生物の細胞が分裂する際には、核の中の染色体が正しく分配されねばならない。その染色体分配に重要な役割を担う中央のセントロメア形成の分子スイッチを、国立遺伝学研究所の堀哲也助教や商維昊(ウェイハオ・シャン)研究員、深川竜郎(ふかがわ たつお)教授らが見つけた。各種の遺伝性疾患やがんなどの解明や治療につながる基礎的発見といえる。6月24日の米科学誌デベロップメンタルセルに発表した。同誌はこの発見を伝えるイラストを表紙に掲げて、成果を強調した。
遺伝子DNAを運ぶ染色体は、細胞分裂のたびに分配されていく。染色体が正しく分配されないために起きる病気は多い。対の染色体が交差する中央部にあるセントロメアは染色体が引っ張られる足場として働く。「正確な染色体分配が起きるためにはセントロメア形成が鍵を握っている」とされて、世界中で研究されてきた。
長いひも状のDNAが巻き付くタンパク質のヒストンにCENP-Aが含まれていると、そこにセントロメアが形成されることはこれまでわかっていた。しかし、単純にCENP-Aが存在するだけでは、セントロメアは形成できない。そこで、研究グループは「CENP-Aを活性化する分子スイッチが存在するのではないか」と予想した。
ニワトリの細胞実験で、高精度のゲノム解析や染色体工学の最新技術も駆使し、詳細に解析した。その結果、DNAが巻き付くヒストンとしてCENP-Aが取り込まれた後、H4という種類のヒストンに特別な修飾が加わると、セントロメア形成が起こることを突き止めた。この特別な修飾とは、ヒストンH4の20番目アミノ酸のリシンがメチル化されることだった。
この分子スイッチが引き金になってセントロメアが形成される仕組みも分子レベルで実証した。さらに、ヒトの培養細胞でもこの分子スイッチがあることを確かめ、ヒトでもニワトリとほぼ同じ仕組みでセントロメア形成が進行する可能性を示した。
深川竜郎教授は「セントロメア形成の最後の仕上げをするのが、この分子スイッチだ。従来の知識では、画竜点睛を欠いていたが、われわれの実験で、その仕組みが初めてわかった。このスイッチを操作することで、将来的にはがんをはじめとする染色体分配不全が原因で起こる各種の病気の解明や治療も可能になる」と話している。