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2018年12月26日 11時32分 JST | 更新 2018年12月27日 15時58分 JST

「糖質オフ」のお酒なら、糖尿病でも大丈夫?

日本人は比較的やせていても糖尿病になりやすい特質を持っているので「糖尿病予防は節酒が基本」。

Manmarumaki via Getty Images

「糖質ゼロ」や「糖質オフ」のお酒が人気です。特にビールや発泡酒でよく見かけます。もちろん、それだけ血糖値や体重を気にする人が多いということでしょう。

 でも、本当に「糖質オフ」ならダイエットに有効で、糖尿病の人でも飲んでも心配ないのでしょうか? 

 さまざまな健康情報の信憑性を、世界中の膨大な栄養学の論文から読み解いて解説した話題の本『データ栄養学のすすめ』の著者の佐々木敏さんに、「飲酒」と「糖尿病」の関係について、意外な話を教えてもらいました。

「お酒」を飲めば、必ず血糖値は上がる?

――しばらく前から、お酒売り場で「糖質ゼロ」「糖質オフ」という表示をよく見かけるようになりました。それだけ糖質、つまり血糖値や体重を気にしている人が多いのでしょう。そもそもお酒を飲むと、どのくらい血糖値が上がるのですか?

佐々木 お酒の種類によって違います。

 お酒の「エネルギー(カロリー)」は、お酒に含まれる「糖質」と「アルコール(エタノール)」の合計です。太るかどうかはこれで決まります。一方、「血糖値」に関してはアルコール(エタノール)はほとんど影響がなくて、お酒の中の「糖質の量」だけで決まります。

――その「糖質の量」が、お酒の種類によって違うわけですね。

佐々木 はい。お酒のエネルギーのなかでの「糖質(炭水化物)の割合」は、下の図の通りです。

――ずいぶん差があるんですね。とくに焼酎の0%に対して、ビールで割合が高いのが目立ちます。

佐々木 焼酎と同じ蒸留酒なら、ウイスキーでもウオツカでも糖質の割合は0%です。ビールは飲む人が多く、糖質の割合が高いので、「糖質ゼロ」「糖質オフ」のビール系飲料が人気なのでしょう。

――「糖質ゼロ」や「糖質オフ」なら、血糖値が気になる糖尿病の人でも安心して飲めるというわけですよね。

佐々木 いや、そういう単純な話ではないのです。

「お酒の種類」によって差がある

佐々木 お酒の種類別に、習慣的な飲酒量と糖尿病の発症率との関連を調べた研究を、まとめたのが次のグラフです(※1)

――これは、「糖質」を含まない蒸留酒よりも、「糖質」を含むワインを飲んでいる人のほうが、糖尿病にならない、ということですか?

佐々木 はい。「糖尿病を予防してくれるお酒」の筆頭は「ワイン」という結果だったのです。ビールでも少し下がっていますが、水色の部分が1.0を下まわっていないので、統計学的には下がる、つまり予防してくれるとはいえません。

 そして、蒸留酒には予防効果はほとんどなく、飲み過ぎると逆に糖尿病になりやすくなることもわかります。

――「糖質」から予想された結果とは、ずいぶん違いますね...。

佐々木 ここで思いつくのは、「糖尿病を予防してくれる何か」が、ワインに入っているのではないか、という推測です。たとえば、強い抗酸化力を持った「レスベラトロール」が候補物質の一つとしてあげられるなど(※2)、研究が進められています。

――レスベラトロールは、よく話題になる「ポリフェノール」の一種ですよね。

佐々木 でもここは、ちがう側面からも考えてみたいのです。

予防できたのは「お酒を飲んだから」ではなくて...

佐々木 ワインは食中酒です。レスベラトロールなどの「ワインの中の秘密の物質」のおかげではなく、ワイン好きの人たちがよく食べる「ワインに合う料理」や、ワイン好きの人たちの「食べ方」のほうに秘密があるのかもしれません。

――ワインそのものではなく、「ワインを飲む人の習慣」に着目するわけですね。

佐々木 じつはこれについては、前著の『佐々木敏の栄養データはこう読む!』の中で、ワインによる循環器疾患、特に心筋梗塞の予防効果を考えたときにも推測しました。これからの研究に期待したいところです。

――ワインを飲めば即、健康に...などという単純な話ではないわけですね。

佐々木 お酒は嗜好品です。宴会やパーティに象徴されるように、社会的な役割も担っています。そのために、お酒を飲む人と飲まない人、少しだけ飲む人と大量に飲む人の間には、アルコールの摂取量以外にも、日々の生活習慣や健康に対する意識など、異なる社会的要素がたくさんあり、それらが複雑にからみ合っているであろうと想像されます。このことが、お酒と糖尿病との関連を、とても複雑なものにしてしまっているのです。

太っている人は、お酒を飲んでも糖尿病にならない?

