先日、国会で議員に配布する文書の一部を、電子データの閲覧に切り替えるというニュースが報じられた。
経費の削減などにつなげようと、衆議院は、国会議員に配る文書の一部をペーパーレス化することになりました。 ~中略~ 一方で、「議案」や「会議録」などのペーパーレス化には、法改正が必要だということで、理事会では、今後、対象を広げるかどうか、引き続き検討することにしています。日本維新の会の遠藤国会対策委員長は記者会見で「各党の判断に敬意を表したい。経費の問題だけでなく『改革を進めよう』と発信することが大きな目的で、まずは第一歩だ」と述べました。 国会議員に配る文書の一部をペーパーレス化へ 衆議院 NHK NEWS WEB 2018/06/26
ペーパーレス化が進んで、会議資料はタブレットで閲覧するという企業も増えている。かくいう筆者もIT企業に籍を置いており、この記事を見て、今さらペーパーレスなんて国会は遅れているという感想を持った。
ペーパーレス化は業務改善を行う上でその第一歩となりうる。しかし、紙を減らすことが重要なのではなく、紙を減らした後にどうするか? それが重要だ。
■いまだに紙に埋もれるオフィス
国会の状況を他山の石としてみて、中小企業を見渡すと、まだ業務に紙を多用している場合も多い。
会議の際には、大量の資料が印刷される。例えば取締役会資料では、大量の印刷をするために複数の従業員が1日中コピー機に張り付きになるが、会議が終了するとそれらのほぼすべてがシュレッダー行きだ。経理部も紙で溢れている。伝票や社内の申請書、取引先との契約書、発注書、請求書と担当者の机も紙で埋もれている。
これだけ紙が多いのであれば、印刷コストも馬鹿にならない。その社員200名程度の規模の会社で、年間約1000万円以上もかかっていた。
会社勤務と中小企業のコンサルティングという業務の中で、筆者が見聞きする範囲でも、紙文化が残っている会社がまだ多い。外部の打ち合わせ時に、参加者が幅広のバインダーを何冊も持ってくることも珍しくない。
なぜペーパーレスが必要なのか? それが業務改善につながるからだ。
■ペーパーレス化は根本的な業務改善の入り口に過ぎない。
印刷には紙代、印刷費、そして手間(人件費)だけではなくそれに付随して様々なコストがかかる。郵送するなら送料、保管する時は保管スペース、廃棄する時は廃棄コスト、そしてこれら無駄な業務を行う人件費と、少し想像するだけでこれだけのコストがかかる。
印刷しなければこれらのコストはかからない。あとは印刷しなくても済む方法を考えれば良いだけだ。
コストはかかっても、紙で直に見るほうが慣れている......といった声もあるかもしれないが、それでもペーパーレス化による恩恵は大きい。企業にとってペーパーレス化は、経費を削減できるだけでなく、業務の効率化を進められるメリットがある。国会に限らずペーパーレス化は改革の第一歩となりうる。
ここでひとつの事例を紹介しよう。
■紙からクラウドへの移行。
その会社は、主に住宅リフォームとオーダーメイド家具を手がけている。歴史も古く顧客数も1万人以上いたが、当時、社内のIT化は遅れていた。eメールや社内サーバーはあるが、見積書や図面など顧客情報の管理はほぼ個々の営業担当任せという状況だ。
顧客情報は紙での保管が主流だったため、それらの依頼が来るたびに資料探しに多くの時間を要していた。営業担当が辞めると引継ぎは紙の資料のみであるため、顧客を訪問して一から状況を確認することもしばしばであった。
その会社の最も重要な資産は顧客情報であることは明らかだ。その資産を全社で共有・活用できるようにすれば、会社の強み(資産)を伸ばすことになると経営幹部に説いたところ、賛同を得られた。
■グーグルドライブによるクラウド化は仕事のやり方を劇的に変える。
その会社では、G Suite (Googleの法人向けアプリケーション、旧Google Apps)のGoogle Driveで顧客情報を一元管理することにした。他のツールや顧客管理ソフトなども比較検討したが、従来よりGmailを使用していることもあり、社内の定着を第一に考え互換性のあるG Suiteを採用した。
ITツールの導入には便利さはもちろん、定着させることが大事だ。面倒だから、よく分からないからと、社員が勝手に紙の管理をこっそり続けてしまっては元も子もない。その会社では、ITに慣れていない社員もおり、先ずは小さなチームで使い始め、可能な限りシンプルな運用方法を模索していった。
検討の結果、Google Driveには顧客ごとにフォルダを作成し、見積書、図面だけではなく、住所など顧客情報をまとめた顧客管理台帳と今までの接触履歴をひとつのファイルにしたものを格納するようにした。また、見積書と図面には、商品名や品番などをタグ付けし、後々、マーケティングや商品開発に活かせるようにした。
これらと並行して過去のデータは学生アルバイトを雇ってスキャニングや顧客管理台帳のデータインポートをしてもらい、営業担当の手間を極力とらせないようにした。
クラウドの導入後は、印刷・保管・探す手間などのコスト削減が可能となっただけではなく、様々な業務改善効果が出始めている。
顧客情報をクラウドで共有することにより、見積書や図面をメールでやり取りする必要が無くなり、複数人がひとつのファイルを見ながらちょっとした修正を簡単にできるようになるなど、作業効率が格段に上がった。
また、顧客の問い合わせに対して、今までは営業担当しか答えられないばかりか一度会社に帰ってから顧客情報を確認している状態だったが、クラウド化により簡単な問い合わせであれば社員が誰でも返答できるようになった。営業担当も外出先から顧客情報を確認できるようになり、スピーディな対応が可能となった。その会社では女性の比率が多かったため、出社できない従業員でも、在宅ワークをできる環境が自ずと整備される状況となった。
■まとめ
ペーパーレス化というと小さなことかもしれないが、このような取り組みを重ねることによって、コスト削減のみならず、仕事のやり方や顧客へのサービスに大きな改善が見込める場合もある。無駄を省きどこでも仕事ができる環境を整備することによって労働時間は減り、時間が余ればよりコアでクリエイティブな業務に時間を使うことができる。
繰り返しになるが、ペーパーレス化はそれ自体が目的ではなく、業務改善の入り口に過ぎない。事例で紹介した企業もペーパーレス化によって劇的に業務内容が変わり、顧客へ提供する価値も格段に向上している。
国会はもちろん、企業にもペーパーレス化のような小さなことから、改善に取り組み、明日の大きな成長につなげてもらいたい。
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柳沼賢司 中小企業診断士
【プロフィール】
証券会社からベンチャー企業数社で経営管理部門の取締役を歴任。うち1社のIT企業では上場から東証一部まで携わる。現在は、スタートアップからIPOまでの成長にハンズオンで関わる中小企業診断士。