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2018年06月20日 11時20分 JST | 更新 2018年06月20日 11時20分 JST

「生物多様性基本法制定10周年記念シンポジウム レッドリストと種の保存」開催報告

「レッドリスト」とは何か? その現状について

2018年6月2日、東京の早稲田大学で、WWFジャパン、日本自然保護協会、日本野鳥の会の共催による「生物多様性基本法制定10周年記念シンポジウム レッドリストと種の保存」が開催されました。生物多様性や生態系を構成する「種(しゅ)」。それを保全する手立ての一つである「レッドリスト」には、世界全体で今や2万5,000種を超える野生生物が記載されています。シンポジウムでは、このレッドリストが抱える現状の課題、そしてその活用を通じた今後の生物多様性の保全の可能性について、220名にのぼる参加者をまじえた議論が交わされました。

生物多様性基本法の成立から10年


地球上の生物多様性を構成する一つの単位である野生生物の「種(しゅ)」。 動物や植物をはじめとするこの野生生物は、科学界に報告されているものだけでも173万種以上にのぼります。 現在、深刻な危機にさらされている生物多様性をいかに守ってゆくのか。その手段を考えた時、この「種」の保全はきわめて重要な課題の一つとなります。 そうした課題とこれからの取り組みについて検討する催しが、WWFジャパン、日本自然保護協会、日本野鳥の会の3団体の共催により2018年6月2日、東京の早稲田大学にて開催されました。 この日のシンポジウムには、学生や一般の参加者をはじめ、同法の成立にかかわった方々や、北は北海道から南は九州まで、全国各地で種の保全に取り組む関係者およそ220名が参加。 会場からも積極的な発言や質問をお寄せいただきました。

生物多様性基本法制定10周年記念シンポジウム レッドリストと種の保存 開催概要


第一部【講演】
●生物多様性基本法制定の経緯:田島一成(前衆議院議員)
●生物多様性総合評価(JBO)におけるレッドリスト評価:中静透(総合地球環境学研究所特任教授)

第二部【話題提供】
●種の保存を中心とした環境省の生物多様性保全施策について ~改正種の保存法を踏まえた今後の取組に向けて~:奥田直久(環境省自然環境局自然環境計画課長)
I●UCNレッドリストについて:道家哲平(IUCN日本委員会事務局長兼副会長)
●レッドリストの基本的な考え方:石井実(大阪府立大学副学長)
●環境省・水産庁の海洋生物レッドリスト見直しに向けた評価基準の考え方:松田裕之(横浜国立大学教授)
●IUCNレッドリスト評価のニホンウナギの考え方:海部健三(中央大学准教授)

「生物多様性基本法制定10周年記念シンポジウム レッドリストと種の保存」と題したこのシンポジウムは、そのタイトルの通り、2018年が日本の生物多様性基本法の成立から10周年、そして国連の生物多様性条約の発効から25周年を迎えることを受けたものです。 この生物多様性基本法は、2008年6月に議員立法として成立した、日本の自然保護の基礎的な方針を定める、まさに自然保護行政の柱となる法律です。 この法律が制定されるまで、日本では「鳥獣保護法」や「種の保存法」など、自然保護や野生生物保全の課題は、それぞれの事象にかかわる個別の法律でばらばらに取り組まれてきました。 そこで、WWFをはじめ約100団体におよぶ日本の自然保護団体が協力して法律の文案を作成。 それを、国会議員を通じて国会に提出し、与野党での協議と合意を経て、生物多様性基本法を成立させたのです。 これは、国として、生物多様性の保全と持続可能な利用に取り組む方針と、そのための基本原則を初めて明らかにする、日本で初めての法律でした。

「レッドリスト」とは何か? その現状について


シンポジウムではまず、この生物多様性基本法の成立の経緯やその貢献、いまだ残される課題が紹介され、今後に向けた取り組みの在り方が問われる形で議論がスタート。 続いて、「種」の危機を明らかにする世界と日本、それぞれの「レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)」の紹介と、その活用について話題提供が行なわれました。 2018年5月22日に発表された環境省の最新版レッドリストに、絶滅危惧種(絶滅危惧ⅠA類(CR)、絶滅危惧ⅠB類(EN)、絶滅危惧Ⅱ類 (VU) )として記載された日本国内の野生生物は3,675種(亜種、変種含む)。 一方、IUCN(国際自然保護連合)が公開している世界の野生生物のレッドリストには、25,821種が絶滅の恐れが高い種として掲載されています。 議論では、こうした危機的な状況を明らかにするものを「リスト化」することの重要さ、そしてレッドリストが今日では単なるリストにとどまらず、「データベース」として、さまざまな形で活用するべきツールであることが、あらためて指摘、強調されました。 また、IUCNと環境省のレッドリストの基準の相違や、2017年に日本で初めて作成された海洋生物のレッドリストと、それが抱える問題点、その具体的なポイントについて特にニホンウナギについての事例を、環境省や研究者の方々からお話をいただきました。

これからの保全に向けた貢献と役割


この日のシンポジウムでは、日本のレッドリストのデータが明らかにする一つの現状についても紹介されました。 それは、開発など人がかかわることよって生じる脅威が、いまだに国内の野生生物を脅かす最大の原因である一方、2番目の脅威として、「人がかかわらなくなったこと」で危機に瀕している自然がある、というものです。 これは具体的には、里山や二次林のような、人が管理することで維持されてきた環境が、近年のライフスタイルの変化などによって減少してきたことを受け、生じている危機です。 実際、里山を生息域とするメダカなどの身近な野生生物が、近年レッドリストに数多く名を連ねるようになりました。 最後のパネルディスカッションでも、こうした課題を象徴する事例の一つとして、京都と岡山にしか生息していない希少な淡水魚アユモドキの保全の経緯を紹介。 アユモドキがもともと、氾濫原(定期的に冠水する環境)の水田でしか産卵しない魚であることや、そうした環境の減少によって絶滅の危機に追い込まれていること、さらにその危機をレッドリストによる評価が明らかにしたことで、保全に向けた動きが加速した可能性についてお話がありました。

レッドリストの用途は、そこに記載されている野生生物の希少さや、生息域の自然が持つ価値を知ることだけにとどまりません。 保全すべき環境の評価や環境教育、一般の関心を喚起するものまで、さまざまな分野、手段に広がる可能性を秘めています。 もちろん、レッドリストだけで野生生物を守ることは不可能です。 水田が無ければ生きられないアユモドキも、農業者の協力無くしては守れません。 実際に、農業に携わる地域の人たちの心を動かしたのは、必ずしもレッドリストの評価ではなく、昔の水田、昔の風景への思い、泥だらけになって遊んでいた子ども時代の経験、それらを引き継いでいきたい、「そのためならば、アユモドキを守ろう」という気持ちでした。 さまざまな要素が必要とされる生物多様性、そして野生生物の保全において、何が必要とされるのか。その中でレッドリストはどのような役割を果たしてゆけるのか。 それは、これからの未来に向け、日本の自然保護を担っていく人たちにかかっています。 この記念シンポジウムが、これからの保全を進める結果につながるような、それに向けたさらなる一歩になれば、と参加者、パネリストの皆さん全員が願った一日でした。

無償で会場を貸与くださった早稲田大学の関係者の方々をはじめ、開催にご協力をくださった皆さま、そしてご参加くださった皆さま、本当にありがとうございました。

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「生物多様性基本法制定10周年記念シンポジウム レッドリストと種の保存」開催報告