1――お薬手帳を出すと薬代は安くなります。
ただし、利用期間、利用回数、薬局の規模に留意する必要があります。
つまり、6ヶ月以内に1回は利用した薬局で、実際安くなるのは2回目以降の利用になります。
また、薬局の規模は、大きな病院の近くにある大型の薬局やチェーン展開している大手の薬局などは除外されます。
6ヶ月以内に複数回、薬を調剤してもらう必要がある場合は、利用する薬局を1つ決めておいた方がよいでしょう。利用する毎に手帳を出すと、70歳未満(3割負担)であれば40円、70歳以上(1割負担の場合)であれば10円、薬代が安くなります。
2――お薬手帳とは?
お薬手帳は、処方された薬を記録した手帳です。薬の名前、服用量、服用期間が記録され、いつ、どのような薬を服用してきたか、履歴を確認することができます。患者自身もアレルギー歴などを記載することができます。お薬手帳自体は、薬局で無料配布されます。
お薬手帳は、1993年に発生した、異なる医療機関で処方された医薬品の併用によって、重篤な副作用が引き起こされた死亡事故をきっかけに考案されたと言われています。1994年には一部の大学病院や薬局での活用も始まりました。
1995年に発生した阪神淡路大震災では、医療機関で患者さんのカルテなどが失われた状況下でも、服薬の履歴を確認することができ、薬を迅速に配布できる手段として評価が高まりました。このような経緯を経て、2000年からは国の制度として、導入されています。
3――お薬手帳の意義
平成27年度厚生労働省委託事業「電子版お薬手帳の適切な推進に向けた調査検討事業報告書」では、お薬手帳の意義として、以下の2点を挙げています。
(1)患者自身が自分の服用している医薬品について把握するとともに正しく理解し、服用した時に気付いた副作用や薬の効果等の体の変化や服用したかどうか等を記録することで薬に対する意識を高めること
(2)複数の医療機関を受診する際及び薬局にて調剤を行う際には、それぞれの医療機関の医師及び薬局の薬剤師に見せることで、相互作用や重複投与を防ぐことにより、医薬品のより安全で有効な薬物療法につなげること
4――お薬手帳のメリットは?
お薬手帳は、薬局において、記載内容から、飲み合わせ、相互作用による悪影響を防止し、重複投与していないか、他の治療への影響がないかを確認することができます。処方が効率的に行われるのみならず、適切な服薬指導も可能となります。
患者側としては、持参すると薬代が安くなるというメリットに加えて、重複投与を確認できれば、不要な出費を抑えることもできます。また、旅行先や災害時、緊急時などに持参していれば必要な薬を速やかに正しく処方してもらうことができます。
このようなメリットを受けるためにも、お薬手帳は1冊にまとめておく必要があるでしょう。2016年の診療報酬改定では、一定の要件を満たしていれば、電子お薬手帳が紙媒体の手帳と同等の取り扱いとなることになりました。スマートフォンのアプリなどの提供も進みつつあります。
5――お薬手帳を出すと薬代が安くなったのは2016年4月から
薬局で支払う料金は、調剤技術料、薬学管理料、薬剤料、特定保険医療材料の4項目を合計して算出されます。このうち、お薬手帳を出すと薬代が安くなる点については、薬学管理料のうち、薬剤服用管理指導料と関係しています。
この薬剤服用管理指導料は、薬剤師によるお薬手帳への薬剤の利用歴の記載や、患者への服薬指導などを行うことで薬局が得られる報酬になります。2016年の4月からは、この報酬が初回は500円、6ヶ月以内にお薬手帳を持参して再度利用した場合は380円に改定されました。
これにより、お薬手帳を出すと、薬代が安くなる制度に改定されました。2016年3月までは、お薬手帳を持参すると(410円)、持参していない場合(340円)に比べて、20円上乗せされる状況にありました(3割負担の場合)。
6――お薬手帳の重要性
薬局ではお薬手帳の記載内容の把握等を通じて、患者が利用している全ての医療機関や、服用薬を一元的・継続的に把握することができ、薬学的管理・指導を実施することができます。
社会の高齢化が更に進む中で、多くの高齢者が慢性病などで複数の医療機関を受診し、複数の処方箋を抱えることも考えられます。
お薬手帳を通じて、これらの情報を1つの薬局で管理し、その上で、人々の健康を正しく管理していくためにも、その重要性はますます高くなっていくでしょう。
関連レポート
(2018年3月1日「基礎研レター」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
保険研究部 准主任研究員