細胞分裂起こす収縮環の謎の一端を解明

細胞から単離・精製したタンパク質を混ぜ合わせて、細胞を模した微小なカプセルに封入し、収縮環のようなリング構造を再構築することに、早稲田大学理工学術院の宮崎牧人次席研究員と石渡信一教授らが初めて成功した。

生物は細胞分裂で成長、増殖する。その細胞分裂で重要な役割を果たす収縮環の研究で大きな成果がもたらされた。細胞から単離・精製したタンパク質を混ぜ合わせて、細胞を模した微小なカプセルに封入し、収縮環のようなリング構造を再構築することに、早稲田大学理工学術院の宮崎牧人(みやざき まきと)次席研究員と石渡信一(いしわた しんいち)教授らが初めて成功した。この研究で細胞分裂を担う収縮環の自己組織化と、収縮に必要な最小限の構成要素、物理的条件を突き止めた。細胞分裂の仕組みを解く新しい手法になりそうだ。3月23日付の英科学誌Nature Cell Biologyオンライン版に発表した。

ヒトを含む動物細胞は、分裂期になると、細胞膜の内壁に収縮環と呼ばれるリング状のバンドル構造が形成される。このリングがぐっと収縮し、細胞膜をきんちゃくのようにくびり切って細胞が分裂する。これまでの分子細胞生物学的な研究で、収縮環を構成するタンパク質や、収縮環の形成を制御するタンパク質が何十種類も徐々に明らかになってきた。しかし、収縮環が形成される肝心の仕組みは謎だった。

細胞分裂の前に現れる収縮環は主にアクチン繊維とミオシン分子モーターから構成されており、ミオシンがアクチン繊維間に張力を発生させてリングを縮ませ、細胞膜をくびり切る。どのタンパク質が収縮環の形成に欠かせないかという素過程を見るには、細胞は複雑すぎて解析が難しかった。研究グループは、収縮環形成に関与していると考えられているタンパク質を細胞から単離・精製した後、それらを再度混ぜ合わせて細胞を模した微小カプセル(油中液滴)に封入した。この人工細胞系の中で、収縮環に似たリング構造が再構築される条件を探った。斬新なボトムアップ的手法といえる。

その結果、収縮環の主な構成タンパク質のアクチンとミオシンに、アクチン繊維を束にする因子を加えた、たった3種類の構成要素だけでも、20μm(1μmは1000分の1mm)以下の細胞サイズのカプセル内では、収縮環のようなリング構造が自発的に形成されることを発見した。細胞の大きさは通常10~20μmで、リングの自己組織化は細胞サイズの微小空間でのみ生じる特徴的な現象だった。さらに、アクチン繊維上のミオシン密度が上昇すると、それがモーターとなって、リングが自発的に収縮することを見いだした。リングの収縮速度は直径に比例するという、収縮環の基本的性質を満たしていることも確認した。

このリングはほぼ100%の確率で小さな液滴の赤道面内に形成された。細胞サイズの微小閉鎖空間ではアクチン繊維は曲がりづらいため、屈曲率が最小になる赤道上にアクチン繊維が集積してリングが形成されたと考えられる。この結果は、細胞はアクチン繊維の剛性という物理的効果を利用して収縮環を形成させていることを示すだけなく、細胞の中央を認識して等分割する仕掛けに、アクチン繊維の剛性を利用していることも裏付けた。

石渡信一教授は「細胞質分裂を担う収縮環の自己組織化と、その収縮に必要な最小限の構成要素、物理的条件を明らかにした。次はリポソーム膜の袋でこの収縮環を実現して、分裂するところまで実証したい。ボトムアップ的手法によって、収縮環形成と制御に関与する数十種類のタンパク質の機能と、細胞分裂の仕組みの詳細がわかれば、将来は、がん細胞増殖の抑制や、正常細胞の分裂促進による各種疾患治療、再生医療などさまざまな医療分野にも貢献するだろう」と話している。

関連リンク

早稲田大学 プレスリリース

注目記事