ホタルは日本の初夏の風物詩。そのホタルを発光ダイオード(LED)の光で誘引したり、同調させたりするユニークな実験に、金沢工業大学の平間淳司(ひらま じゅんじ)教授(電気電子工学)らが金沢市郊外の水田地帯で取り組んでいる。
平間教授らはLEDの光にホタルが反応することを見つけ、2007年(当初は金沢大学の鎌田直人准教授=現・東京大学教授=と共同研究)から、野外と室内で実験を重ねてきた。日本のホタルは、ゲンジホタルと、やや小型のヘイケホタルに大別され、光への反応も異なっている。研究グループはまず、それぞれのホタルが好む光が存在することを突き止めた。
ゲンジボタルは、約1秒光って約1秒消える2秒周期程度のLED発光に同調発光する。ただ、性質が慎重なのか、光には近づかない。一方、ヘイケホタルは約1.2秒周期のLEDの光にどっと誘引されてくる。2種のホタルの複眼の網膜内の光反応の特性も調べたところ、いずれも黄緑色の光に最も敏感なことを確かめた。
野外実験した金沢市大桑は犀川の上流で、川のせせらぎの音が聞こえる典型的な里山地帯。ホタルのえさになる水生昆虫も多く、自然が豊かな地域で、ゲンジホタルとヘイケホタルが共存して、毎年6月中下旬に出現する。黄緑色に光るLEDを水田沿いにずらりと並べて、約2秒周期で点滅を繰り返すと、その光に同調するように、ゲンジホタルが少し離れた樹木の茂みの中から現れ、乱舞して同調発光した。
平間教授は「野外実験は、1年のうち、ホタルが出現する初夏の2、3週間しかできない。ちょうど梅雨の季節なので、雨に降られるとつらい。夢中になって用水に落ちたこともある。さまざまな実験を苦労して積み重ね、それぞれのホタルがLEDの発光周期に同調発光したり、誘引されたりすることまでわかった。その条件もほぼ絞り込めた。この方法を使えば、ホタルを捕らえなくても、生息数の調査が可能になる」と話している。
平間教授らの夢は「LEDを活用して、全国の子どもたちが野外の観察会でホタルに親しみながら、地域の環境変化を調査して、自然に触れ合ってもらうことだ」という。しかし、自然保護団体などからは、この装置の悪用を懸念する声も上がっている。「ホタル販売業者がホタルの乱獲に使うことをどう防ぐか、が悩ましい」と平間教授も困惑している。