1――二期目の習政権
中国共産党大会が終わり、2期目の習近平政権の進路がはっきりした。習総書記への権力集中が進み、任期とされる2期・10年を超えて最高権力を握り続ける長期政権となる可能性が高まった。
大会初日の政治報告では、2020年までに小康社会(多少のゆとりがある社会)の完成を実現し、建国100年となる2049年に向けて「社会主義現代化強国」を実現すると宣言した。
中国が改革開放政策によって経済成長を続けていけば、いずれ一党独裁から民主的な政治体制へと転換して行くのではないかという期待もあったが、中国だけでなくロシアもむしろ逆方向に進んでいる。
経済面でも、さらなる国際化・市場経済化に向かうのではなく、経済を含めて「あらゆる活動を党が指導する」という姿勢がより明確になっている。
企業活動への共産党の介入が強まっており、多くの企業が党の経営介入を容認する内容の定款変更を行っていると報道されている。国際金融の領域でも人民元の国際化の動きは止まり、為替管理の強化が行われている。
市場原理がもっと働くようにして中国経済の発展を図るのではなく、党主導によって構造改革を進めようという考えが鮮明だ。
2――高まる国際的影響力
数年前に話題となった「国家はなぜ衰退するのか」(*1)で、アセモグルとロビンソンは、歴史を見れば、自由や平等、民主主義、法による支配を基礎とした社会でなければ経済発展は続かないと結論づけていて、欧米の論調はこれに沿ったものになっている。
しかし、中国を初めとした新興国が西欧型の社会にならなければ、これらの国々が世界経済を大きく変える力にはならないと考えるのは危険だ。政府が民間企業の経済活動に過剰に関与すれば悪影響があるが、アジアの国々は開発独裁と欧米から批判を浴びながらも経済発展を遂げ、シンガポールなどは先進諸国並みの所得水準にまで達している。
そこまで成功しなくても、人口規模が米国の4倍ほどもある中国やインドは、一人当たりの所得水準が米国の四分の一で、国としての経済規模は米国並みになるという単純な掛け算を忘れてはならない。
日本も含めた資本主義諸国では、民間経済の規模が巨大となり、企業活動が国境を越えて世界規模で行われるようになるにつれて、財政・金融政策や法律を駆使しても政府が自国の経済を意のままに動かすことは難しくなった。中国も党が企業に直接命令を下せば、経済を自在にコントロールできるという保証はない。
また、かつての日本もそうであったように、先進諸国へのキャッチアップが進めば、経済成長の速度が鈍化するのは避けられないし、人口が減少に転ずることや高齢化が急速に進むことも同じである。
しかし、西欧型社会でないという理由だけで、必ず経済が崩壊したり、経済発展が止まったりすると考えるのは、資本主義は必ず崩壊するという予測が実現しなかったように、教条主義的に過ぎる。
一帯一路のような構想の下に、市場規模の大きさを武器に国際社会への影響力を増していくことは確実で、「トップレベルの総合国力と国際的影響力を有する国になる」という宣言が実現する可能性は十分あると考えて対処すべきだ。
3――先進諸国の課題
先進諸国経済が抱えている第一の問題は、経済の不安定さだ。リーマン・ショックで大きく揺らいだ先進国経済を見れば、先進国型の経済は目指すべき理想でないのではないかという疑念が頭をもたげ、より安定的な経済発展の道を求めて民間の経済活動を統制しようという考えに至る国が出てくるのも不思議ではない。
経済を全くルールの無い市場競争に任せたのではうまくいかず、適切な政府の関与なしには市場は期待されたようには機能しない。
1980年頃からのレーガノミクス・サッチャリズムや計画経済諸国の崩壊の中で、何でも政府の介入は少なければ少ないほど良いのだという単純な考え方が広まったが、見直しが必要ではないか。
第二は、格差の拡大という問題だ。中国やロシアが先進諸国よりも著しい格差を抱えた経済であることは間違いない。しかし、日本や欧米経済の格差拡大も生活不安を感じる人たちを増加させており楽観できるものではない。
このまま格差の拡大を放置すれば、社会が分断されて不安定化してしまう恐れもある。経済格差の拡大は、先進諸国の経済成長の低迷や不安定化の原因になっているという指摘もあり、問題解消にもっと積極的に取り組む必要がある。
筆者は、言論が統制され経済活動の隅々まで統制された息苦しい社会よりも、自由や平等、民主主義、法による支配を基礎とした社会が広がって欲しいと思う。
資本主義諸国が計画経済諸国をはるかに超える経済発展を遂げて見せることで、資本主義対計画経済の対立は終わった。我々の社会が抱えている問題を改善し、他の社会システムよりもはるかに優れたものであることを示すことが、一見遠回りのようだがその最短の道だと考える。
関連レポート
(2017年10月30日「エコノミストの眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
経済研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー