「マーケットシェア」の意味するものは何か?-電気・電子産業における有力「下請企業」の出現等の構造変化に着目して:基礎研レター

大きな構造変化の背景としては、特に、電気・電子分野におけるモジュール生産化の流れが大きなファクターとなっている。

私たちは、スマートフォンやテレビなどを話題にする時に、「どの会社のマーケットシェアが大きいか」「マーケットシェアでの業界内の順位はどうか」などといった表現をする。

しかし、近年の業界構造の変化をみるとその様相は大分変わってきているようだ。本レポートでは、電気・電子産業を中心にその状況を述べることにする。

1――電気・電子産業の有力企業と業界内での構造変化

図表-1は、スマートフォン・薄型テレビ・パソコン・半導体の世界シェアであり、韓国、米国、中国、台湾の有力企業の存在感が大きいことがわかる。私は、これを「表のマーケットシェア」と読んでいる。しかし、もう少し業界の構造を分析してみると興味深い事実が現れてくる。

例えば、スマートフォンについて、首位のサムスンは設計・開発・デザインから製造・販売等の一連のプロセスをほぼ自社でおこなっているが、2位のアップルは、自ら製品(iPhone)の製造は行っていない。パソコンについても、上位企業のほとんどが製造工程を他社に委託している。

さらに、中核的な部品である半導体についても、米国のクアルコムやブロードコムなど大手も製造を他社に委託している。

今や、こういった製造工程(工場等の生産設備)をもたない企業は「ファブレス」と呼ばれており、一方、製造を他社から請け負う電気・電子分野の企業は「EMS」(Electronics Manufacturing Service)、特に半導体に関しては、「ファウンドリ」と呼ばれる。

例えば、人気のゲーム機器の製造にEMSを活用している著名な企業として、任天堂・ソニー・マイクロソフト等がある。

2――有力「下請企業」の出現とその背景、生産方式の変化

かつての電気・電子産業においては、有力企業が大規模な「発注元」であり、OEM(Original Equipment Manufacturing)などと呼ばれる受託製造企業や、部品メーカーは、小規模な「下請」という図式が中心であった。

この点に関連して、「スマイルカーブ」という考え方が広く流布され、設計・開発・デザインや販売・マーケティング・サービスと比べ、製造・組み立て工程の収益性は低いとされていた(図表-2)。

しかし、近年の大手EMSやファウンドリの状況は、小規模で利益の少ない「下請企業」のイメージとは大きく異なるものとなっている。

図表-3のように、EMSで、当該受託製造分野で世界シェアの約4割を占める鴻海精密工業(1974年設立)、半導体ファウンドリ企業として、同分野で約6割のシェアを有する台湾積体電路製造(TSMC:1987年設立)という台湾の大手企業二社の業績・業容は、米韓日の大手電気・電子企業に比肩するものとなっており、これら大手の受託製造企業が、実態面での大きなマーケットシェアを占めているといえよう。

我々が「XX社製」と思って日常使っているスマートフォンやパソコン、家電製品、その中の重要部品である半導体の多くを製造しているのは、これらEMS・ファウンドリである。

スマイルカーブで示されるように、製造・組み立て工程の収益性は低いが、世界中の多くの企業から大量に受注し、そのコントロール下で、世界各地から様々な部品を調達し、近代的・大規模な工場・設備(その多くが中国に所在)を有する仕組みによって大きな規模の利益を享受している。

このような状況は、かつての「発注元と下請」という上下的な関係から、「発注元とEMS・ファウンドリ」という、より対等な関係に変化している(TSMCをテーマに取り上げたNHK(BS1)の2013年7月4日放映の番組「島耕作のアジア立志伝」では「下請けが世界を変えた」とも表現されている)。

上記のような様々な発注元企業からの受託を可能にする大前提は、高い技術力と大きな生産規模・能力に加え、発注元各社の情報の徹底した管理・守秘である。

一方、発注元企業としては、自社で生産設備を持つことが不要となり、コスト面や、素早いモデルチェンジ・新製品の発売面でのメリットがあり、特に資本力が小さく設計・開発・デザインなどのアイディアで勝負したいベンチャー企業の発展に寄与しているといえよう。

このような大きな構造変化の背景としては、特に、電気・電子分野におけるモジュール生産化の流れが大きなファクターとなっている。

「モジュール生産」(組み合わせ生産)とは、規格に合った部品やモジュールを世界中の部品メーカーから外部調達し、組み合わせて最終製品を造る方式であり、部品の標準化が進み、様々なメーカーの部品を組み合わせられる(国際的な)「水平分業モデル」の実現に大きく寄与している(この点で、従来の「垂直統合モデル」の下での「インテグラル生産」(すり合わせ生産:部品やモジュールを独自に設計し、発注元と部品メーカーが互いに調整しながら組み合わせる方式)とは一線を画している)。

近年は、大手EMS・ファウンドリは単なる製造工程だけにとどまらず、設計など上流工程やサービス等にも業容を拡大しつつあり、また、鴻海精密工業のように、歴史ある大手メーカーであるシャープを買収するという動きも見られている。

電気・電子産業における上記のような変化の中で、今後、企業間関係や大手プレーヤーの勢力図がどのような変化を見せるのか、また、インテグラル生産の代表とされる自動車産業において、電気自動車という家電製品的な製品の増加・普及というトレンドにおいて、今後、モジュール生産化や製造・組み立ての委託といった流れが加速するのかは、関心を持って注視すべき重要なポイントであろう。

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(2017年4月27日「基礎研レター」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

保険研究部 アジア部長

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