「デザインビルド」の懸念点
5月12日の環境保全専門家会議で、京都府と亀岡市は今後、アユモドキの重要な生息環境である、水田での調査や実証実験、そして環境保全専門家会議の検討を、「実施設計・建設工事」の一体的な発注と並行して進める、「デザインビルド」と呼ばれる新たな事業方式を導入する考えを委員に示しました。
この方式は、調査検討の結果を「実施設計」や「建設工事」の内容に反映させ、事業の途中の時点でも計画を柔軟に変更する、というものです。
しかし、この方式は、保護のための科学的な検証の済んでいない現状をそのままに、事業計画を前進させるものであり、場合によっては、取り返しのつかない重大な影響が、アユモドキにおよぶ可能性もあります。
また、柔軟に計画を変更するとは言うものの、見直しの基準や手続きは不明瞭で、アユモドキの存続が保障されるかどうか、今の時点では確証が得られていません。
京都府はさらに、5月20日、臨時会議を開催し、この新計画案を提示して、次の段階である公共事業評価委員会にかけることを決定しました。
しかし、本当にアユモドキや自然環境への配慮を考えるならば、こうした手続きは、スタジアムの立地や配置が、アユモドキの生息や繁殖に悪影響を及ぼすのか、そしてどうすればそれが回避できるのかを、科学的な根拠に基づいた環境影響評価を行なった後に見極めてから、進めるべきものです。
あくまで「予防原則」に基づく保全の手続きを
5月25日、この問題について、WWFジャパンは京都府知事および公共事業評価委員会委員長あてに意見書を提出。
実証実験の結果さえ判明していない中、水田や水路を消失させるなど、アユモドキ生息環境を改変してしまう可能性の高い、現在の予定地での建設を前提とした「実施設計や建設工事」費を予算化することについて、強く懸念を指摘すると共に、「アユモドキへの悪影響の回避や自然との共生が可能である」という京都府と亀岡市の根拠のない主張は、到底支持できない旨を申し入れました。
また、意見書では、このデザインビルド方式によるアユモドキ保全への影響についての懸念を表明。
世界の生物の多様性が微妙な均衡を保つことによって成り立っていること、また、科学的に解明されていない事象が多く、一度、種が絶滅したり、生態系が損なわれたりすると、その再生が非常に困難であることについても、あらためて述べると共に、環境保全専門家会議の意見や夏季に行なわれる実証実験の結果に基づいた、「予防原則」に基づく保全の手続きを経て、公共事業評価委員会に掛けるよう、十分な対応を求めました。
何より今後、このような方式の事例が認められれば、環境省が2020年までに新たに300種を指定しようとしている「絶滅の恐れのある種」についても、同様の開発手法が参考にされる恐れがあります。
悪しき事例にならないためにも「予防原則」に基づく手法が基本原則です。