自動運転の普及とMaaS-完全自動運転が普及した社会とまちづくり。その3:研究員の眼

具体的な利用状況を想定しよう。
Rick Scuteri / Reuters

自動運転を強力にサポートするのは、土木構造物としてのインフラではなく、MaaS(マース)というシステムである。これは、新たな交通インフラと言ってもよい。MaaSはMobility as a Serviceの略で、直訳するとサービスとしての移動手段、移動のサービス化になるのだが、これでは何のことかピンとこない人がほとんどだろう。

簡単に説明すると、移動に関する様々なモノやサービスがMaaSのシステムにつながり、需要に対して最適な移動サービスが提供されるというものだ。

どこかへ行きたいというニーズに対し、その時点で運行されている様々な公共交通、例えば乗り合いバス、タクシー、ライドシェアサービスなどから最適な手段の組み合わせを選び出して手配してくれる。

具体的な利用状況を想定しよう。

例えばAさんが、「かかりつけの診療所で診察した後、薬局で薬を受け取ってから夕飯用の買い物をして帰ってくる」という要求をスマートフォンのアプリに入力したとしよう。すると、ライドシェアサービスのクルマがすぐに家の前に来る。

診察を終えて診療所を出ると、そこには調剤薬局の移動販売車が薬を用意してくれている。薬を受け取って横断歩道を渡ると、ちょうどいいタイミングでバスが到着するのでスーパーの前までこれで行く。買い物を終えるとライドシェアサービスのクルマがやってくるので乗ると、そこには旅行帰りの仲のいいお隣さんが搭乗しており、おしゃべりしながら一緒に帰る。

移動に要する費用はアプリに入力した時点で通知され、全ての決済が一括で済む。この際MaaSのシステムは、Aさんの要求のみに応えてこうした移動サービスを提供するのではない。要求を入力した時点で、他の多くの利用者の要求を考慮し、各利用者に最も迷惑がかからず、利用者それぞれの目的を無理なく達成できる方法が提供される。

しかもそれはリアルタイムに行われており、その時点の交通状況に柔軟に対応して最適なサービスが選択される。Aさんの診察が長引けば違ったコース、異なる移動手段が手配されて、帰路をシェアするのがお隣さんではなく、同じマンションのママ友になったりするのだ。

自動運転とMaaSの組み合わせで、現在に比べ移動における無駄が大幅に削減できる。環境的にも、経済的にも重要な役割を果たすことになるのである。

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(2018年3月28日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 准主任研究員

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