一般の大学生のITへの興味と30歳未満のプログラマ限定のイベント

日本は、そこまでネットやデジタルに関する関心が高いとはいいがたい。

3月11日開催されたBattle Conference U30

よいエンジニアはよい技術にしか寄ってこない

U30(アンダーサーティ=Battle Conference U30)というイベントがあるというので出かけてきた※1

会場は、港区海岸にあるTABLOIDというとてもオシャレな店舗&イベント施設。夕刊紙などを印刷する工場のあとだそうで、同じ印刷工場あとの海岸スタジオとよく似た雰囲気の建物だ。

さっそく中に入るといかにもネットデジタル系のカンファレンスや勉強会みたいな感じで若いプログラマが集っている。

この業界のイベントなので、参加者の年齢層が若いのはめずらしくはないのだが、今回の「U30」というのは文字どおり30歳未満を意味しているそうだ。

「Under30 エンジニアによる Under30 エンジニアのための技術カンファレンス」だと説明にある。参加無料、定員300人、対象は30歳未満の学生・社会人。土曜日の12時30分にはじまって、最後の懇親パーティの終わりが21時という1日がかりのイベントだ。

イベントの運営が、株式会社サイバーエージェントということで、サイバーエージェントの藤田晋社長による開会挨拶、基調講演としてグノシーの松本勇気氏の「U30な僕らの生存戦略」でスタート。

これに続いて、「トークバトル」(最後に投票でどのトークが最も印象に残ったかで決める)が、午前から午後にかけて合計20セッション。もう1つの会場では、「プログラミングバトル」(こちらは一定時間で問題を解くという典型的なプロコンでした)も行われた。

ゆるく壁で区切られた2つの部屋の双方にステージがあり、自由に行き来できるようになっているトークバトル会場

ところで、ちょっと興味深いのは、このイベントにスポンサーとして、リクルート、サイボウズ、楽天、ヤフー、Retty、GREE、Donutsが、名前を連ねていることだ。

何かのユーザー団体などに揃って協賛とかではなく、いわば同業者同士がプログラマー向けのイベントに相乗りしている構図は、ちょっと新しいのではないか?

昨年10月、ヤフーが新卒の一括採用をやめたと発表したのはニュースになった。これからは、18歳から30歳以下であれば、新卒・既卒を問わず通年採用する方針だというのだ。ご存じのように、この業界はエンジニアの不足が慢性的にいわれている。ここに参加しているような人気ネット企業でも、エンジニア不足という共通した課題を抱えているというのが背景にあるのだろう。

それをイベントとしては、学生向けの説明会や転職フェアなどではなく、自己表現できる場を作って、エンジニアの楽しさを伝えたり、勉強にもなるイベントをやるのはよいことだと思う。よいエンジニアはよい技術にしか寄ってこないからだ。

トークバトルはなかなか盛り上がっている

ディープラーニングのデモをやっていたのはRettyさんのブース

それでは、どのくらいネットやデジタルの業界は人材が不足しているのか? 株式会社リクルートキャリアが今年3月に発表した2017年2月の転職求人倍率では、全体平均が1.82倍の中、「インターネット専門職」が5.38倍の求人倍率である。職種別で1年以上トップが継続しているそうだ※2

株式会社インテリジェンスのDODAが毎月出している求人レポート(2017年3月発表)でも、職種別で、全体平均が2.38倍のなか、「技術系(IT・通信)」は7.13倍と圧倒的に求人倍率1位である。同じく業種別でも、「IT・通信」は、5.80倍とこれも他を大きく引き離して別格の1位となっている※3

2017年2月の職種別転職求人倍率(DODA月次転職求人倍率レポート(2017年2月)より

2017年2月の業職種別転職求人倍率(DODA月次転職求人倍率レポート(2017年2月)より

この傾向はいつから始まったのか? やはりDODAの求人レポートで2008年1月から2016年5月までの職種別、業種別の求人倍率の推移をまとめたデータがある(2013年11月から分類方法を変更したそうなので注意が必要だが)。それによると、2014年頃から「IT・通信」がぐんぐん伸びてきていたことが分かる。

