イスラム国掃討、アメリカ主導の有志連合に交錯する思惑

イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」の掃討に向け、オバマ米大統領が「幅広い有志連合」を構築すると発表して約2週間。しかし、各国の思惑には大きな差がある。
Reuters

[ワシントン 23日 ロイター] - イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」の掃討に向け、オバマ米大統領が「幅広い有志連合」を構築すると発表して約2週間。中東の有志国がシリアでの空爆に参加するなど、米軍事行動に対する国際協力の構図は固まりつつあるように見える。

しかし、各国の思惑には大きな差があり、オバマ大統領自身が数年かかる可能性もあると認める作戦で、有志連合が実際にどこまで結束できるかは依然不透明だ。イスラム国掃討作戦では、有志連合側の兵士や民間人に犠牲者が出るなどの難しい事態も予想される。

「幅広い有志連合を団結させる力は共通の脅威だ」。こう語るのは、1991年の湾岸戦争時に米国主導の連合構築に携わったエドワード・ジェレジアン元米大使。

現在はライス大学ベイカー研究所の所長を務めるジェレジアン氏は、「(今回の)有志連合が、結束力の点でどの程度強いのかは分からない。それが大きな問題だ」と指摘した。

米中央軍によると、シリアで夜間に始まった空爆には、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、ヨルダン、バーレーン、カタールが参加した。

米国や西側の当局者らは、「圧倒的多数」の爆弾やミサイルを投下したのは米軍だが、中東諸国の参加は地政学的に重要な意味を持つと語る。西側と戦っているというイスラム国の大義名分を弱めることになるからだ。

中東諸国はこれまで、シリアの内戦ではそれぞれ異なる勢力を支援していた。サウジと同国周辺各国は、米国との軍事協力に反対する武装勢力から報復攻撃を受けるかもしれない。一方、ヨルダンは、国境を接するシリアから流入する多くの難民の扱いに苦慮している。

ただ、匿名の米国務省の高官は、中東有志国とオバマ大統領・ケリー国務長官の間で行われた複数の会談では、「長期間にわたる」作戦遂行に「完全な合意」があったと明かしている。

別の同省高官によれば、サウジのアブドラ国王は今月11日に行われたケリー長官との2時間にわたる会談で、「必要なら空爆を含めて何でも協力する」と申し出た。

また、ケリー長官はその数日後、パリで会談したUAE外相に対し、サウジの後に続くよう要請。ヨルダンのアブドラ国王に対しては、今月に入ってアンマンで開催された夕食会で有志連合に参加するよう呼びかけ、19日にワシントンで行われた非公表の直前会合でも協力を求めたという。

<思惑交錯で「玉虫色」>

シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」のジョン・アルターマン副代表は、中東有志国の軍事力は米国に比べると非常に限られていると指摘。中東有志国はオバマ政権に「象徴的に」軍事支援を提供したが、実際の役割に変化は生じないと述べた。

中東有志国とは対照的に、これまで米国と軍事行動を共にすることが多かった英国とフランスは今回、武力行使は慎重に進めている。

フランスは、イラクではイスラム国を狙った空爆を数回行っているが、シリアでは実施しないとしている。

英国はここまで、人道支援物資の輸送支援のほか、諜報活動やクルド民兵組織への武器供与は行っているが、直接の戦闘行為には踏み込んでいない。

キャメロン英首相の報道官は23日、同首相はシリアでの空爆を支持しており、「ISIL(イスラム国の別称)の脅威に対する国際的な取り組みに英国がより貢献できる方策」について国連総会の場で協議すると述べた。

中東有志国の空爆参加は、米国主導の軍事行動に懐疑的な欧州の世論を変える可能性がある。

米国務省が公表した報告書には、イスラム国掃討に協力を表明した国として54カ国が名を連ね、その中には、自国東部で親ロシア派との深刻な衝突を抱えるウクライナも入っている。

米当局者によれば、グルジアからは、米国が支援するシリア反政府勢力の訓練を引き受けるとの申し出もあったという。

ただ多くの国は、政治的支援の表明にとどまっているようだ。

ギリシャのベニゼロス外相はロイターの取材に対し、米政府から具体的な要望は受けていないが、人道支援や軍事支援の用意はできていると説明。「われわれからの提案はまだ何もないが、政治的に言って、われわれも有志連合の一部だ」と語った。

協力国リストには入っているが、態度を明確にしていない国の1つは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国でもあり、シリアと国境を接しているトルコだ。

一部のアナリストは、イスラム国が6月から拘束を続けていたトルコ人約50人が先に解放されたため、トルコは行動の選択肢が増えたと指摘する。

しかし、米当局者は、シリア人難民の大量流入に頭を悩ませているトルコは慎重姿勢を崩さないとみている。

トルコのエルドアン大統領は23日、米国主導の空爆について、軍事支援もしくは後方支援を提供することが可能だと表明したが、具体的な中身については言及しなかった。

(原文:Warren Strobel記者、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)

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