防衛大綱の中間報告で浮上してきた、自衛隊ハイテク化の必要性
防衛省は7月26日、日本の防衛力のあり方と保有すべき防衛力の水準を示す「防衛計画の大綱(防衛大綱)」の中間報告を発表した。中国の軍事的プレゼンスの拡大や北朝鮮のミサイル問題などをふまえ、無人機の導入や海兵隊的な水陸両用展開能力の確保などをうたっている。
報告書では、中国の日本近辺での活動の活発化や北朝鮮のミサイル発射実験などによって、日本をとりまく安全保障環境は深刻化していると分析。その上で、全般的な警戒監視能力の向上、島しょ部への攻撃への対応能力の確保、弾道ミサイル迎撃能力の拡大などが必要と主張している。
具体的な対応策としては、グローバルホークなどの無人機の導入、米国海兵隊をモデルにした水陸両用展開能力の保持、弾道ミサイル迎撃システムの能力向上などをかかげている。
報告書は安全保障をめぐる日本の現状を反映したものになっており、おおむね妥当性のある内容といえる。一方、防衛力の整備計画や全体的な防衛力の質的向上については課題も残している。
防衛大綱では別表という形で、自衛隊の体制、主要装備の整備目標、経費総額などを定めているが、財務省は防衛費の固定化につながるとして取りやめるよう求めている。これに対して中間報告では、防衛力の整備は短期的視点では実現できないことなどを理由に別表での表記は必要と主張している。
防衛力の整備に中長期的視点が必要という点は正論だが、こうした中長期見通しが自衛隊の現状維持につながっているのも事実である。
現在先進各国では兵器の驚異的なハイテク化に伴い、兵員の数を減らしハイテク兵器を充実させる体質転換を急速に進めている。例えば、1960年代に30万人を超えていた英国軍兵士は現在では約10万人、2015年には8万人にまで減少する見込みである。フランスも兵員の数を半減させる方針だ。
これに対して日本の自衛隊員の数は1960年代から約27万人とほとんど変わっていない。しかも防衛費の増額にあわせて防衛省は自衛官の増員も求めている。日本の人件費比率は上昇しており、労働集約的な組織になりつつある(本誌記事「日本の軍事費は世界第5位に。だが自衛隊の「質」はどの程度なのか?」参照)。
別表での表記が、自衛隊の体質転換やハイテク化を前提にした整備目標として機能するのであれば、財務省の意向とは関係なく、こうした取り組みは評価すべきものとして認識されるはずである。防衛力に関する政治的タブーがなくなってきた今、防衛力のあり方についてはもっと国民的な議論が必要になるだろう。
政府は中間報告をたたき台に、省庁間や与党内の調整を経て年内に新大綱を閣議決定する予定だ。
【参考記事】
関連記事