利回り低下が継続するヘッジ付き米国債:基礎研レター

厳しい状況がしばらく継続するものと予想される。
Bloomberg via Getty Images

米国10年国債の為替リスクを3ヶ月間ヘッジしたヘッジ付き米国債について、2018年2月末時点での利回り(年率)を計算すると0.32%であった。ヘッジ付き米国債の利回りは、2016年11月の米国大統領選挙後に上昇に転じて、2017年1月末には0.99%にまで回復したが、その後は低下傾向が継続している(図表1)。

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米国10年国債利回りを見ると、2018年に入ってから上昇傾向にある。2017年1月末時点(2.45%)との比較でも、2018年2月末時点では2.86%で、米国債利回りの水準そのものは高くなっている。よって、ヘッジ付き米国債の利回りが低下している原因はヘッジコストにある。

ヘッジコストを計算すると、2017年1月末時点は1.46%、2018年2月末は2.54%であった。つまり、この期間において米国10年国債利回りは0.41%上昇している一方で、ヘッジコストは1.08%上昇している。

米国債利回りよりもヘッジコストの上昇幅が大きいという状態は、円金利がそれほど変動していないことを考慮すると、米国において長期金利よりも短期金利の方が上昇した(イールドカーブがフラットニングした)ことで、ヘッジ付き米国債利回りが低下しているとも解釈できる(図表2)。

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ヘッジコストの変動を内外金利差(*1) の要因と内外金利差以外の要因に分けて分析すると、2017年1月末と2018年2月末の比較で、内外金利差の要因は+1.03%の寄与、内外金利差以外の要因は+0.05%の寄与であった(図表3)。

よって、ヘッジコストの上昇を主に牽引しているのは、FRBの利上げに伴う米ドル金利と円金利の内外金利差の拡大である。2018年もFRBによる数回の利上げが予想されており、日本の金融緩和政策の継続も予想される中で、今後も内外金利差が拡大することによって、ヘッジコストも上昇していくものと考えられる。

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一方で、内外金利差以外の要因については、現在のところ内外金利差の要因と比べて、ヘッジコストの上昇にそれほど寄与していないが、今後は無視できない程度で影響を与える怖れがある。ヘッジコストの内外金利差以外の要因は、米ドルの短期金融市場における需給の環境と連動しているものと考えられる(*2) 。

図表4は、米ドルの短期金融市場におけるOISスプレッド(3ヶ月LIBORと3ヶ月OISの差分)から円の短期金融市場におけるOISスプレッド(3ヶ月LIBORと3ヶ月OISの差分)を差し引いたものである。この数値が大きくなると、米ドルの短期金融市場が円の短期金融市場と比較して需給がタイトになっていることを示している。

FRBは2017年10月よりバランスシートの縮小に着手している。バランスシートの縮小は金融引き締めの効果があり、米ドルの短期金融市場における需給の環境をタイト化させると考えられるが、図表4を見ると、徐々にそのタイト化の兆候が現れつつあるようである。

米ドルの短期金融市場のタイト化が本格化してくると、内外金利差以外の要因もヘッジコストを上昇させるものと予想される。

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以上より、ヘッジ付き米国債投資にとって、厳しい状況がしばらく継続するものと予想される。

ヘッジ付き米国債の利回りが回復するには、少なくとも「米国債イールドカーブのスティープニング」「内外金利差が縮小することによるヘッジコストの低下」「内外金利差以外の要因が縮小することによるヘッジコストの低下」のどれかが生じることが必要となる。

日米の金融政策の方向性が異なる環境下にあることから、最近の米国債利回りの上昇トレンドに一定の目処がついた際に、イールドカーブがスティープニングしたのかどうかが、ポイントになってくるものと思われる。

(*1) 本稿では、米ドルLIBOR(3ヶ月)と円LIBOR(3ヶ月)の差を内外金利差としている。

(*2) 詳しくは、「通貨スワップ市場の変動要因について考える-通貨スワップの市場環境が与えるヘッジコストへの影響」(ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2016年10月19日)等を参照されたい。

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(2018年3月12日「基礎研レター」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 准主任研究員

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