SDGs円卓会議メンバー・大西連さんが語る「誰ひとりとり残さない社会」を実現する取り組みとは

SDGsに求められているのは「誰ひとりとり残さない」ためのビジョンです。

大きなストーリーとはなにか。

SDGsに求められているのは「誰ひとりとり残さない」ためのビジョンです。

SDGs推進本部が設置されたのが2016年、続いて民間からの有識者で構成される円卓会議が設置、これまで計5回の会議が開催されてきた。

市民社会代表として円卓会議メンバーである認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長の大西連さんは、「政府のSDGs推進本部が作成したものに対して意見は言えるが、その意見が反映されていない」と指摘する。

誰ひとりとり残さないために何を私たちは考えるべきなのか。大西さんの考えを聞いた。(ライター:長島美紀・SDGs市民社会ネットワーク)

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―まず円卓会議の雰囲気を教えてください。

「各省庁からいらした担当の方が課題に応じて説明、質問に答えます。しかし男性が多かったり、年代も40-50代に集中しているなど、どうしても当事者としての参加は少ないですね。」

「円卓会議では意見を言うことができるのは大きな成果ではありますが、残念なことに半年に一回程度しか開催されない。それでは意見を反映させることが難しいのが現状です。円卓会議メンバーもそれぞれの専門性や得意分野があって選出されたと思いますが、残念ながら昨年末に発表されたアクションプラン2018にその円卓会議メンバーの専門性が活かされたかというと、残念ながら活かしきれていないように思いますね。それぞれの立場で意見を述べる機会があるのは成果ではありますが、それが現実に生かされていないように感じます。」

今回大西さんのインタビューは多岐にわたったが、そこで話題となったのは、SDGsを実現するために、どのような動きが政治の場で必要か、という具体的な道筋だった。

― SDGsを実現するためにそれでは政府はどうすべきだと思いますか?

「一番は日本政府が今後SDGsを軸に据えるのであれば、そこでの強い政治的リーダーシップが発揮され、それに基づいてSDGsの各課題への予算配分が行われることが必要です。残念ながら現状は既存の政策をSDGsの名のもとに集め、パッチワークしているにすぎません。アクションプランはあくまでも既存の政策をSDGsの文脈で整理したものでしかないのです」

大西さんはこれまで自身の団体で生活困窮者支援を行ってきた。生活困窮者支援では生活保護の給付金の切り下げや生活保護法の改正などをめぐり、具体的な目標設定とそのための活動が展開されてきた。その活動とSDGs実現のための「ギャップ」を敢えて聞いてみた。

― 大西さんはもやいとして生活困窮者支援をされていますよね。その活動をされている一方でのSDGs円卓会議メンバーとしても参加されているわけですが、違いなどは感じますか?

「大きな違いは、国内の貧困問題に取り組んでいると、生活困窮者支援など新しい支援もあるが、カットされた予算、減らされた制度もあるなど、『貧困』を切り口に、様々な動きがあります。貧困というキーワードひとつをとってもそうですが、単純に貧困解消といっても、例えば教育支援や女性の就労支援など、SDGsの複数ゴールにまたがる課題は多くあります。私はもやいとして貧困を中心に活動をしますが、そこでさらに俯瞰的に必要なニーズや広がりを考える、横串としてSDGsがあるのだとかんがえています。」

「例えば今日本政府は『一億総活躍』を盛んに述べますが、この一億総活躍が目指すのは国としての経済成長であり、一人ひとりの人としての生活を保障するという内容ではありません。誰ひとりとり残さない社会の実現について、今日本政府が掲げている柱は、決して一人一人の生活の質を上げるというビジョンにはなっていません。」

「もちろん個別の課題の思想的背景としてSDGsがはいった意味は大きい。貧困でも例えば一億総活躍社会の実現のひとつとして給付型奨学金制度のあり方が見直されるなど、従来の個別課題ではカバーできなかった課題もSDGsという横串が入ることで、大きなアクションにつながる可能性があるといえます。」

