今年4月から始まった新型出生前診断は3カ月間で全国で計1534人が利用し、全体の1.9%に当たる29人で「陽性」と出たことが分かった。妊婦の血液からダウン症など3種類の染色体異常を調べるもので、「陽性」と出た人のうち羊水検査による確定診断を受けた2人が人工妊娠中絶をしていた。朝日新聞デジタルが伝えた。
研究チームによると、陽性の内訳はダウン症が16人、18番目の染色体が多い18トリソミーが9人、13トリソミーが4人(用語参照)。
陽性判定を受けた中で、詳細が分かっているのは11人。このうち少なくとも6人が羊水検査などを受けて染色体異常が確定し、少なくとも2人が中絶を選んだ。実際には異常のない「偽陽性」も2人いた。1人は自然流産し、2人は確定検査結果がまだ出ていないと時事通信は伝えている。
従来の出生前診断は、おなかに超音波を当てて赤ちゃんの形を見たり、お母さんの血液で赤ちゃんから出たたんぱく質を調べたりする方法などいろいろあるが、これまでの検査では異常の可能性が高いか低いかしか分からなった。確実に知るためには、羊水を採って調べる必要がある。ただ、羊水を採る時に、母親のおなかに太い針を刺すために、赤ちゃんが流産してしまう危険がある。毎年数十人の赤ちゃんが、羊水検査が原因で命を落としていると考えられている。(朝日新聞デジタル「(ニュースのおさらい)新しい出生前診断って何?」より)
新しい出生前診断は、妊婦の血液で胎児の3種類の染色体異常が高い確率でわかる。採血だけで簡単にでき、「十分な情報がないまま検査を受ければ命の選別につながる」との指摘もある。日本産科婦人科学会は指針で、対象を他の検査で染色体異常が疑われた場合や高齢妊娠などに限定。「十分な遺伝カウンセリングができる」と日本医学会が認定した施設のみで行う。現在15病院が認定されている。血液は米国の検査会社に送られ、2週間で結果が出る。
(コトバンク「新型の出生前診断」より)
陽性が出たときの精度は35歳の妊婦で80%と比較的高いが、異常の確定には羊水検査などを行う必要がある。(時事通信ドットコム「新型出生前診断」より)
技術進歩により、あらゆる疾患が出生前に分かる検査ができる可能性がある。そうなれば、どの疾患なら検査すべきなのか、線引きが難しくなる。
また、「命の選別」が進むことも懸念される。日本では胎児に異常があることを理由とした人工妊娠中絶は認められていない。だが、実際には母体の健康を害するなどという理由で中絶するケースは多く、妊婦の判断に委ねられているのが現状だ。中絶を選んだ妊婦は心に大きな傷を抱えるとされ、カウンセリング体制の充実も課題だ。
※新型出生前診断の是非、また、「命の選別」について、みなさんのご意見をお寄せください
■ 用語
通常2本の染色体が3本になった状態
精神発達遅滞、後頭部突出、耳介(じかい)の低位、小顎症(しょうがくしょう)、先天性の心臓の形態異常、指の屈曲と拘縮(こうしゅく)、足の変形などがみられる。発生頻度は、出生約3500人に1人といわれている。
13番染色体に1本過剰な染色体がある。精神発達遅滞のほか、前頭部の発育不良、無眼球症または小眼球症、虹彩(こうさい)欠損、両眼開離(りょうがんかいり)、口蓋裂(こうがいれつ)、口唇裂、耳介の低位、多指趾症(たしししょう)、先天性心臓形態異常、腸回転異常などの多彩な形態異常がみられます。発生頻度は出生5000人に1人といわれ、多くは生後3か月以内に死亡するといわれている。
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