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2015年02月11日 01時56分 JST | 更新 2015年04月11日 18時12分 JST

脊髄損傷の治療標的タンパク質を特定

脊髄損傷などの治療にヒントを与えるタンパク質が見つかった。

脊髄損傷などの治療にヒントを与えるタンパク質が見つかった。細胞骨格を制御するタンパク質のCRMP4を抑制すれば、神経再生を阻害するいくつかの因子を広くブロックできることを、早稲田大学理工学術院の大島登志男(おおしま としお)教授、大学院生の長井淳(ながい じゅん)日本学術振興会特別研究員らが突き止めた。神経の再生を阻害する反応を一挙に制御する分子で、脊髄損傷などの治療法開発の標的になりそうだ。横浜市立大学医学部の五嶋良郎(ごしま よしお)教授らとの共同研究で、2月5日付の米オンライン科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。

研究グループは、細胞骨格を制御するタンパク質として知られているCRMP4に着目した。細胞骨格は神経再生に対するすべての阻害反応に関与するため、「CRMP4を抑制すれば、神経再生を阻害するいくつかの因子を同等にブロックすることになる」という仮説を立てた。まず、CRMP4が損傷した脊髄の神経細胞、炎症性細胞のどちらでも上昇することを見いだした。CRMP4のアイソフォーム(わずかにアミノ酸配列が異なるために活性が微妙に違うタンパク質)のうち、特に再生阻害効果の強い分子の活性が上がっていた。

CRMP4遺伝子欠損マウスを作製して調べた。炎症や瘢痕形成、神経変性反応が抑制され、脊髄損傷でまひしていた後肢の回復が顕著であることを発見した。後肢機能の改善は損傷1週後という早期から観察され、CRMP4の抑制が極めて効果的だった。さらに、CRMP4遺伝子欠損マウスで脊髄損傷後の神経再生過程を検証し、野生型マウスと比較した。損傷1週後では神経変性と炎症反応、瘢痕形成のいずれの現象も抑制され、損傷4週後では運動機能をつかさどる神経繊維が再生しており、損傷早期からの後肢運動機能改善と一致した。

これまで同定されてきた神経再生の阻害因子の多くは、他の組織にも影響があるため、副作用が懸念されていた。CRMP4遺伝子欠損マウスは正常に生育し、行動の異常もなかった。このため、CRMP4を治療標的にする場合の副作用は既存の治療より少ないと予想される。脊髄にiPS細胞などの幹細胞を移植する再生医療で、神経細胞が増えたとしても、阻害因子で神経再生が限定されかねない。しかし、移植する幹細胞内のCRMP4を常時不活性にできれば、神経細胞新生と軸索再生の相乗効果で、効果的な神経再生が期待されるという。

大島登志男教授は「CRMP4の不活性化は、同じように治療法が確立していない脳卒中やアルツハイマー病、パーキンソン病などの神経再生医療にも貢献する可能性がある。CRMP4の発現を抑える化合物を探したい。活性の異なるCRMP4の各アイソフォームがどのように再生阻害効果をもたらしているのか、分子レベルの仕組みが詳しくわかれば、それぞれを特異的に阻害する化合物や抗体医薬が中枢神経系の治療に役立つだろう」と話している。

図1. 野生型マウスとCRMP4遺伝子欠損マウスの神経再生の比較

図2. 損傷1週間、CRMP4遺伝子欠損マウスの脊髄では野生型マウスの脊髄に比べ、瘢痕組織が縮小し、神経再生が起きやすい環境になっていた

図3. 脊髄損傷後の後肢運動機能の推移。損傷4週間まで、野生型マウスでは後肢の運動機能は回復しなかったが、CRMP4遺伝子欠損マウスでは損傷1週間後から運動機能回復が観察された。
(いずれも提供:早稲田大学)

関連リンク

早稲田大学 プレスリリース

http://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2015/02/20150209_03.html