ハワイ島のマウナケア山頂にある日本の国立天文台のすばる望遠鏡で新しい成果が出た。すばる望遠鏡にとって最も遠方を探査し、ビッグバンから7億年後の銀河を、東京大学宇宙線研究所の大学院生の今野彰(こんの あきら)さんと大内正己(おおうち まさみ)准教授らが見つけた。宇宙誕生後、数億年から10億年にかけて起きた宇宙再電離の物語を解く手がかりといえる。11月20日に米天文学誌アストロフィジカルジャーナルのオンライン版に発表した。
138億年前にビッグバンで生まれた宇宙はプラズマ状態の陽子と電子で満たされていた。それ以降、宇宙の温度は下がり続け、38万年後に陽子と電子が結びついて水素へと変わり、光が飛び交う「晴れ上がり」に至った。しかし、これによってできた中性の水素は宇宙にかかる「霧」のようになった。星や銀河が生まれ始めると、それらから放たれる紫外線で水素が再び陽子と電子に分かれ、水素の「霧」が晴れていったと考えられている。このように「霧」が晴れる現象を宇宙再電離と呼ぶ。この宇宙再電離はビッグバンから約10億年後に終わったことはわかっているが、いつ始まりどのように進んだかは謎だった。
研究グループは宇宙再電離を調べるため、131億光年かなたにあるライマンα輝線銀河(LAE銀河)を探した。LAE銀河は、水素原子のライマンα輝線という光で明るく見える銀河で、遠方でも見つけやすい。これより遠い銀河が地球周回軌道上のハッブル望遠鏡で見つかっているが、すばる望遠鏡には、この131億光年という距離が観測の限界となる。広視野カメラ Suprime-Camに特別なフィルターを取り付け、遠方の暗い天体も何とか見えるようして、すばる望遠鏡にとって最長に近い106時間の観測を実施した。
すばる望遠鏡はこれまで、129億光年先でLAE銀河を数百個以上見つけている。これらの観測結果から推定して、131億光年かなたにあるLAE銀河は数十個見つかるだろうと予想されていた。しかし、実際に見つかった数は予想よりはるかに少なく、7個にすぎなかった。これは「LAE銀河が宇宙誕生から7億~8億年に突然増えたことを表している」と研究グループは解釈し、宇宙初期に銀河が明るくなって現れた様子をグラフに示した。
すばる望遠鏡データの解析を主導した今野彰さんは「宇宙が誕生してから7億年に当たる131億光年かなたまで見て、すばる望遠鏡で観測できる限界に達した。LAE銀河が水素ガスの塊に邪魔されて見えづらくなったなど、ほかの解釈も成り立つが、ビッグバンから7億年の宇宙再電離の時に『霧』が急に晴れてLAE銀河が突然出現した可能性がまず考えられる。今後も、大型望遠鏡による観測の精度を高めて、初期宇宙で重要な出来事だった宇宙再電離を解明したい」と話している。
関連リンク
・国立天文台 プレスリリース
・東京大学宇宙線研究所 プレスリリース
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・2012年4月25日ニュース「すばる望遠鏡が宇宙最遠方の原始銀河団を発見」