現在のイールドカーブの形状は大きく歪んでいる。イールドカーブとは、期間の異なる金利をつないで金利と期間の関係を表した利回り曲線のことである。期間が長くなれば様々なリスクが発生することから、一般的には期間が長い程金利が高い。
現在の国債イールドカーブの形状は、期間1年、10年、20年の順に金利は概ね0.01%、0.3%、1.1%となっている。この数値を見て、少しおかしいと感じるだろうか。期間が長くなるに従い金利が高くなっているので、正常な状態にも見えるが、その差に注目していただきたい。
期間1年と10年の金利差は約0.3%であるのに対し、期間10年と20年の金利差は約0.8%と、その差は拡大している。これの何がおかしいのか。
イールドカーブが形成される理由には、3つの仮説があると言われている。1つ目は流動性プレミアム仮説で、期間が長くなると将来金利が変動して損失を被る可能性が高くなるため、その分投資家が求める金利プレミアムが高くなるというもの。
長期金利は短期金利よりも運用期間が長く、流動性の制約を受け、価格変動も大きい。そのため、長期金利にはリスクに応じた金利プレミアムが付与されていると考える。
2つ目は純粋期待仮説で、長期金利は短期金利の将来予測により決まるというもの。例えば、1年金利が1%で2年金利が2%だった場合、1年後の1年金利は3%になるとマーケットは予想していると考える。1年金利1%と1年後の1年金利3%を合計した場合と、2年間通して金利が2%だった場合の効果(利息)は同じと考えられるからである。
将来、金利は上昇すると考える人の方が多いため、長期金利は短期金利より高くなると考えられている。
3つ目は市場分断仮説で、短期金利と長期金利は別々の市場で、その間には裁定も働かないというもの。投資家には運用期間や許容できるリスクなど、それぞれの立場に応じて制約がある。そのため、決められた期間の債券以外には投資しないという投資家もあり、投資家が存在しない期間の金利は高くなる。
短期で運用する投資家の方が長期で運用する投資家よりも多いため、長期金利は短期金利より高くなると考えられている。
どれもイールドカーブが右肩上りになる根拠が述べられているが、流動性プレミアム仮説では、期間比例以上にリスク(損益のブレ、流動性など)は増えないと考えられる。損益のブレなどは損失と利益が相殺されることもあるからである。そのため、現在のイールドカーブの形状を流動性プレミアム仮説で説明することは難しい。
一方で、純粋期待仮説は、近い将来より遠い将来の方が金利は大きく上昇すると考えるのであれば、説明可能となる。また、市場分断仮説は、期間の短いゾーンと長いゾーンで別々の投資家がいて、現在は短いゾーンの投資家が極端に多い(日銀など)と考えるのであれば、説明可能となる。
そのため、現在のイールドカーブは流動性プレミアム仮説では説明が難しい。そうすると、流動性プレミアム仮説で考えられていた、期間に対応するリスクに不均衡が存在し、裁定の機会が存在する。
つまり、現在のイールドカーブはいずれ元の形状(右肩上りだが、期間比例以上に金利が上昇しないイールドカーブ)に戻ると考えられる。
このように、現在のイールドカーブは全ての仮説で説明できる形状になっていないが、その最も大きな要因は日銀が期間の短いゾーンの国債を大量に購入しているためである。現在のようにイールドカーブが歪み始めたのは2008年10月頃からで、日銀が金融緩和政策に転換した時期とほぼ一致している。
従って、今後、日銀が出口戦略を検討する際はイールドカーブの形状が大きく変化する可能性があり、注意していく必要がある。
関連レポート
(2015年3月23日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 主任研究員