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2018年07月12日 11時59分 JST | 更新 2018年07月12日 11時59分 JST

韓国でも「働き方改革」がスタート-1週間の労働時間の上限が52時間に:基礎研レター

実施による副作用はないだろうか。

vichie81 via Getty Images

1――7月1日より「週52時間勤務制」がスタート

韓国では、残業時間を含めた1週間の労働時間の上限を従来の68時間から52時間に制限することを柱とする改正勤労基準法(日本の労働基準法に当たる)が7月1日から施行された。

労働時間の上限が適用されるのは、従業員数300人以上の企業や国家機関・公共機関で、違反した事業主には2年以下の懲役あるいは2千万ウォン(約200万円)以下の罰金が科される。

但し、施行から半年間は試行期間とし、罰則が猶予される。「週52時間勤務」は、2021年までには中小企業にも段階的(50人以上~300人未満の事業場は2020年1月まで、5人以上~49人未満の事業場は2021年7月まで)に拡大・適用される。

これまでも、残業時間を含む1週間の最大労働時間は、勤労基準法の規定上は52時間であったが、「法定労働時間」を超える労働、すなわち「延長勤務」に「休日勤務」は含まれないと雇用労働部が解釈したため、労働者は1週間の法定労働時間40時間に労使協議による1週間の最大延長勤務12時間、そして休日勤務16時間を合わせた合計68時間まで働くことが許容されてきた。

しかしながら、今回の改正では休日勤務は延長勤務に含まれると行政解釈をしており、1週間の最大労働時間を52時間にする「週52時間勤務制」が実施されることになった。休日勤務手当は変更されず、8時間以下分に対しては50%の加算が、8時間超過分に対しては100%の加算が適用される。

また、法定労働時間の例外適用が認められていた「特別業種」が存在していたが、労働界は今まで特例業種の認定は無制限労働をもたらすと、全面廃止を要求してきており、改正法では法定労働時間の例外適用が認められていた特例業種を従前の26業種から5業種に縮小した。

今回の措置は、労働界の要求をある程度受け入れたもので、与党と野党の合意の末、特例業種を陸上運送業、水上運送業、航空運送業、その他の運送関連サービス業、保険業に制限している。

一方、年少労働者の法定労働時間は1週間に40時間から35時間に、そして延長勤務時間は6時間から5時間に制限される。

韓国政府が「週52時間勤務制」を実施した理由は、長時間労働を解消し、労働者のワーク・ライフ・バランスの改善(夕方のある暮らし)を推進すると共に、新しい雇用創出を実現するためである。2017年時点における韓国の年間労働時間は2,024時間で、データが利用できるOECD加盟国の中で韓国より労働時間が長いのはメキシコ(2,257時間)のみである。 

一方、労働需給のミスマッチと雇用創出の不振で若者の雇用状況は改善されておらず、2017年時点の若者(20~29歳)の失業率は9.8%に達している。

これは平均失業率3.7%に対しておよそ2.6倍の高さである。韓国政府は労働時間を短縮することによって、その分新たな雇用が創出されると期待し、「週52時間勤務制」を思い切って実施した。

2――「週52時間勤務制」の課題や企業の対策

では、「週52時間勤務制」の実施による副作用はないだろうか。まず、考えられるのが労働時間の短縮による賃金総額の減少である。特に、製造業の場合は基本給が低く設定されており、残業により生活水準を維持する労働者が多かった。

労働時間の短縮により、「夕方のある暮らし」をすることは望ましいものの、1ヶ月の残業時間が最大64時間も短縮されると生活に与える影響は少なくないだろう。

国会予算政策処が3月13日に発表した「延長勤労時間の制限が賃金及び雇用に及ぼす効果」では、「週52時間勤務制」が適用され、労働者の残業時間が減少すると、1ヶ月の給料は平均37.7万ウォン減少すると推計した。雇用形態別には非正規職の減少額が40.3万ウォンと正規職の37.3万ウォンを上回った。

非正規職の減少額が正規職より多い理由としては、非正規職の残業時間が正規職より長いことを挙げている。収入が減少した労働者が収入を増やすために、勤務後に副業等をすると、韓国政府が目指している「夕方のある暮らし」は難しくなるだろう。

一方、「週52時間勤務」の実施は、企業の労働力不足につながる恐れもある。韓国経済研究院は「週52時間勤務」の実施により、26.6万人の労働力不足が発生し、その結果、企業負担は年12兆ウォンまで増加すると推計した。

大企業の場合は「週52時間勤務」の実施に備えて、柔軟勤務制を実施する等着実に対策を講じていたので、現在のところ大きな混乱はないようだが、中小企業の状況は異なるだろう。

就業ポータルサイトの「Incruit(インクルート)」などが352社を対象に実施した週52時間勤務制に対する調査結果によると、62.1%の企業が「まだ準備が足りない」と答えており、「準備ができている」と答えた企業の37.9%を大きく上回った。

3――韓国政府の対策と今後のあり方

上記のような問題点を考慮し、韓国政府は労働者の収入減少や企業の負担増加を緩和する目的で、労働者に対しては、1年間(製造業優先支援対象企業は2年間)、1ヶ月に10万~40万ウォンの支援金を、新規採用をした企業(従業員数300人以上の企業)に対しては新規採用一人当たり1ヶ月に60万ウォンの助成金を支払う。

韓国政府が思い切って実施した「週52時間勤務」が韓国社会に蔓延していた長時間労働の習慣を改善させ労働者の生活の質を引き上げるとともに、若者の雇用創出にもつながることを願うものの、実はその前に解決すべき問題は山積している。

韓国政府は韓国における労働市場の問題点をより幅広く洗い出しながら、働き方改革を進める必要があるだろう。

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(2018年7月4日「基礎研レター」より転載)
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生活研究部 准主任研究員
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