『テクニウム~テクノロジーはどこへ向かうのか?』 ケヴィン・ケリー氏インタビュー ~『WIRED』創刊編集長が語るテクノロジーの進化と日本の未来

テクノロジーの進化を生命における生態系と同じものとして捉え、「テクノロジーは自律的に進化する」と主張する『テクニウム~テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房)。

テクノロジーの進化を生命における生態系と同じものとして捉え、「テクノロジーは自律的に進化する」と主張する『テクニウム~テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房)。雑誌『WIRED』の創刊編集長であり、長年テクノロジーの進化を最前線で見続けてきた著者のケヴィン・ケリー氏のこの主張は、世界中の読者に衝撃を与え、テクノロジーへの理解を更新させるほどのインパクトを与えた。我々は日々、テクノロジーの進化に晒され続けている。我々自身が作り出したテクノロジーが自律的に進化するというならば、どのようにテクノロジーと向き合っていくべきなのか。そして、ケリー氏は、現在の日本におけるデジタルマーケットをどのように見ているのか。ケリー氏に話を伺った。

ケヴィン・ケリー氏

著述家・編集者、雑誌『WIRED』の創刊編集長

テクノロジーは決して廃れず、常に前進し続ける

この本を書こうと思ったきっかけを教えてください。

私は世の中に溢れる新しいテクノロジーを使うべきなのか、それとも自分のわかる範囲で解決すべきなのかを決めかねていました。そしてあるとき、「テクノロジーにも背景にある理論のようなものがあるのではないか」と気付いたので、テクノロジーに関して見識のある人々にインタビューし、私がレポーターになってその理論を書き留めようと思ったのです。しかし3、4年続けた結果、誰もそのセオリーを持っていないことに気付きました。ならば、自分でセオリーを書き残す必要があると感じ、本書を執筆しました。

『テクニウム』は、テクノロジーについて語るうえで、宇宙や生命の進化といった幅広いテーマにまで範囲を広げられています。なぜ、このような壮大なテーマを関連付けて語ろうと思われたのですか?

生物学とテクノロジーはまったく同じものである、ということに気が付いたからです。なので、テクノロジーのセオリーを整理するにあたり、生物学と関連付けて語ることがベストだと思いました。ちょうどコインの表裏であるように。この議論においてそれを証明し得る題材はたくさんあります。たとえば、我々は生物学を精巧な機械としてモデル化できます。生物学の原理を抽出してそれを機械化すれば、極めて近い動きをさせることが可能であり、それは生物学のコアが非論理的なものではなく、コンピュータに移行できるほど数学的なものであることを示しています。

テクノロジーと生物学の相違点についてはどう考えられますか?

いい質問ですね。相違点はいくつかありますが、一つ確実な違いは、生物学ではその実体は廃れて消滅するが、テクノロジーは決して廃れず、常に前進し続けるということです。

本書では生物界における生態系と同じようなものとして、「テクニウム」というテクノロジーの活動空間があると提唱されています。「テクニウム」という言葉は、どのように思い付いたのでしょうか?

実は、しぶしぶ造ったのです。いろんな言葉を造りたがる人がいますが、私は違います。どちらかと言うと既存の言葉を使いたがるほうです。しかし、私が表現したい言葉が存在していないか、かなり時間をかけて探してみたものの、見つかりませんでした。そのため自分で言葉を造ったのです。他の造語と同様に、それが人々の記憶に残り続けるということは特に期待していません。ただ、私が表現したかったことは、「テクノロジー」という言葉では規模が足りませんでした。それだと鈍く、停滞してしまいます。私はもっと大きなシステム、ネットワークのことを言っています。「テクノロジー」が単数形だとすれば、私が言いたいのはより複数形に近い、巨大なネットワークです。それが「テクニウム」の意味です。

テクノロジーの雇い主でもあり、奴隷でもある

『テクニウム』では、「テクノロジーは自律的に進化する」と主張されています。

インターネットはシステムです。工場も、国の官僚制度も、郵便局もシステムです。牧草地や熱帯雨林も、あなたの体もシステムです。そしてあなたの考え方もシステムです。パーツがあるもので、その集合体がパーツ以上のものであれば、それはシステムなのです。そしてすべてのシステムの働きとして、得てして自身を保護する傾向にあります。あなたが怪我をしたり、どこかを打ったりしたとき、システムは自らそれを修復しようとします。それが私の言う利己的の意味です。なぜなら自分を守ろうとするということは、自我を持っているといえるからです。ですから我々が造るすべてのものがシステムである限り、それはテクニウムなのです。実際それらは、この世界を自分たち自身に向けて促す、言い換えれば世界を拡張して自分たちが存続しやすいようにしようとしています。そういうことから、利己的だと言えるのです。