個別課題をつなげ、より大きな視点で政策を考える契機としてSDGsは意義があるということは言えるだろう。他方で大西さんはSDGsのもつ「誰ひとりとり残さない社会」実現と現状の政策の乖離を指摘していた。

―お話を聞いているとSDGsが個別課題を包括的に検討するものとして意義があるようですが。

「問題は現実的にSDGsが横串となっていないことです。残念ながら現政権のSDGsの施策としての事例は、羅列するだけでSDGs実現のための新規案件や予算確保に至っていません。ここで大切なのは、SDGsを国として掲げることで『2030年、そしてその先の日本はどういう社会になっているのか』という大きなストーリーが政府に欠如していることです。」

「個別課題に取り組むNGOとしての立場で考えると、SDGsは必要ありません。問題を指摘し、問題の解決法を示し、どんな支援ができるのか、と示せば良いのですから。SDGsは17というゴールがあるため、ひとつの課題に対して非常に網羅的であり、個別課題のようにシンプルではない。その意味で最近の企業が自社のサービスや製品をSDGsに紐づけようとする方が分かりやすいんですよね。例えば車を作る会社なら作るまでの調達からはじまって、環境対策、車社会にやさしいまちづくりなど、SDGsに即してもあらゆる対応が考えやすい。しかしNGO/NPOで考えると目の前の対応に追われてマクロな視点になりにくいのが現状です。」

SDGsを社会のあり方を俯瞰的に見るツールだとすると、その俯瞰的視点を個別課題に取り組む団体に求めるのは難しい、ということかもしれない。

「例えば派遣切りの問題があるとします。そのとき個人の問題ではなくその地域や社会の課題、さらに政策のあり方をめぐる問題だとしても、それは当事者には直接的には関係ない。明日からの仕事や住まいをどう確保するかという目の前のことが最優先になるからです。個別課題の背景に大きなストーリーがあるとしても、それを問題意識としてとらえることは簡単ではない。それは当事者も支援者もです。目の前の課題にどう対処するかで精いっぱいだからです。」

― 政治家にSDGsをとりあげてほしい、、、しかしどうすべきでしょう?

「俯瞰して物事を見ることは大切ですが難しい。SDGs実現に必要なのは立法と政府へ義務を負わせるという流れです。SDGsは2030年までの目標なので時限立法としてSDGs実現にむけた取り組みができるか。2030年までにどういう日本になりたいか、ここが大切だと思うんですよ。人口減少、過疎化、高齢化、の中で地域創生といってもどう創出したいのか、ここが問題です。」

経済成長は何のためか。

私たちはこんな単純な質問をこれまで考えてこなかった。

でも、考えたら経済成長と人として最低限の楽しく、そして安心した生活を送ることは違う。どういう経済成長が望まれるのか、私たちはどんな未来に暮らしたいのか。戦後の経済成長のようにわかりやすい『物語』がない現在、どう未来を考えるのか。

恥ずかしいことに私としては「まずは私たちの2030年はどんな社会か」考えてほしいとつたえている。どんな世界が私たちを待っているのか、それを知ることは大きな意味を持つ。

Moyai

大西連(おおにし れん)略歴

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長、新宿ごはんプラス共同代表、反貧困たすけあいネットワーク事務局長など。

1987年東京生まれ。2010年ごろから新宿でのホームレス支援活動に参加。2011年より<もやい>に関わり、2014年より理事長就任。ホームレス状態の人や生活困窮者の相談支援に携わりながら、日本の貧困、生活保護をはじめとする社会保障等についての発信や政策提言をおこなっている。初の単著『すぐそばにある「貧困」』(2015年 ポプラ社)発売中 http://amzn.to/1hTcx65

・SYNODOS(シノドス) http://synodos.jp/authorcategory/onhshiren

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