すでにテレビ、新聞などで大きく報道されているため多くの方々から電話、メッセージなどをいただいておりますが、先週の金曜日、Scrum Venturesの投資先である通勤用シェアリング「バス」会社、Chariot社が、自動車大手のFord Motorsとの間で買収に合意したことが発表されました。
約1年半前にScrumが出資した際に書いた「ドローンの次はバス。Scrumが「バス会社」に投資した理由。」というブログポストもNewspicksで399picksされるなど大きな反響をいただきましたが、改めてChariotの紹介とFordの買収の狙い、そして大きく動く自動車関連業界などについて書きたいと思います。
Fordにとって初の「自動車サービス」スタートアップの買収
今回の買収は、正確に言うとFord本体ではなく、Fordが今年3月にシリコンバレーに新たに設立した「自動車サービス」を企画、開発する戦略子会社 Ford Smart Mobilityが行います。
Fordは、大手自動車メーカーの中でも、「メーカー」から「サービス会社」への転換を強く打ち出しており、すでにインドのカーシェアリング会社への投資や25の新しいサービスの実験(データ保険、ビッグデータ運転、自動車スワップなど)など非常にアグレッシブに動いています。
今回の買収に関して、FordのCEOのMark Fields氏はCNBCのインタビューで
「世の中は「車を持つ」というマインドセットから、「車をシェアする」というマインドセットに変わりつつあります。今回の買収は、我々が「自動車サービス」という新しい分野に進出するきっかけを与えてくれることになります。そして、渋滞などの問題を解決したい都市に対しての新しいソリューションにもなると考えています。」
と話しています。
我々が信じてきたChariotの持つ価値を、現在の自動車の原型であるT型フォードを生み出した自動車メーカー FordのCEOと共有できたことを本当に嬉しく思います。
「早い」「安い」「座れる」「クラウドファンディング」
今回買収されたChariotというサービスがそもそもどういうものなのかを、改めて説明したいと思います。
2014年にSan Franciscoで創業したChariotは、Ford製(これはたまたま)の15人乗りの通勤用のバスを運営しています。
Scrumが、昨年のY Combinatorの冬のバッチの後にChariotに投資をした時は、ルートが5つしかなかったのですが、今はそれが一気に31まで増え、通勤時間帯などは街中で大量のブルーのバンを見かけるようになりました。
最近は、企業向けも急増しており、例えば楽天も、San Franciscoのダウンタウンに住む従業員向けに、オフィスのあるSan MateoまでChariotを活用しています。
Chariotのサービスには、「早い」「安い」「座れる」「クラウドソーシング」という特徴があります。
市内に82路線がある公共バスMUNIは、一日中決まったルートを細かく停車しながら走っていますが、Chariotは「通勤」に特化しているため、朝は「住宅街からオフィス街へ」、夕方は「オフィス街から住宅街へ」と一方向のみ運行しており、かつ停車する場所も非常に限定しているため、MUNIに比べて、非常に早く目的地に到着することができます。
利用者は$47の回数券(12回)や$93の定期(1ヶ月)などを購入し、スマートフォンに表示されるバーコードで乗車することができます。定期を購入すると、UBERの相乗りオプションであるUBER Pool (一回あたり$7)よりは断然安く、公共バスのMUNI(一回あたり$1.11)とほぼ同額(一回あたり$1.51)で、確実に座りながら快適に通勤することができます。
また特徴的なのは、ルートを「クラウドファンディング」していることです。現在クラウドファンディング中のルートは、あと45人が年間パスを購入することをコミットするとルート運営に最低限必要な人数が集まることになり、新たにルートが新設されます。
Chariotのサービスは現時点ではSan Francisco市内のみで提供されているのですが、今回Ford傘下に入ったことで、今後18ヶ月で一気に新たに5都市に展開をするということです。San Franciscoを飛び出して、全米の通勤インフラへと成長する今後が非常に楽しみです。
3ヶ月で2件目の「Ford案件」
今回、ChariotがFordによって買収されることになりましたが、7月にもScrumはFordと一緒に案件をやっています。
現在多くの自動車メーカーやテクノロジー企業が自動運転カーの開発に取り組んでいますが、重要な技術の一つが3D地図です。人が運転していない自動運転カーが、カメラやレーダーを使って瞬時に次の行動を判断するための非常に重要な役割を果たすことになります。
ただ、Elon Muskも先日のMaster Planの発表の際に述べている (10B Kmのデータが必要だが、現在集めているのは1日あたり 5M Km)ように、地図データの収集には非常に時間とコストがかかるので、それを自動車メーカー横断でクラウドソースでやろうというのがCivilMapsのアプローチです。
Ford自身も、2021年までに「ライドシェアリング向けの自動運転車」を大量生産すると宣言しており、今回は投資はその戦略の一環ということでしょう。
Crunchbaseのデータを見ると昨年まではほとんど投資や買収を行っていなかったFordですが、今年に入って投資が4件、買収が2件と、一気にスタートアップとの関係を強めているようです。
今週もちょうどFordがスポンサーする「自動車に特化」したアクセラレータ TechStars MobilityのDemo Dayが開催されましたが、今後もFordを含めた自動車メーカー、自動車業界に動きには注目でしょう。
「スマホの次」へ。加速するスマートモビリティの世界
今回、Chariotを買収したのがFordということでFordの話を中心に書きましたが、自動車業界でスタートアップに対して積極的な動きを仕掛けているのはFordに限りません。
こちらは雑誌Wedgeの6月号に寄稿した際に作成した自動車関連業界動向マップをベースに、この3ヶ月の動きを動きをアップデートしたものです。
主な動きだけでも
と本当にたくさんの動きがあり、非常に目まぐるしいです。
少なくとも各社が自動運転の商用化に本気になっており、その入り口がライドシェアであることだけは間違いなさそうです。
あとは、誰と誰が手を組み、いち早く本格的なサービスを開始にこぎつけるのかということが注目です。
この図はScrum Venturesの現在の投資フォーカスを簡単にまとめたものです。
真ん中にはスマホがあります。
これからの10年、今の30億人、そしてそれ以上の人々が24時間365日スマホを使い続けると考えています。しかし、Scrum Venturesでは、スマホと同様の大きなイノベーションが「家」「店」そして「クルマ」というデバイスで起こると考えています。
そして、そのイノベーションは、今スマホで起こっているように、それを作るハードメーカーや通信事業社だけでなく、その上でのコマース、コンテンツ、サービスなど幅広いプレーヤーにとっても大きなチャンスを生み出すと思います。
Chariotに関しては、今回の買収で VCとしての役割は一旦終わりとなります。
Scrum Venturesは、これからも、これからの10年、そしてその先の未来の社会に大きなインパクトを与えられるスタートアップに投資をし続けたいと思います。