なるほど。

ほとんどの人がソーシャルメディアなどを利用するとき、テクノロジーのために我々が働いていると感じられるのではないでしょうか。ソーシャルメディアがあるから、我々はさまざまなことをネット上に投稿します。物を買うときにも感じられるかもしれません。物を買えば買うほど必要な物が増えていきます。例えば車を買ったとすれば、ガレージをその車のために建てないといけない。さらに車のためのメンテナンスも必要になる。つまり、テクノロジーを支えるためのテクノロジーが必要になってくるのです。そのように見れば、テクノロジーのために我々が働いていると感じられるのではないでしょうか。

ならば我々はテクノロジーに対し、どのように向き合っていけばいいのでしょうか?

どのような関係を持てばいいのか、まさに私が最初にスタートした課題です。我々はテクノロジーの創造者です。しかし、一方でテクノロジーも我々を造るのです。我々は親でもあり、子でもあります。我々は雇い主でもあり、同時に彼らの奴隷でもあります。我々とテクノロジーとの関係ではそのような不一致が常に存在し続けるのです。そのため、とても心地の悪い関係性となりますが、それは永遠に続くのです。

テクノロジーによって人間が支配されてしまうのではないかと恐怖する人もいると思います。

テクノロジーの恐怖に打ち勝つには、試しに少しの間テクノロジーのない生活をしてみることが最善だと思います。私は最低週に一回、テクノロジーからの休暇を取ります。テクノロジーから避難するのです。実際に離れてみると、テクノロジーによって得られるものがコスト以上のものであることに気付くので、立ち返ることができます。ですから私の答えとしては、恐れずに、信じることによって、テクノロジーに立ち返ることができるということです。我々は常にそれが良いことであると信じ、確認し続けることが大事です。一方で、テクノロジーを完全に禁じたり、使用しなくしたりすることは逆効果だと私は考えます。我々はテクノロジーを実際に利用することによって、それを評価し続ける必要があります。テクノロジーが有用であるかどうかを見極めるには、実際にそれを利用することが唯一の方法なのです。

日本はもっと荒々しく、トライして失敗せよ

日本のデジタルマーケットについてはどう思われますか? 日本はしばしば「イノベーションが起こりにくい社会」だと言われることがあります。

日本の市場に関しては、正直よく知りません。ただ、皆さんはまだCDを購入されていると聞きました。私の子どもたちは、CDなんて買ったことはありませんよ。日本の市場に関して、一つメッセージとして挙げるならば、私が『WIRED』を始めた頃、今ある姿を想像することは不可能だったと思うのです。もし私が2、30年前に戻ったとして、携帯電話やインターネットなど今の世の中にあるすべてのことを誰かに伝えたとしても「そんなの無理だね、そんな経済モデルないでしょ。誰がそのお金を払うの? 情報が全部無料でもらえるなんて? そんなの不可能だね」と言われると思います。でも、今ここに、そういった世界は実在するのです。つまり、次の20年を考えたときに、多くのことが若干クレイジーで非現実的、非常に意味不明に思えるはずなのです。そしてきっと、今後20年で最も大きな発明は、今はまだ発明されていないでしょう。考えられてもいないのです。ですから日本のデジタルマーケットも、まだまだいくらでも巻き返しができると思っています。

最後に、日本の読者に対してメッセージをお願いします。

私には23歳の娘がいます。彼女は6か月間かけて日本を含む本当にたくさんのアジアの国々をめぐり、各国の若手企業家たちにインタビューをしていきました。若手企業家たちに会うのは本当にエキサイティングなことです。シリコンバレーで最も重要な発明やイノベーションはトランジスタではありませんでした。ソフトウェアでもなく、企業文化やスタートアップ文化そのものなのです。この文化はさまざまな国で広がっており、これからも増えていくでしょう。まさにあなたがた日本人は、青色LEDでノーベル賞を受賞したばかりですよね? もっとそういうことが必要なのです。私は、青色LEDのようなイノベーションが、これからはスタートアップ文化のなかから出てくると思っています。日本でも昔はもっとそういう文化があったと思うのですが、最近はあまり聞かないように思います。もっと荒々しくあっても良いと思っています。ですから、私からのメッセージとしては「トライをして失敗をしなさい」ということです。

                        (インタビュー・文=宮崎智之)

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