リズム感はステージに立つ上で非常に重要です。
単純に音に合わせて動けるという意味を超え、リズム感のあるアーティストは不思議な存在感があるんです。以前ステージでの存在感と情熱について触れました。
これはやや精神論でしたが、今回は少し違った角度からステージでの存在感ついて考えたいと思います。
リズム感とは?
ただリズム感と言っても意味が広いですが、リズムを辞書でひくと
【リズム】
1 強弱・明暗・遅速などの周期的な反復。「生活の―が狂う」
2 音楽の基本的要素の一つで、音の時間的な変化の構造。アクセントが規則的に反復する拍節的リズム、アクセントの継起が不規則な定量リズム、音の長さに一定の単位をもたない自由リズムなどに分類される。「―に乗って踊る」
3 詩の韻律。
これらの反復を掴む能力=リズム感と捉えてください。ダンスやパフォーマンスで音を取るのも、もちろんここに含まれます。
ステージでリズム感が無い人って、空気を掴めないんです。同じステージの人同士も、観客とも上手くコミュニケーションができない。
たとえば円陣で「棒」投げ合うトレーニングがあります。棒の場所と投げるリズム・タイミングを感じることで、アーティスト同士の呼吸を研ぎ澄ますための練習です。
棒が投げられ続けるとリズムが生まれます。計測は出来ずとも、その場に居る人が共有するリズム。しかし、うまくリズムを掴めない人はこれを崩してしまいます。皆で共有する絶妙なリズムに入ってこれないんです。
シルクドソレイユではこうした緊張状態を「Connection(繋がり)」と呼び、演技指導で頻繁に登場するキーワードになっています。
Connectionの善し悪しはリズム感に左右されます。つまりリズム感がステージでの存在感に大きな影響を与えるのです。
リズム感とは一定の基準を知ること
リズムは一定の周期で反復されるモノを指します。メトロノームでカチカチ鳴るのがまさにそうで、常に一定の周期で何かが起きることを、人はリズムがあると認識するのです。
そして、周期を理解すると予想が立つようになる。
いま「ドン」が来たから、次はこのタイミング!というように、周期を理解すると次の反復のタイミングをピタリと予想できるようになるんです。
細かく見ると、音に合わせて動くのも実はこの「リズムの予想」が無いと成り立ちません。だって音が来てから動いていたら、ずーっと音から遅れて動くことになってしまいます。
リズムの予想が出来てはじめて、人は音楽に合わせて動けるようになるのです。この状態を「リズム感がある」と呼びます。
コミュニケーションと見えざるリズム
音楽のビートと同じように、コミュニケーションにもリズムがあります。例えば「バンっ」と打たれて「うわぁ~」ってやられる。ここにもリズムが存在します。
それは今あなたが思い浮かべた「バンっ」「うわぁ~」の流れ。人は見たことあるシーンに対し無意識のうちに「こう来たら、こうなるよね?」という予想を立てながら見ているのです。これが見えざるリズムの正体です。
見えざるリズムは定量的に測定はできません。場の雰囲気、間、空気などど表現されて掴みどころのない存在です。でもここには確実に存在する。しかも人は見えざるリズムに合わせて物事が進むと、安心感と心地よさを覚えます。
「バンっ」「うわぁ~」の流れにも観客に心地よいリズムがある。これをを探り当てられる能力と、リズム感が深く関係しているのです。
先ほどリズム感とは予想できる能力のことであると説明しました。コミュニケーションで言えば、人が感じる心地よいリズムがどこにあるのか?を予想出来ることになります。
つまり人が心地よく思うリズムに、動きやリアクションをピッタリ合わせられるのです。この状態をConnectionがあると呼びます。
リズムを外して生まれる存在感
見えざるリズムを掴めると「ここがドンピシャだけど、少し早くしてみよう」とか「もっと引っ張ってから動こう」のようにワザとリズムを外せるようになります。
人は心地よく感じるリズムがあります。このリズムを外されると違和感を覚え、心の中で引っかかる様になる。なぜか分からないけど気になる、客席にそう思わせたらあなたの勝ちです!
そこにはズッシリとした存在感が生まれ、客席はあなたの一挙手一投足が気になって仕方ありません。つまり、あなたの動きと観客が目には見えない緊張の糸でしっかりと繋がっているのです。
まとめ
ステージで存在感を放つアーティストは、共通して音楽のリズム感が良い。たとえメチャメチャな動きでも、しっかり音に合わせて踊ることが出来る人々です。
確かに彼らが存在感を放つ理由はリズム感だけじゃないでしょう。ですが、リズム感が存在感を引き立たせる要因の1つであることは間違いないと思います。
(2015年4月9日「なわとび1本で何でもできるのだ」より転載)