森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を発信しています。新年1月号の「時評」では、ラオスの古都ルアンプラバンに置ける植林活動について、松下和夫・京都大学名誉教授が報告しています。
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ラオスは日本の本州よりやや大きな面積に人口約660万人が住む、森林が豊かで農業や林業が盛んな内陸国だ。ちなみに世界に残されたわずか五つの社会主義国の一つでもある。
私が最近(2015年10月)訪れたのは、ラオスの古都ルアンプラバン。20年前から世界遺産に登録されていて、日本の京都のような美しい町だ。緑の山に囲まれたメコン川の流域に位置し、華麗な色彩の寺院がたくさん遺されている。ここには毎年欧米など世界中から大勢の観光客が訪れている。フランス料理の影響を受けた食事も繊細でなかなかおいしい。ところが、このラオスでも森林の減少が顕著だという。国際協力機構(JICA)の資料によると、1940 年代には70%であった森林率が、2002年には41・5%まで低下している。
これに危機意識を持ったのが地元の水道局である。水源地の森林が荒廃しており、このままでは十分な水が確保できない。そこで認定NPO法人の日本ハビタット協会が、環境再生保全機構の地球環境基金から支援を得て、2012年に水道局と一緒に植林プロジェクトを開始した。
水源地は国有地であり、水道局が管理している。ここに地元の住民に植林をしてもらう。植林のための苗木の育成や樹種の選定は地元の農業大学や農業局の協力を得て、水道局とハビタット協会が行った。住民たちは急峻な山道を登って植林活動を行う。植林した土地には稲や、マンゴーやパパイヤなどの果樹を植えることができ、それは彼らの収入源になる。住民たちも毎年乾季に水が不足しがちであることを実感しているので、自発的に協力している。
●森林と自然をテーマにした絵を描くラオスの子供たち(写真提供:松下和夫氏)
このプロジェクトのユニークな点は、地元の中学校の協力を得て、中学生への環境教育と彼らによる苗木の養成と植林も実施していることだ。プロジェクトのリーダーとなっている水道局のサムサニットさんが中学に出張し、分かりやすい写真やスライドを使って、気候変動の影響や森林の大切さを講義している。
中学校の先生たちも環境教育の意義を認識するようになり、独自の教材を開発している。子供たちの輝く目と生き生きとした反応が印象的だった。生徒たちは学校で学んだことを親にも伝える。環境をテーマとした絵画コンクールも実施され、優秀な作品は学校の掲示板に展示されている。モデル校で成功したことが、近隣の学校にも広げられている。
日本の民間団体と地球環境基金の支援で始まった植林プロジェクトは、今や自立して継続・拡大する段階を迎えている。ラオスのお国柄から水道局という国家機関の一部が関わっていることが強みであるし、住民にも植林による経済的なメリットが得られる。もちろん経済のグローバル化や気候変動の影響は容赦ない。違法伐採も後を絶たないという。しかし、このような地元に根差した粘り強い取り組みが進められている現場を見るのは、暗闇に一条の光が差してくるような思いである。