佐々木 ワインの摂取量と糖尿病の発症率の関連の強さは、研究によってかなり差があるようです。たとえば、フランスで女性およそ7万人を対象に行なった研究では、次のような結果でした(※3)

●ワインを飲んでいた人たちは、お酒を飲まない人たちに比べて、糖尿病の発症率が4割以上も低い

●ただし、これは肥満女性に限った話で、太っていない女性では、ワインは糖尿病の予防になっていない

――ワインで糖尿病になりにくくなったのは、「太った女性だけ」ということですか?

佐々木 そうです。この研究は女性だけを調べたので、「男性ではどうか」まではわかりませんが、少なくとも、「ワイン⇨糖尿病予防」と考えてはいけないということはわかります。現時点では、ワイン好きはなぜ糖尿病になりにくいかの答えも、ワインで糖尿病が予防できるかどうかの答えも、結論はまだ出ていないのです。

 最後に一つ、日本で行なわれた研究を紹介しましょう。飲酒習慣と糖尿病の発症について、肥満度の違いで比較しました(※4)。こちらには男女とも含まれています。

佐々木 日本人では、太った人もそうでない人も、飲酒は糖尿病を予防してくれませんでした。しかも、太っていない人は、飲酒量が増えるほど糖尿病の発症率が増えています。

――肥満ではない、やせぎみの人ほど、飲酒に気をつけなければいけない、ということですね。

お酒は「糖質オフ」でも、ほどほどに

佐々木 以上の話から言えるのは、次のようなことでしょう。

●糖尿病になりたくなかったら、やせぎみの(太っていない)人はできるだけお酒を控えるべき

●太っている人も、お酒では糖尿病の「予防」はできないと考えるのが無難

●飲みすぎ食べすぎでさらに太れば、その結果として糖尿病になる

 そもそもヒトの体は、「糖質が少ない⇨血糖が上がりにくい⇨糖尿病にかかりにくい」というような単純なものではありません。さらに、糖尿病には危険因子(リスク要因)も予防因子もたくさんあります。その合計が、あなたの「糖尿病発症確率」です。

 たまにしかお酒を飲まない人なら、何を飲んでも、糖尿病の発症率は事実上ほとんど変わらないでしょう。一方、お酒好きで毎晩楽しんでいたり、飲み始めたらかなりいけてしまったりする人だったら、無視できないかもしれません。

 そして、後者の人が「糖質が少ない⇨血糖が上がりにくい⇨糖尿病にかかりにくい」と考えてしまったら、たいへんなことになりかねません。糖質を含まない蒸留酒でも糖尿病のリスクは上がりますし、そもそも日本人では、飲酒は糖尿病を予防しませんでした。

 ぼくもお酒は好きなので、ちょっと残念な幕切れですが、やはりお酒は健康を求めて飲むものではなく、料理を引き立て会話を盛り上げてくれる名脇役として楽しむものなのでしょう。

 日本人は、比較的やせていても、糖尿病になりやすい特質を持っています。「糖尿病予防も節酒が基本」と考えるのが、現時点では最も確かなようです。

◎実験の詳細については、佐々木敏『データ栄養学のすすめ』(女子栄養大学出版部)も参照してください。

構成/鈴木充

出典 

※1 Huang J, et al. Specific types of alcoholic beverage consumption and risk of type 2 diabetes: A systematic review and meta-analysis. J Diabetes Investig 2017; 8: 56-68.

※2 Chiva-Blanch G, et al. Effects of red wine polyphenols and alcohol on glucose metabolism and the lipid profile: a randomized clinical trial. Clin Nutr. 2013; 32: 200-6.

※3 Fagherazzi G, et al. Wine consumption throughout life is inversely associated with type 2 diabetes risk, but only in overweight individuals: results from a large female French cohort study. Eur J Epidemiol 2014; 29: 831-9.

※4 Waki K, et al. Alcohol consumption and other risk factors for self-reported diabetes among middle-aged Japanese: a population-based prospective study in the JPHC study cohort I. Diabetic Med 2005; 22: 323-31.

佐々木敏(ささき・さとし)医学博士。国立がんセンター研究所支所、国立健康・栄養研究所などを経て2007年より現職。女子栄養大学客員教授。「科学的根拠に基づく栄養学」を提唱し、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」策定において中心的役割を担う。著書は『わかりやすいEBNと栄養疫学』、『佐々木敏の栄養データはこう読む!』『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』ほか。月刊誌『栄養と料理』で「佐々木敏がズバリ読む栄養データ」連載中。

くわしくはぜひ本書をお読みください。ツイッターでも情報発信を行なっています。

佐々木敏のデータ栄養学のすすめ」(女子栄養大学出版部 定価 本体2600円)

姉妹書『佐々木敏の栄養データはこう読む!』(定価 本体2500円)