魚類の雌と雄の決まり方は環境の影響を受けやすく、種ごとに多様で、謎が多い。淡水魚のゼブラフィッシュでは、始原生殖細胞が10個以上なければ、通常の性比(雌雄1対1)になれないことを、愛媛大学南予水産研究センターの後藤理恵(ごとう りえ)准教授らが見つけた。性決定の仕組みの一端を解く発見で、将来は養殖の基礎技術にもなりそうだ。北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの山羽悦郎(やまは えつろう)教授、シンガポールのテマセク生命科学研究所のラズロ・オーバン教授らとの国際共同研究で、11月26日付の米科学誌Stem Cell Reportsオンライン版に発表した。
研究チームは、代表的な実験モデル魚のゼブラフィッシュ(体長3~4センチ)で、魚類の性分化への始原生殖細胞(卵や精子のもととなる細胞)の役割を調べた。生殖腺へ到達した時に通常は30~40個ある始原生殖細胞の数を、受精卵への顕微操作で減らしたり、移植数を調節したりして、成長した個体の性を調べた。雌と雄が1対1の通常の性比となるには、10個以上の始原生殖細胞が必要で、それより少ない場合は80%以上が雄に偏った。始原生殖細胞がゼロの個体はすべて雄になるが、生殖細胞を欠くために精子が作れず、子孫を残せなかった。
個体の性が生殖細胞の個数に依存して分化する事実がわかったのは初めて。さらに、受精後14日の個体で始原生殖細胞の増殖・分化過程や遺伝子の発現パターンを網羅的に解析した。未分化の生殖腺が卵巣へ分化するための生殖細胞の増殖や減数分裂への移行が、生殖腺へ移動した始原生殖細胞の数に依存することも確かめた。
後藤理恵准教授は「発生初期の始原生殖細胞の数をコントロールして、動物の性が変わるのがわかったのは初めてだ。生殖細胞を操作する2つの方法で同じ結果が出た。水産物では、卵巣が食用に重宝されるイクラやキャビア、雌雄で体のサイズが違うカレイなど、性によって商品価値の異なるものが多い。この発見は、生命の根幹に関わるだけでなく、始原生殖細胞による性の制御技術にもつながる。将来は養殖業にも生かせるようにしたい」と話している。
関連リンク
・愛媛大学 プレスリリース
・北海道大学 プレスリリース