裁判員制度「市民からの提言2018」<提言④>裁判員だけではなく、裁判員裁判を担当した裁判官も判決後の記者会見を行うこと

裁判員制度「市民からの提言2018」<提言④>裁判員だけではなく、裁判員裁判を担当した裁判官も判決後の記者会見を行うこと

裁判員制度は5月21日でスタートから丸9年となり、制度開始10年目を迎えます。裁判員ネットでは、これまでに345人の市民モニターとともに650件の裁判員裁判モニタリングを実施し、裁判員経験者からのヒアリングも実施し、裁判員裁判の現場の声を集める活動を行ってきました。この「市民からの提言」は、裁判員制度の現場を見た市民からの提案です。裁判制度の現状と課題を整理し、具体的に変えるべきと考える点をまとめました。今回は提言④を紹介します。

<提言④>

裁判員だけではなく、裁判員裁判を担当した裁判官も判決後の記者会見を行うこと

1 現状と課題

⑴ 裁判官が記者会見に応じていた時代

裁判員裁判の判決後、現在は裁判員経験者による記者会見が行われていますが、裁判官の記者会見は行われていません。「裁判官は弁明せず」という言葉もあり、裁判官が記者会見に応じないのは当然だと言われることもあります。

しかし、特定の事件について最高裁長官が記者会見を行ったこともあります。日米安保条約の合憲性が問われた砂川事件では、当時の田中耕太郎最高裁長官が記者会見に応じて、最高裁の15人の裁判官が全員一致だったことを「大変よいことだと思います」、「判決は政治的な意図をもって下したものではないことをはっきり言っておきたい」と答えています。また、記者の問いかけの内容によっては、「合議の秘密ですから、ここからは黙秘権を行使します」と答えているのも注目すべきです。※1

この記者と最高裁長官の応答からわかるのは、裁判官は守秘義務を前提として、記者会見に応じることができるということです。※2

記者会見に応じていたのは、最高裁長官だけではありません。イタイイタイ病の判決後も、富山地裁の岡村利男裁判長が記者会見を行い、「現段階で知ることができるあらゆる学説、資料を十分検討して結論を出した」と答えています。※3

かつては裁判官も記者会見に応じていた時代があったのです。

⑵ 裁判員時代の「司法の常識」

市民が司法に直接参加する裁判員制度が始まった今日、裁判員経験者が記者会見に応じて、裁判員裁判の経験や感想を広く伝えることは重要です。制度開始からこれまでの間に行われてきた裁判員経験者の方々の記者会見が、判決理由に対する「弁明」ではないことは明らかです。

同じように、裁判官もまた裁判員裁判を行った一員として、その経験と感想を伝えることは大きな意義があります。裁判員裁判で何が変わったのか、裁判官としてどのような心構えで裁判員裁判に臨んでいるのかなどを、自分の言葉で語ることは、未来の裁判員に対する大切なメッセージとなり、司法の信頼を向上させることにつながります。

裁判員時代の「司法の常識」として、裁判官もまた自分の言葉で裁判員裁判の経験を語ることが必要なのです。

2 具体的な提案

裁判員経験者に対する記者会見と同様に、裁判員裁判を担当した裁判官も判決後に、記者会見を行うように提案します。裁判員経験者の方々が、裁判官と一緒だと記者会見で答えにくいことも考えられるので、裁判員経験者と裁判官は、判決後、それぞれ別々に記者会見を行うべきです。

※1 朝日新聞1959 年12 月17 日

※2 裁判官の守秘義務は、本文の記者会見当時から次のように定められています。「評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、秘密を守らなければならない」(裁判所法75 条2 項)。「官吏ハ己ノ職務ニ關スルト又ハ他ノ官吏ヨリ聞知シタルトヲ問ハス官ノ機密ヲ漏洩スルコトヲ禁ス其職ヲ退ク後ニ於テモ亦同樣トス」(官吏服務紀律4 条)。

※3 朝日新聞1971年6月30日

裁判員制度「市民からの提言2018」

1.市民の司法リテラシーの向上に関する提言

<提言①>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を理解できるような法教育を行うこと

<提言②>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を遵守するように、公開の法廷で、説示を行うこと

2.裁判所の情報提供に関する提言

<提言③>裁判員裁判及びその控訴審・上告審の実施日程を各地方裁判所の窓口及びインターネットで公表すること

<提言④>裁判員だけではなく、裁判員裁判を担当した裁判官も判決後の記者会見を行うこと

3.裁判員候補者に関する提言

<提言⑤>裁判員候補者であることの公表禁止を見直すこと

<提言⑥>裁判員候補者名簿掲載通知・呼出状の中に、裁判を傍聴できる旨を案内し、問い合わせ窓口を各地方裁判所に用意すること

<提言⑦>裁判員候補者のうち希望する人に「裁判員事前ガイダンス」を実施すること

<提言⑧>思想良心による辞退事由を明記して代替義務を設けること

4.裁判員・裁判員経験者に関する提言

<提言⑨>予備時間を設けることで審理日程を柔軟にして、訴訟進行においても裁判員の意見を反映させる余地をつくること

<提言⑩>裁判員の心のケアのために裁判員裁判を実施する各裁判所に臨床心理士等を配置すること

<提言⑪>守秘義務を緩和すること

5.裁判員制度をより公正なものにするための提言

<提言⑫>裁判員裁判の通訳に関して、資格制度を設けて一定の質を確保するとともに、複数の通訳が担当することで通訳の正確性を担保すること

<提言⑬>裁判員裁判の控訴審にも市民参加する「控訴審裁判員」の仕組みを導入すること

<提言⑭>市民の視点から裁判員制度を継続的に検証する組織を設置し、制度見直しを3年毎に行うこと

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