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2018年04月03日 15時20分 JST | 更新 2018年04月03日 15時20分 JST

外国人旅行客をあなたが暮らす地方の町に呼び込むためにできること

地方に外国人観光客を呼び込むなら、その街の一大イベントを売り込むべき。

 気温は氷点下。積雪2メートル以上。元祖「雪国」である新潟県南魚沼市の浦佐地区で毎年33日、褌と足袋だけを身に付けた100人ほどの男たちが沐浴をした後、寺の境内で誰よりも先にお祈りをしようと押し合う。時には窒息するほどの圧力がかかり、頭やひじが容赦なくぶつかり合う。病院に運ばれる人がいたこともある。男たちの大半はお酒を飲んで体を温めているため、「てめえ!ふざけんな!」などと叫び声が上がり、そこら中でもみあいが起きる。警備員たちは大忙しだ。参加した友人たちの多くは、体中アザだらけになる。

浦佐で生まれ育った私は、子どもの頃はこの祭りが当たり前のことだと思っていた。しかし、海外に17年住んで戻ってきて、改めてこの祭りを見ると、「本当にここは日本か?」と疑いたくなる。スノーシュー体験イベントなど、1パーセントでも負傷する可能性があるイベントでは参加者の保険加入が必須にも関わらず、こんなケガ人がいつ出てもおかしくない状況で、誰一人保険に入っていない。「ケガをしても個人の責任で」という書類にサインもしない。足袋と褌があって成人男性なら、当日の午後6時に「やりたいです」と言うだけで、誰でもそのまま輪の中に入れてもらえる。名前を書く必要もない。まさにここはクレイジーな男たちが自由に集まって、好きなだけクレイジーになれる日本の聖域なのだ。

浦佐の裸押し合い祭りは1200年の歴史があるとされ、今年1月、国の文化審議会はこの祭りを重要無形民俗文化財に指定するよう答申した。国内外の観光客に「浦佐においでよ!」と言える日があるとしたら、この日しかない。しかし、祭りに来る人のほとんどは地元の人かその親せきや友人たちで、観光客を呼び込む起爆剤にはなっていない。私が考えられる理由は二つ。

第一に、33日開催と決まっているため、ほとんどの場合平日になる。

第二に、裸押し合いは午後10時ごろまでやっているため、遠方から来るには浦佐に一泊しなくてはいけないのだが、宿泊施設が限られる。

この二つのハードルさえクリアし、うまくPRすれば、観光客、特に体験型が好きな外国人観光客をたくさん呼び込むことができるのではないか。私個人で何か試験的にできないか考えた。

偶然にも、今年は土曜日開催となり、一つ目のハードルはクリアだ。問題は宿泊施設。考えた結果、一つのアイデアが浮かんだ。浦佐には大きな住居がたくさんあるのだが、若者が出た家庭が多く、空き部屋が多い。観光客を一泊泊めてもいいという住民をリストアップし、祭限定の1泊ホームステイプログラムを組んで、観光客を呼び込めないか。7人兄弟の私の実家も両親しか暮らしておらず、空き部屋が三つもある。

私は簡単な案内文を英語で作り、日本在住外国人15000人が情報共有するフェイスブックグループ「Tokyo Expat Network」に投稿した。

そしたら、東京在住の米国人3人、ポーランド人1人、シンガポール人1人、日本人2人計7人が来ることになり、私の家と実家にそれぞれ泊まってもらうことになった。

7人中、裸押し合いに実際に参加するのは、ポーランド人男性のエミルさんだけ。日本語ペラペラのエミルさんはユーチューバー兼ポーランド人対象の観光ガイドもやっていて、うまくいけば、来年の祭りにポーランド人をたくさん連れてきてくれるかもしれない。

33日午前1037分の新幹線で一行は浦佐駅に到着。駅であいさつした後、駅前から始まる屋台通りを歩き、一通り説明した後は自由行動。エミルさんには裸押し合いに出る人の集合場所と、褌と足袋の購入場所を教えた。

エミルさんは午後5時半ごろから着替えはじめ、地元の人の手を借りて褌などを身に付けた。そのまま輪の中に入れてもらい、4人人列で肩を組み、「サンヨーサンヨー」という掛け声で境内へ歩き始めた。「ローソクの火があるし、人といつもくっついているから思ったより寒くない」とエミルさん。順番に沐浴をし、雪の上を走って境内で押し合った。押し合い中に福持が巻かれ、エミルさんも二つゲット。

エミルさんに感想を聞くと、第一声が「日本に来て5年になるけど、最高の体験でした!」と興奮気味。「日本の伝統行事なのに全然日本っぽくない。日本人って、本来は礼儀正しくて、平和的で、イベントがあれば事前申し込みが必要で、参加費とかあるじゃないですか。でも、これは、すべて正反対だった。誰でも飛び込みで参加できて、ものすごい力で押し合って、押し合っている中に大きなローソクが入ってきて、髪の毛焼かれそうになったし、とにかく危なかった。こんな体験型のお祭りがあるって知ったら、たくさんの外国人が来ると思う。来年ポーランド人旅行者がたくさん来れるよう、ツアーを組んでみたい」と言ってくれた。

一緒にきたエミルさんの妻、大塚愛子さんは週刊誌の記者で旅行記を執筆したりする。国内の観光スポットを色々見てきた大塚さんでさえ、「祭りの熱気、迫力には本当に圧倒されました。一つ間違ったら大怪我もあり得るあの危なさも含め、"本物"の祭りが今も引き継がれていることに感動しました。今回は冬の山々の美しさを楽しんだので、次回はぜひ夏に浦佐にお邪魔したいです」と言う。

来年は、地元の観光協会や市役所に働きかけ、このホームステイプログラムを大規模化してたくさんの観光客に来てもらえるようにしたい。

まとめ

●地方に外国人観光客を呼び込むなら、その街の一大イベントを売り込むべき。

●一大イベントを特定の日付開催にすると平日開催になることが多いため、その習慣を改め、〇月の第〇土曜日とかにする

●宿泊施設が限られる地方の街は、一泊ホームステイプログラムで観光客をご招待する

大塚愛子
大塚愛子