言っていいことが、明日には言って悪いことになる。

この記事は見出しを読めば、はは〜んあの件やその騒動のことね、と誰でも想像つくだろう。あるいは画像の上にカーソルを載せると出てくるいくつかのリンク先を見てもらってもいい。このところ続々起こったCMの放送中止やドラマへのクレームの嵐についての話だ。

この記事は見出しを読めば、はは〜んあの件やその騒動のことね、と誰でも想像つくだろう。あるいは画像の上にカーソルを載せると出てくるいくつかのリンク先を見てもらってもいい。このところ続々起こったCMの放送中止やドラマへのクレームの嵐についての話だ。

CMの件では「えー!!そのギャグもダメなのー?」「キャラがいけないって意味わかんない!」と驚いた。クレームの意図が理解できなかったからだ。そんな表現までクレームがつく世の中になっているとはと愕然とした。

ただ、放送中止はけしからんとか、クレームつけるなんてひどいとか、あらためて書くつもりはない。その手の話はすでにさんざん出たことだし、ここで書きたいのは少し方向が違う話だ。

そもそも、表現とは不自由なものだとぼくは思う。

もちろん、ぼくたちは何を言ってもいい。表現は自由だ。ただし、自由とセットで責任もつきまとう。表現は自由だけど言ったことについては責任を持たなきゃな、ということだと思う。責任を持つ覚悟があるなら自由だよ、と。

例えば十年ぶりに会った友人の頭からすっかり髪の毛が消えうせていても「久しぶり!いやー、すっかりつるっつるになっちゃったねー!つるっ○○!」と思ったことをそのまんま口にしたら、それまでのつきあいによっては、もう二度と会えなくなるリスクを負う。上司にFacebookのはじめ方を質問された時「そんなことも知らないんだ!遅れてるなあ!」と思ったからと言ってそれを口にしたら、査定に響く危険がある。

憲法には「表現の自由」と書いてある。でも決して「誰が誰に対して何を言ってもかまわない」という解釈はしない方がいいと思う。だって条文はこれだ。

第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

「表現の自由」を語るのに「集会、結社及び言論」となっている。これはつまり、政治的な意味での表現が前提になっていて、主に国家権力に対しての表現の自由なのだと言えるだろう。だからこそ第2項で「検閲」や「通信の秘密」が出てくるのだ。国家と国民の間の約束であり、国民同士にそのまま適用できない。

もちろん憲法にどう書かれようが、表現は自由だ。ぼくたちが何をするのも自由なのと同様に、表現も自由なのだ。その代わり、言ったことには責任がついてまわる。責任を考えず自由に表現していると友人に嫌われたり上司にマイナス査定を食らう可能性がある。そんなリスクを背負った上での、表現の自由なのだ。

少なくとも表現の自由には"範囲"があるのだ。

そして表現の自由の"範囲"は時代や状況、立場によって変化したりする。その変化が突然だったり極端だったり背景が見えなかったりするので、昨日まで言ってよかったことが、突然言って悪いことになって戸惑う。

ただ、いまその"範囲"について急激に過敏になっている。そこが問題だと思う。"○○○とはいかがなものか"と何かについて誰かが言い出す現象が増えている。ほら!あいつがまずい表現をした!とチェックしたがる風潮。検閲する公権力はいないのに、お互いに検閲しあっているような状況になっている気がする。

それをソーシャルメディアが加速してしまっている。誰かがぽろりと言った"いかがなものか"を、その通り!と最初の人が意図した以上に拡散したりする。ちょっとした一言が大炎上になりかねない。

だから、お互いに落ち着いた方がいいのではないかと思う。クレームをつけるのは自由だけど、「けしからん!即刻中止」と言う前に「考えられたし」でとどめるとか。言われた側も「はい、すいません」と謝る前に「じっくり検討してご回答します」とするとか。少なくともいきなりやめてしまわないようにできないものかと思う。

その上で、理想はお互いによく話し合うことだと思う。できれば直接。どこがまずいのでしょうか。どうすればいいのでしょうか。直に会って話し合えば、解決点が見いだせるかもしれないし、より良い表現に向かうかもしれない。ガイドラインをつくるとかね。

クレームをつけた側は話し合いを避けてはいけない。クレームをつける行為はけっこう重みがあることだ。クレームをつけた責任というものがあるはず。堂々と話し合いに応じるべきだと思う。

言いたいことだけ言いやすくなっている。言いたいことだけ言いあっていてもあんまりいいことにならない。言いたいことは面と向かってぶつけあう。そうなっていけば、表現とクレームの問題は"前へ進む"ことができるんじゃないだろうか。クレームがついたらそれを避けて通るように表現をやめてしまうのではなく、クレームに向き合う時代になっていけばいいなと思う。

BeeStaffCompanyのアートディレクター・上田豪氏と一緒に続けているビジュアル付きのシリーズ。今回もStippleの仕組みを使ってリンクを画像に埋め込んでいる。そして今回は上田氏の部下・Sくんがモデルとして登場。アナウンサーのイメージで演じてくれた。BeeStaffに来てくれれば、実物のSくんに会えるのでどうぞお越しを。

コミュニケーションディレクター/メディアコンサルタント

境 治

sakaiosamu62@gmail.com

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