「病は気から」と言われるように、神経系と免疫系が関係していることは古くから指摘されてきた。その仕組みの一端を大阪大学免疫学フロンティア研究センターの鈴木一博(すずき かずひろ)准教授らが突き止めた。交感神経から分泌される神経伝達物質のノルアドレナリンが、免疫細胞のリンパ球にあるβ2アドレナリン受容体を介してリンパ球の体内動態を制御することを分子レベルで実証したもので、神経系と免疫系の関連性を解明する新しい手がかりになりそうだ。11月25日の米科学誌The Journal of Experimental Medicine(JEM)オンライン版に発表した。
研究グループは、ストレスを感じたときに興奮する交感神経に着目して、交感神経が免疫細胞のリンパ球に及ぼす影響を解析した。リンパ球はリンパ節から脱出し、血流に乗って体内を循環して免疫作用を発揮する。リンパ球の細胞膜には、交感神経からの信号を受け取るβ2アドレナリン受容体がある。研究グループは、β2アドレナリン受容体を刺激する薬をマウスに投与すると、リンパ節からのリンパ球の脱出が抑えられることを見いだした。体内から交感神経を除いたマウスでは、リンパ節からリンパ球が出て行きやすくなった。一連の実験で、交感神経がリンパ球のリンパ節からの脱出を抑制している事実がわかった。
さらに、β2アドレナリン受容体が、リンパ球の動きをコントロールするケモカイン受容体とリンパ球の細胞膜で相互作用して、リンパ球のリンパ節からの脱出を抑制する仕組みも明らかにした。
病気との関連も調べた。多発性硬化症とアレルギー性皮膚炎のモデルマウスにβ2アドレナリン受容体の刺激薬を投与したところ、いずれのマウスでも病気の進行が抑えられた。これらの炎症性疾患は、病原性のリンパ球がリンパ節から脱出し、末梢組織に移動して炎症を引き起こすことで発症する。研究グループは、β2アドレナリン受容体が刺激されると、病原性リンパ球のリンパ節からの脱出が抑制され、末梢組織に到達できなくなることを確かめ、これが病気の進行を抑える一因となっていると推測した。
この結果は、ストレスなどで交感神経が興奮することによって、免疫力が低下する仕組みを示唆するものといえる。この仕組みで、免疫が過剰に働いて発症するある種の炎症性疾患はよくなるが、免疫が正常に働いて病原体を排除することが必要となる風邪などの病気は悪化すると考えられる。
鈴木一博准教授は「神経系が免疫系に与える影響は複雑で、リンパ球のリンパ節からの脱出抑制がすべてではない。しかし、『病は気から』の仕組みの一部が分子レベルでわかったことは、神経系と免疫系の関連性を解き明かす足掛かりとなる。今後、さらに研究が進めば、ストレスに対する生体応答をコントロールするという新しい視点に基づく病気の予防や治療も可能になるだろう」と期待している。
関連リンク
・大阪大学 プレスリリース
・科学技術振興機構 プレスリリース