2008年1月~2016年5月の職種別転職求人倍率(DODA月次転職求人倍率レポート(2016年5月)より

2008年1月~2016年5月の業職種別転職求人倍率(DODA月次転職求人倍率レポート(2016年5月)より

リーマンショックの起きた2008年は、日本ではiPhoneが発売になった年でもある。2013年9月に、スマートフォンとフィーチャーフォンの普及率が逆転している。今後、ビジネスにスマートデバイスやIoTがどんどん入り込み、クラウドや人工知能がそれに答える時代になるとすると、このIT・通信の求人倍率、当分は下がりそうもないのではないか? これまでコンピューターで解決できなかった課題にディープラーニングを応用するための仕事もドッサリとある。

ここで、「転職はそうでしょうIT業界は人が動くから」などと指摘されそうだ。大卒者に対してエンジニアの求人はどうなのか? 新卒求人誌の業種別の掲載件数を採用系メディアのHRogが集計していて、2015年、2016年とも「ソフトウェア・情報処理」が、ダントツ1位の掲載数だった※4。大卒求人率的に見ても、この分野の人材を求める声は少なくないと見てよいと考えられる。

この求人倍率の拡大、いま解決しないと本当にまずい

インターネット専門職やIT・通信のエンジニアが、ほかの職種の何倍も不足しているのに、なかなかそれを解消できないでいるのはなぜか? この業界に関しては、これの根底にあるのは一般の人々や企業のネットやデジタルに関する「無理解」だと思う。

『CSI:サイバー』(米国では2015年から2016年にかけて放送)を見ていたら、Raspberry PiみたいなマイコンボードやGoogle Homeのような、きわめて時節にあったシステムが題材になっている。これは、日本でいえば日経新聞やテレビ東京のWBSなんかを見ていたら自然にできてくるシナリオである。これが、CSIという人気テレビ番組のシリーズの1つで放送されている。それに対して、日本は、そこまでネットやデジタルに関する関心が高いとはいいがたい。

大学生の多い音楽サークルで活動している友人と話をしていたら、大学生のITやプログラミングやコンピューターサイエンスに対する無関心度は、おそろしいほどのものがあると教えられた(統計的な話でなくて申し訳ないが)。一般的な大学生がITに興味がないのなんか、いまに始まったことじゃないでしょうと言われればそうだが、彼らは毎日スマホの恩恵にあずかっている。世界がネットとデジタルで回りはじめているのを知っているはずなのにだ。

聞いてみると、「ネットやスマホは使えているから、それ以上のことは知らなくても困らない」というのだそうだ。そして、なかば同じような無関心さによって、企業や政府や社会もエンジニアの不足に対してこれといった策を講じることができないでいる(これは日本にとって本当にまずいことなのだが)。つまり、その価値も意味も理解されていない。

ユーザーにとっても、表面的にスマホやネットを使うだけの人生というのは、なにかとても大切なものを捨てていると思う。たとえば、私はこういうとき『星の王子さま』の「心でないと見えない」とか「美しいものは何かを隠している」という意味のセリフを思い浮かべる(飛行機乗りの書いたユーザーエクスペリエンスに関する小説みたいなものですからね)。スマホを使うだけでもいろいろできるとしても、想像力をはたらかせて、誰かのために何かを工夫したり作ったりするから人間なのだ。

U30でのプログラミングバトルの会場風景。ピシッと緊張した空気が漂っていた。

お知らせ

デジタルの価値と意味を理解するいちばんいい方法は、プログラミングをすること。4月16日(日)、NHK Eテレ「Why!?プログラミング」のプログラミング監修もつとめる青山学院大学客員教授の阿部和広氏に、「阿部和広先生とプログラミングを学んで授業に活かす体験講座」を開催します。プログラミングの経験は問いません。Scratchの演習のほか、米国の先駆者たちが、プログラミングを教えることにどんな試行錯誤をしてきたか? そして、日本で一般教科に取り込んだ事例の紹介もします。ご興味のある方は、http://lab-kadokawa19.peatix.com/からお申込みください。

注釈

  1. Battle Conference U30(http://bcu30.jp/
  2. リクルートキャリアによる転職倍率(https://www.recruitcareer.co.jp/news/pressrelease/2017/170308-01/)。
  3. DODA月次転職求人倍率レポート(2017年2月)(https://doda.jp/guide/kyujin_bairitsu/
  4. HRog(http://hrog.net/2015041016139.html

(2017年4月8日「遠藤諭のプログラミング+日記」より転載)

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