横浜市のベンチャー企業「ワカゾウ」が、2015年の統一地方選に向け若者の投票率をあげるための一風変わった試みを行っている。「投票に行きましょう」「政治に興味を持ちましょう」と呼びかけるのをやめ、「投票すればお得なサービスが受けられます」とアピールしたり、「若者が投票に行かない理由」を紹介したりするものだ。
若者だけではなく大人の意識も変えることが目的だというがどういうことだろうか。担当者に話を聞いた。
■「選挙に行こうと説けば説くほど、若者は引いてしまう」
企画を主導するワカゾウは、政党や政治家のホームページ制作や情報戦略の策定、政策資料をつくるサポートなど、“硬め”の顧客を相手にする企業だが、平均年齢は34歳と若い。その感覚を活かして「いかに若者に政治を分かりやすく伝えるか」に重点を置き、業務に取り組んでいる。
「政治家は皆、若者に投票に行ってほしい、若い人に政治に興味を持ってもらいたいと思っています」
ワカゾウで政治家向けの広報戦略立案を担当し自身も選挙に立候補した経験がある伊藤和徳さん(30)は、そう政治家の考えを代弁する。しかし、難しい専門用語を使ったり、政治家のスキャンダルばかりを報じたりするマスメディアによって、人は幼いころから政治に悪い印象を持ってしまうのだと、有権者の気持ちも分析する。
「そんななかで、選挙に行くことは義務だとか、政治に興味を持とうなど上から目線で説いても、若い人は引いてしまうんです」
どこか“怪しい”大人に、よくわからない言葉で投票を呼びかけられても、若い感性には受け入れてもらえないのだと、伊藤さんは指摘した。
そこで思いついたのが、選挙に対する雰囲気を、街ごと変えてしまおうという「センキョ割」という割引サービスだった。
■「選挙はマーケットが大きい最大のイベント」
「センキョ割」は、投票後に加盟する店に行くと、「ワンドリンク無料」や「CDレンタル無料」など、各店舗で特典が受けられるサービスだ。特典を受けるために投票に行くというインセンティブもあるが、大声でがなる選挙カーや政治家の演説ばかりが選挙の風物詩ではなく、選挙は楽しいイベントなのだと加盟店のオーナーや従業員ら普通の大人が若者に伝える目的もある。
35歳以下の有権者が対象で、2012年12月の衆院選に始まり、2013年7月の参院選、8月の横浜市長選、10月の川崎市長選などに合わせて、ワカゾウが主体となって運営。これ以外にも、2013年10月の神戸市長選や2014年5月のドイツやルーマニアで行われたEU議会議員選挙など、日本だけでなく世界に広がりを見せている。
特徴は「およそ選挙に関係ないと思われる人たちが、なにか楽しそうにやっていることを見せること」。センキョ割のチラシなども、制服姿の女子高生やコスプレをした大学生のボランティアが「私たちはまだ選挙権がないのだけれど、センパイ、是非投票に行ってみてください」というように配布するのだという。
自分と年齢の近い人たちが、何か楽しそうなことをやっていると、チラシを受け取ってくれる。センキョ割を知って「初めて選挙に行こうと思った」という声も聞いたという。
さらに、商店街にとっては客を呼ぶきっかけにもなる。
「選挙は、日本で最大のイベントなんです。投票率は低くても、大人の40%が参加するイベントと考えるとマーケットはでかい。これだけ大人が参加する行事って、選挙しか無いですよね。地域の商店にとっては、普段は商店街に寄らない若者を、選挙をきっかけに使ってもらうきっかけにもなるんです」
■若者の政治参加の障壁の一つは「意識高い大人」だった
もちろん、センキョ割に対する厳しい声もあったと、伊藤さんは話す。
「サービス目的に選挙に行くとは、ケシカランという指摘も頂きました」
政治家からだけでなく、一般の方からも、「何も考えないで投票するのは良くないのではないか」と言われたという。
一方で、若者にセンキョ割の感想を聞いてみると、「センキョ割で選挙に行こうと思ったときに初めて、どんな人が何を考えて立候補しているのか、知りたいと思った」という声が出たのも事実だ。このようなフィードバックを政治家や店舗に伝えることで、参加したいという企業も増えた。
しかし、若者へのヒアリングを行っているときに、衝撃的な言葉を聞いた。ある若者が述べた、選挙に行かない理由だった。
「20代前半ぐらいの方でした。『選挙に行かないのは、社会や政治について知らない自分が投票しても迷惑だから』って言われたんです。「意識高い大人」の言葉に萎縮してしまって、投票に行けなくなっている若者がいることに気がついたんです」
若者が投票に行かないのは、面倒くさいことだけが理由ではない。若者と大人の間でギャップが生じ、それが投票率を下げる障壁になっている。その状況を解消し、お互いが歩み寄れる方法はないかと考えたときに、若者が投票に行かない気持ちを、大人に伝えることを思いついた。投票に行かない若者や、その家族らに対し、なぜ選挙に参加しないのかをインタビュー。その内容をインターネット上に公開する準備を進めている。若者の考えを読んでもらうことで、大人にも若者の気持ちを理解してもらいたい、意識を変えてほしいという願いからだ。
「政治に参加したほうがいいことは、若い人たちも理解しています。しかし、気軽に参加できない雰囲気も感じている。私たちは、街中が若い人たちに選挙に行くことを歓迎しているよという雰囲気を作りたいんです。とはいえ、お金はかかってしまうんですけれど…」
これまでワカゾウが運営したセンキョ割は、同社の持ち出しで実施されたものだ。これを統一地方選で全国展開するには、資金的に無理がある。参加企業をホームページに登録する作業の外部委託料や、街で配るチラシの印刷代をクラウドファンディングで募っているが、持続可能な事業に育てるにはまだまだ課題も多い。加盟する店舗も「心意気」で参加しているのだという。
「運用資金の継続的な調達には、キャンペーン実施のための広報ツールの物販なども考えています。『投票に参加してほしいけど、とにかく伝えることが難しい』という人はたくさんいると思います。ちょっとした社会のつまずきを解消できるコンテンツを作成していきたい」
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