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2018年05月09日 12時45分 JST | 更新 2018年05月09日 12時45分 JST

ベンチャー投資をする上で、知っておきたいこと:研究員の眼

ベンチャー企業も投資家・株主を選ぶ。

fizkes via Getty Images

(はじめに)

筆者がかつてベンチャー・キャピタリストだった2010年頃、日本のベンチャー業界にはリーマンショックの影響が色濃く残っていた。厳しい事業環境の中、資金調達が出来ずに事業継続をあきらめた起業家・経営者も多かった。

苦しいのは投資する側のベンチャーキャピタルも同様で、中には投資活動を縮小し、新規投資を凍結するベンチャーキャピタルもあった。当時は新規上場数もさほど多くない上に、リーマンショック前の好況期の高値掴みが原因で、投資先が上場に至っても十分に投資パフォーマンスを上げられないことさえあった。

それから8年超、時代は変わった。アベノミクスで株式市場が盛り返し、新規上場数は大きく改善した。異次元緩和を背景に、投資資金はリターンを求めてベンチャー投資に向かっている。そして、AI・ビッグデータ等の最新技術に一層の注目・話題が集まり、「Society5.0」のような政策も追い風だ。

こうした流れを背景に、大企業によるベンチャー企業への出資・資本提携が増えている。また、大企業が設立したコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)も増えてきた。

過去は、IT系の企業がベンチャー企業への出資に取り組む事例が多かったが、足もとでは、IT系ではない、いわゆる伝統的大企業もベンチャー投資に取り組む事例が増えてきた。

ベンチャー企業を取り巻く環境が好転したことは、非常に喜ばしいことだ。一方で、初めてベンチャー企業への出資や資本提携を検討する等、付き合いを深めていく中で、戸惑いを感じる企業の担当者もいると思う。そこで、ベンチャー投資をする上で知っておきたいことについて触れてみたい。

(ベンチャー企業も投資家を選ぶ)

まず、前提として理解しておかねばならないのは、「ベンチャー企業も投資家・株主を選ぶ」ということだ。資金の出し手側が有利な立場だと考えてしまうが、必ずしもそうではない。

当然だが、有望なベンチャー企業ほど出資を希望する投資家が集まる。一方で、ベンチャー企業の経営者・創業者にとっては、ただ資金を多く集めればよいというわけでもない。外部から資本を募ると自らの株式持分を希薄化させる。経営権の安定には一定の株主持分が必要だ。

また、将来の企業価値が何倍にもなるのであれば、少しでも経営者自身の持分は大きくしたい。企業価値が小さいうちに、低い株価で持分を多く取られることには抵抗もある。

有望なベンチャー企業ほど、闇雲に資金を集めるのではなく、然るべきタイミングで、然るべき金額を、少しでも有利な条件で集められるように資本調達の計画を練っている。投資家は、こうして設定される「限られた枠」を取り合わねばならない。資金さえあれば買うことができる上場株式とは少し違う。

昨今のような「売り手市場」の中、強気で出資交渉に望めるベンチャー企業も少なくない。出資金額の多寡、株価等の出資条件、営業面や経営面でどのようなサポートやノウハウを提供してもらえるのか、信頼できる担当者か、といった点も踏まえて資金の出し手も選別されるのだ。

(ベンチャー企業に選ばれるには)

当然、ベンチャー投資には、玉石混交の中から、有望な企業・経営者を発掘する「目利き力」がまずもって重要だ。しかしながら、「選ぶ力」だけでなく「選ばれる力」も重要だ。かつて、お世話になった経営者・先輩キャピタリストからご指導いただいたことも踏まえて、2つの点に触れてみたい。

(1) 投資した後の経営支援

ベンチャー企業は、大企業と比べるとヒト・モノ・カネといったリソースが圧倒的に足りない。選べるのであれば、経営支援力のある投資家を選びたい。経営戦略上のアドバイス、顧客紹介等の営業サポート、有力な人的ネットワーク、協業等、期待することは多い。

ベンチャー企業には、困難にぶつかってうまくいかない時期が必ずといってよいほどある。そんな時こそ、投資家の腕の見せ所なのだ。ただ、資金を提供するだけで、投資リターンや情報だけを得ようとするのではなく、一緒になって成長をサポートする姿勢が試されている。

(2) 迅速な意思決定

意思決定の遅さは敬遠される。ベンチャー企業の成否は経営者によるところが非常に大きい。彼らは会社の成長のため日々走り回っている。投資家の検討・評価(デューデリジェンス)のために、貴重な時間を捻出して、資料やデータを情報開示し、ヒアリングに応じている。

資金の出し手側、とりわけ大企業は、調査・分析に時間をかけ、リスクを洗い出し、社内の根回しをしっかりした上で決裁プロセスを経たいと考えるのだが、過度にベンチャー企業やその経営者をデューデリジェンスで振り回してしまうと、その企業価値を毀損しかねない。

大企業であれば、現場に近い責任者に一定の投資枠を持たせて権限委譲する、経営陣直轄のプロジェクトチームで検討する、といった迅速な意思決定が取れるような仕組みを整えられると望ましい。

「選ぶ力」だけでなく、「選ばれる力」があって、初めて良い投資機会に恵まれる。ベンチャー業界は「ムラ社会」、一度悪評が立ってしまうと、敬遠されて投資のチャンスを失ってしまうこともある。ベンチャー企業にとって、より魅力ある資金の出し手が増えることを期待したい。

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(2018年1月6日「研究員の眼」より転載)
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