世界最高峰といわれるエベレスト(8,848m)はじめ、8千メートル級の山を多く擁する国ネパール。首都カトマンドゥは標高1,330メートルの盆地に位置する。気圧が低いため持参した菓子袋が大きく膨らんでいる。
街は多くの人と車で溢れ、排気ガスや砂塵で空気がよどみ、街ゆく人の中にはマスクをしている人も多い。クラクションが鳴り響く一方、交通量の多い道路の真中で悠然と牛が寝ている。途切れなく車やオートバイが走る無秩序とも思える道路を、地元の人たちは巧みに横断してゆく。
車がひしめき合う幹線道路には信号機もない。たまにあっても点灯しておらず、交差点の中央では警察官が交通整理に当たっている。日本のODA(政府開発援助)で建設された幹線道路の信号機さえも消えたままだ。
ネパールの電力供給の大半は水力発電に頼っているが、慢性的な電力不足のせいか、レストランや宿泊したホテルでも時々停電することがあった。道路の路面状況は劣悪であり、いたるところで舗装がはがれ、バスがわずか10キロメートルほど進むのにもかなりの時間を要する。
カトマンドゥ盆地には、カトマンドゥのほかにパタン、バクタプルのふたつの古都があり、多くの寺院や旧王宮などの文化遺産がある。2015年4月に発生したカトマンドゥの北西77キロのゴルカを震源とするネパール地震は、多くの文化遺産に甚大な被害を与えた。
日本を含む世界各国からの支援のもと修復工事が進められているが、多くの建物がレンガを積み上げた構造であり、現在も倒壊防止のために支柱で支えられている。一日も早く美しい古都の景観が戻ることを祈らずにはいられない。
カトマンドゥから西へ約200キロの山岳リゾート地ポカラからはアンナプルナ山系が間近にみえる。信仰の山として有名な未踏峰のマチャプチャレ(6,993m)は、スイスのマッターホルンのような形で、息を飲むほど美しい。
遊覧飛行からはダウラギリ(8,167m)やマナスル(8,163m)をみることもできる。標高1,592メートルのサランコットの丘から眺めるヒマラヤの日の出は神々しいばかりだ。山が信仰の対象になり、人々が畏怖の念を抱くこともうなずける。
ポカラの街から少し離れると美しい山を背景に丘陵地に段々畑が広がり、のどかな田園風景が続く。農村地帯では水道や電気などのインフラも不十分で、多くの女性たちが、村の水汲み場から重い水の入った容器を運ぶ姿がみられた。観光客にとって風光明媚な田園風景も、ネパールの人々にとっては厳しい日常生活の一部なのだ。
一方、農村地帯にもパラボラアンテナがあったり、携帯電話を使う人がいたり、ここでも技術レベルが一足飛びに進化するリープフロッグ(蛙飛び)現象がみられる。
ネパールは2008年に王制を廃止、連邦民主共和制に移行した。2016/17年度の一人当たりGDPは約848ドルで、GDPの約3割、就労人口の3分の2を農業が占める後発開発途上国だ。
今後の経済発展に向けては、水資源開発を中心に、電気、水道、下水などの都市インフラ、生活や産業のための道路網などの社会資本整備が必要だ。大気汚染やゴミ処理問題の解消、建物の耐震化等も不可欠だ。電柱に絡みついた電線類は都市景観を損ねるだけでなく、セキュリティの点からも対処が急務だ。
帰国時に日本に留学しているというひとりのネパール人男性と知り合った。日本語がとても上手で、日本の大学院で公共政策を勉強しているという。大学院修了後は日本で就職するつもりかと尋ねると、『ネパールに戻り、国の発展のために働きたい』と言っていた。
ネパールの人々はとても人懐っこく、特に子どもの表情は明るい。混沌とした国ネパールの未来は前途多難だが、母国の将来の発展に尽くそうとする若者の志に、とても大きな希望と勇気をもらったネパールの旅だった。
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(2018年3月27日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員