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2018年08月01日 10時34分 JST | 更新 2018年08月01日 10時34分 JST

社長が陥る「良い商品なのに売れない」という罠。(玉木潤一郎 経営者)

いい発想がすべてビジネスの成功につながるわけではない。

RUNSTUDIO via Getty Images

地方での起業ブームが加速している。たとえ小規模であっても自分の力で開業するのは勇気がいる素晴らしいチャレンジだ。しかし開業後なかなか軌道に乗らない起業家のこんな声には違和感を覚える。

「せっかくいいものを作っているのに、宣伝や営業が下手なので売れません」

■いいものなのに売れない?
筆者が地方で起業家の支援に関わる際にも、前述の「いいものなのに売り込みが下手で売れない」という相談に出会うことが頻繁にあった。これは「あの人は中身がないのに売り込みが上手いだけで売れている」という逆の状況への批判とセットで語られることが多い。

ところでこの起業家は、自身の商品やサービスが「いいもの」だとどうやって判断したのか。ほとんどの場合は家族や友人など周囲の人にリサーチして褒めてもらったり、公共の相談窓口で高評価を得たりしたのが根拠になっている。

どんなサービスや商品であっても、売れて対価を得てはじめてビジネスであると言える。そしてビジネスとして存続していくためには、収支が黒字で継続していかなければならない。

いまだ黒字にならないだけの顧客数にしか支持されていない収益状況は、厳しく言えばビジネスとして成立する品質なのかは証明されていない。まして財布を開いていない友人や家族からどれだけ褒めてもらっても、ビジネスとしての価値は白紙だと思わなければならない。

■本当の意味で商品を磨く
いったん起業すれば、誰でもある程度の顧客はつく。そしてそこから感謝されたり評価されたりもする。ほとんどの起業家はそれらの賛辞をもって商品やサービスが水準に達していると勘違いしてしまう。

起業家はここで勘違いすることなく、商品力の向上に邁進すべきなのだ。聞こえの良い褒め言葉は横に置いて、顧客が不満に感じているであろうことを徹底的に聞き出さなければならない。

その上で不満を教えてくれた顧客に対してリピート購入の営業をかけたり、新規の顧客の紹介を依頼したりとセールス活動をすべきだ。一人の顧客のまわりには同じような属性の人がいるはずだから、同じサービスを望む顧客を紹介してもらえる可能性は高い。少なくともアテもなく宣伝するよりもはるかに顧客開拓できるはずである。

■顧客が顧客を紹介してくれるか
そのときに起業家の商品やサービスが本当に「いいもの」なのかどうかが試される。

起業家自身が考えているようないいものであれば、きっと多くのリピーターや紹介が生まれていくだろう。それまでどんなに褒めてもらっていたとしても、頼んでもリピートがかからず紹介もしてもらえないならば、それが顧客の本音だと言える。少なくとも価格以上の価値を提供しているとは考えない方がいい。

営業に関して「私は人にしつこく頼むのが苦手なんです」という起業家もいるが、しつこいと顧客に感じさせてしまうのは営業スキルが低いだけである。宣伝や営業はビジネスの重要なパーツであり、それを軽視して自分の商品はいいものなのになぜ売れないかと考えてしまうと迷路に迷いこむ。

経営の実践現場から言えば、販売機会の多い起業家は多くの場数を踏んで、顧客の厳しい声によって商品がブラッシュアップされていく。これは苦しい過程だが、最初は「中身がないのに宣伝が上手いだけで売れている」と思われた起業家であっても、どんどん商品力が磨かれていく。

逆にいいものを提供しているつもりの起業家であっても、顧客と接することが少ないと商品はなかなか磨かれない。ビジネスで収益をあげようと考えるなら、辛い仕事であっても宣伝や営業に注力することを避けては通れない。

■アイデアや発想の価値は
さて、こういう記事を書くと、営業しなくてもアイデアや発想の素晴らしさだけで成功している起業家もいるではないかという反論を受けることがある。そこで主題からは話がそれるが、念のために最後に付け加えておく。

アイデアや発想だけで成功したように見える起業家が行っていた、世に知らしめるための、そして買ってもらうための宣伝や営業に関する努力に目を向けられないうちは、売れていない人の勘違いは止まらない。たしかにいい発想は成功するビジネスの種になるが、いい発想がすべてビジネスの成功につながるわけではない。

【参考記事】
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玉木潤一郎 経営者 株式会社SweetsInvestment 代表取締役