手足が震えたりする神経難病のパーキンソン病の原因遺伝子を、順天堂大学医学部脳神経内科の服部信孝(はっとり のぶたか)教授、舩山学(ふなやま まなぶ)准教授らが新たに発見した。原因不明の遺伝性パーキンソン病家系の遺伝子を次世代シークエンサーで解読し、遺伝する一因がCHCHD2 遺伝子の変異によることを世界で初めて見いだした。
この遺伝子はミトコンドリアのエネルギー産生に関わる。遺伝と関係がない孤発型パーキンソン病(パーキンソン病の90%以上)ではミトコンドリアの機能低下が指摘されており、CHCHD2変異に孤発型と遺伝性パーキンソン病に共通する仕組みが存在する可能性も浮かび上がった。名古屋大学や国立病院機構相模原病院、北野病院、神戸大学、三重大学などとの共同研究で、2月4日付の英医学誌LANCET Neurologyオンライン版に発表した。
パーキンソン病は50~60代に発症することが多く、動きづらさなどの症状が徐々に進行する神経難病。患者は全国に約15万人いる。加齢が主な危険因子のため、超高齢社会の日本で患者は増加すると予想されている。全患者の5~10%は親から子へ病気が遺伝する遺伝性パーキンソン病で、その原因解明が新しい治療法の開発につながるとして注目されている。
研究グループは、遺伝性パーキンソン病の大家系からパーキンソン病患者8人と非発症者5人に対し、診察と血液からのDNA採取を行った。8人の患者のうち4人について次世代シークエンスで遺伝子配列を詳しく解読して、CHCHD2遺伝子の182番目の塩基がシトシンからチミンに置換されている遺伝子変異を発見した。この変異は8人の患者全員で同じだった。この家系とは別に日本人3家系のパーキンソン病患者からも、CHCHD2のほかの変異を見つけ、「CHCHD2変異は遺伝性パーキンソン病の原因である」と結論づけた。
また、一般的な孤発型パーキンソン病患者と健常者のCHCHD2遺伝子配列を調べた。この遺伝子多型を持っていると、持っていない人に比べて2.5~4.7倍パーキンソン病を発症しやすいことを確かめた。CHCHD2はこれまで、ミトコンドリアでエネルギーを作りだす電子伝達系に関わっていることがわかっている。10種類以上のパーキンソン病原因遺伝子が既に見つかっているが、ミトコンドリアの機能と深く関わる変異がわかったのは初めてという。
舩山学准教授は「この研究成果はミトコンドリアの中心である電子伝達系に絡むだけに重要だ。CHCHD2遺伝子に変異が入ることで、ミトコンドリア機能異常をはじめとする病的な状態がどのように神経細胞死につながるか、今後詳しく調べたい。ほかの神経難病の原因に関連する可能性もある。遺伝歴のない孤発型パーキンソン病発症の仕組み解明や治療法の開発、パーキンソン病の発症前診断や予防の手がかりになるだろう」と話している。
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・順天堂大学 プレスリリース