先日、サンドイッチのチェーン店・サブウェイがSNSで大きく話題になった。きっかけはプレジデント・オンラインに掲載されたサブウェイが過去4年間で170店舗も閉鎖している、という記事だ。(サブウェイが4年で170店舗も閉めた理由 プレジデントオンライン 2018/05/23)
サブウェイにとっては事実であってもあまりうれしくない記事だと思うが、掲載の翌々日には野菜の盛り放題キャンペーンを実施するなど、記事を逆手に取って商魂のたくましさを見せた。
■サブウェイの急激な膨張と収縮。
サブウェイの店舗数は全世界で4万店を超え、マクドナルドより店舗数が多いという。小さなスペースでも出店可能で、調理に火や油を使わないことから設備投資も少額で済むメリットもあり、日本国内でも2014年には最大で480店舗も出店していたという。
一方で、1991年から続いていたサントリーHDとのフランチャイズ契約は2016年に終了し、サントリーHDは日本サブウェイの株の65%を手放した。2018年3月には残りの株も全て売却している。近年大型買収をたびたび行ってきたサントリーにとっては「選択と集中」の意味あいもあったと思うが、当然のことながらそこには業績の悪化も理由の一つとなるだろう。
記事ではサブウェイが店舗を多数閉鎖している理由として、日本全国にあるコンビニでサンドイッチが販売されている、オニギリには勝てなかった、価格もコンビニと比べてサブウェイは何倍も高い、注文の仕方が複雑で面倒、野菜がたっぷりというメリットも今や珍しくなくなってしまった、といった分析がされている。
まあそういうことなんだろう、と思ってフェイスブックでこの記事をシェアすると、サブウェイは十分旨いのに、コンビニのサンドイッチとはちょっと違う、といった知人のコメントがいくつかついた。SNSの反応にもそういった声が多数ある。
コンビニでは2~300円のサンドイッチに対して、サブウェイは300~600円程度だ。確かにコンビニよりは高値だが、メチャクチャ高いというほどでもない。コンビニの影響がゼロとは思えないが、店内で飲食可能な店舗型のサブウェイと持ち帰りのコンビニでは、この価格差が決定的な影響とは言えず、必ずしも真正面から競合するとも言えない。
また、サブウェイは日本に限らず米国でも店舗の大量閉鎖がなされている。(米国内で大量閉店のサブウェイ、世界市場での成長に注力へ 2018/5/10 フォーブスジャパン)
■温かくない料理が敬遠された?
なぜサブウェイは苦境に陥ったのか? そんな簡単に分かれば苦労しないということにはなるが、あえて理由を考えると温かい料理を提供出来なかったことが原因ではないか。
サブウェイの(経営・運営側の)メリットは、すでに書いた通り小規模でも出店可能で、その理由は火を使う設備がないことにある。当然、そのメリットの裏返しとして温かい料理はごく一部に限られる。
サブウェイのメニューはスープとホットドッグのソーセージ、あとはパンを温めることも可能となっているものの、一般的な飲食店と比べて温かい料理は少ない。パンやスープを温める小規模な電熱機はあると思われるが、一般的な飲食店にあるような火力の強い設備はないようだ。
フードコートで見かけなくなったとも記事にある。以前自分が住んでいた家の近くにあったフードコートで目にした飲食店の内容は、長崎ちゃんぽんのリンガーハット、マクドナルド、うどんの丸亀製麺、あとはケンタッキーフライドチキンにインドカレー、たこ焼き、他にはスパゲティやラーメンなどのお店もあった。確かにこの中でサブウェイが積極的に選ばれるかどうかといった印象は受けてしまうが、好き嫌いを別にしてもサブウェイとこれらのお店の違いはやはり温かい料理の有無だ。
■「何をやらないか」でビジネスモデルは決まる。
温かい料理がないことが原因という話はコンビニ原因説と同じで、あくまで仮説に過ぎない。これが正しい説だと押し通すつもりはない。ただ、確実に言えることは仮に温かい料理を提供出来ないことが苦境の原因だったとしたら、サブウェイがその弱点を克服するのは極めて難しいということだ。
繰り返しになるが、サブウェイは小規模な出店が可能な一方で温かい料理を作る設備を大幅にそぎ落としている。それは排気や空調、設備、そしてメニューから料理を提供するオペレーションまで、あらゆる面に影響を与えている。温かい料理を提供しない、つまり「やらないこと」によってサブウェイのビジネスモデルは決定づけられている。
■サブウェイでカツサンドは作れない。
先日、モスバーガーの新商品「天麩羅モス」というメニューが話題になっていた。エビの天ぷらやかき揚げをライスバーガーに挟むものだ。当然のことながらこれは「天ぷらを作る設備」があるからこそ可能なメニューだ。
例えば、もしサブウェイで起死回生の新メニューとしてボリュームのあるカツサンドはどうか?というアイディアが出たとしても、そもそも店舗でトンカツを作れない、無理矢理小さいフライヤーを導入しても揚がるまで時間がかかる、フライヤーを導入出来たところで排気が出来ず店内に煙や油の臭いが充満してしまう......ということで却下されていただろう。
経営本として有名な「ブルーオーシャン経営戦略」でも、ユニークなビジネスモデルを作る4つのアプローチとして「必要なものを付け足す・増やす」、そして「不要なものを削る・減らす」と、プラスとマイナス両面のアプローチを紹介している。これは「何をやるのか」と同時に、「何をやらないのか」がビジネスモデルに決定的な影響を与えることを意味している。
ブルーオーシャンで紹介されている、様々なビジネスの「減らす・削る」の事例はいずれも顧客が望んでいない機能のカットであり、それを減らすことでコスト削減はもちろん、かえってメリットが増えるものばかりだ。温かい料理をメニューからバッサリと削ることも、出店コストやオペレーションの簡略化でメリットが非常に大きい。
その一方で、どちらかというとそのメリットは経営側のメリットであり、顧客側のメリットはさほど大きくないようにも見えてしまう。このビジネスモデルは店舗数ではマクドナルドを超えるほど拡大したが、日本で受け入れられなかった可能性もある。
ブルーオーシャン経営戦略で紹介されているイギリス発祥の「プレタ・マンジェ」というサンドイッチチェーンもまた、日本進出に失敗して撤退している。サンドイッチチェーンが二つも日本で苦境に陥った理由はいったいどこにあるのか、外食産業として重要な研究事例になるのではないかと思う。
どんな企業も通常は「何をやっているか」によってその存在が認識されている。しかし、実際には「何をやらないか」によっても強くビジネスモデルは規定される。企業でも商品でもサービスでも、「何をやっていないか?」に注目をすると、よりその本質を見抜くことが出来るだろう。
【参考記事】
中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長・FP