、都市中心に加え、都心中心への通勤者が多く住む近隣市区町村も含めて都市部と、それ以外を地方部と表現する。
(*2) ただし、総務大臣通知において、居住者の寄附に対し返礼品を送付することは自粛するよう求められている。

【根拠1:以前、ふるさと納税の受領自治体上位は都市部だった】

図表1は、各年度のふるさと納税の受入額上位10自治体をその特徴に応じて色分けしたものである。桃色は災害支援の一環として寄附が集まったと考えられる自治体、灰色は政令指定都市(特別区及び政令指定都市を有する都道府県を含む)、水色は中核市(中核市を有する都道府県を含む)である。

総務省が返礼品の送付について初めて言及したのは2015年1月23日なので、返礼品を目的としたふるさと納税制度の利用が進んだのは、2013年度~2014年度頃と考えられる。その前後でふるさと納税の受領自治体が様変わりしていることは一目瞭然だ。返礼品を目的としたふるさと納税の利用が進む前までは、主たるふるさと納税受領自治体は都市部に偏っていた(東北地方太平洋沖地震に係る義援金を除く)。

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ふるさと納税受領自治体上位が都市部に偏っていたのは偶然ではない。返礼品の恩恵も無いのに、2,000近くに及ぶ自治体の中から寄附する自治体を選ぶため、時間を割ける寄附者は極めて限定的であろう。

大多数の寄附者は、寄附しないか、馴染みのある自治体に寄附すると考えられる。通常、馴染みのある自治体は、以前住んだことのある自治体か、現在住んでいる自治体なのだから、人口の多い都市部にふるさと納税受領自治体上位が集中するのは致し方ない。生まれ育った地域が地方部だからこそ、ふるさと納税の意味があるといった反論もあるだろう。

しかし、高度経済成長期における地域的な労働比率の変化を背景とした、都市化率(都市人口÷人口)の急速な上昇は、1960年代以前に起こっている(*3)。現役世代(15歳~65歳)の大半は、都市部への急激な人口移動後に生まれているのだ。

馴染みのない自治体に寄附が集まる理由は、返礼品に他ならない。ふるさと納税の使途に注目が集り、結果として返礼品への注目が相対的に薄れると、馴染みのある納税者が多い都市部ほど有利になるのではないか。

もちろん、馴染みのない自治体に寄附が集まった背景には、ふるさと納税関連ポータルサイトや情報誌により、好みの返礼品を送付する自治体を容易に検索・比較できる環境が整ったこともある。同様に、好みの使途を提示する自治体も容易に検索・比較できるのだから、馴染みのない自治体への寄附が継続する可能性もゼロではない。


(*3) 土屋宰貴(2009)『わが国の「都市化率」に関する事実整理と考察―地域経済の視点から―』,日本銀行ワーキングペーパーシリーズ参照

【根拠2:都市部にも使途はある】

返礼品に頼らなくても、ふるさと納税を集められる使途とは何だろうか。地方団体の取り組みに対する支援の一環として、2018年3月30日に総務省は「ふるさと納税活用事例集」を公表した。

これは、ふるさと納税の使途や成果を明確化する取り組みや、寄附者と継続的なつながりを持つ取り組みを全国に広げていくため、各地の好事例をとりまとめたものである。つまり、返礼品に頼らなくても、ふるさと納税が集まった使途を取りまとめたものではない。

掲載された全60事例のうち、57事例は返礼品の送付を伴っていた可能性が高い。これらの事例は、寄附者の目的は返礼品だが、使途が提示されていたので、副次的に使途を選んだだけかもしれない。

返礼品に頼らずにふるさと納税を集めた事例は「熊本地震からの復旧・復興に向けて」(熊本県熊本市)と「こどもたちに本を贈ろうプロジェクト」(京都府長岡京市)、そして「命をつなぐ『こども宅食』でこどもと家族を救いたい」(東京都文京区)である。

これら3つの事例を参考に、返礼品のように馴染みのない納税者から寄附を集めることが期待できる使途、つまり馴染みのある納税者が限られる自治体が参考にできる使途を考えたい。

まず、熊本市は政令指定都市ではあるが、熊本地震からの復旧・復興ということで、熊本市に馴染みのない納税者から多くの寄附が集まったに違いない。これは寄附金の使途や、熊本市への寄附金額と熊本市からの流出額の比較から明らかだ。しかし、被災地以外の自治体にとって、このケースは参考にならない。

次に、長岡京市は、京都市と大阪市との間に位置し、両政令指定都市を結ぶ2路線(JR京都線と阪急京都線)が通る交通アクセスにも恵まれた都市部である。

このプロジェクトは学校図書館に本を寄贈することを目的とし、累計納入冊数は1,500冊に上る。そのうち、少なくとも約300冊は、市外在住の卒業生からの寄附分である。寄附が集まった原動力として、使途が明確で、寄附先の学校や贈る本まで指定可能であったことに加え、長岡京市に馴染みのある納税者が一定数いたこともあるだろう(*4)。

最後に、文京区のケースであるが、文京区が都市部であることは説明するまでもない。このプロジェクトは、生活困窮世帯に対して、食品を自宅へ配送することを目的とし、寄附件数は2,310件に及ぶ(2018年2月末時点)。

文京区に馴染みのある納税者からの寄附もあるだろうが、文京区におけるふるさと納税利用者数や、文京区からの流出額なども勘案すると、使途の趣旨に賛同した文京区に馴染みのない納税者からの寄附も少なくないと考えられる。

生活困窮世帯に対する支援なら、馴染みのある納税者が限られる自治体でも、返礼品に頼らずに寄附を集められる可能性が高い。また、昨今なら、小中学校の耐震化や設備の安全性確認といった使途でも、寄附を集められるかもしれない。しかし、これらの使途は、ほぼ全ての自治体が抱える使途であるうえ、人口の多い都市部ほど多額の費用を要する。

結局、都市部に多額の寄附金が集まることになるのではないか。もちろん「離島のハンデを乗り越えるためICTで教育充実」(長崎県五島市)や「『のってこらい』過疎地の交通手段を確保」(三重県熊野市)などの地方部ならではの使途もあるが、待機児童の解消など都市部ならではの使途もある。

都市部自治体が、長岡京市の成功事例を参考に、使途を待機児童の解消に限定するだけでなく、保育施設の整備エリアを指定可能とすれば、納税者の心に響くのではないだろうか。いずれにせよ、人口が多いゆえに都市部ほど多額の費用を要することに変わりない。

総務省の目論見通り、ふるさと納税の使途に注目したふるさと納税制度の活用が進めば、人口を多い都市部ほど寄附金が集まりやすくなるのではないだろうか。


(*4) 長岡京市の人口は8万人程度と決して多くないが、総務省「28年度個人の市町村民税の納税義務者等に関する調」によると、納税者数の多い市区町村上位20%に含まれる。「こどもたちに本を贈ろうプロジェクト」への寄附件数(2016年度15件、2017年度20件)と比較すれば、十分な納税者を抱える。

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(2018年7月2日「研究員の眼」より転載)
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