ソフトバンクグループの孫正義社長は8月6日の決算会見で、「心がウキウキして、嬉しくてたまらない」と述べ、今後のビジネスについての意気込みを語った。「ワクワクしている」理由は、アメリカで展開する「スプリント」事業の設計図が見えたからだという。
スプリント事業は、2001年の通信事業参入(Yahoo!BB)と2006年の携帯事業参入(ボーダフォン買収)に続き、ソフトバンクにとって「3度目の挑戦」(孫社長)となる。ソフトバンクは2013年7月、アメリカ進出の足がかりとして業界3位のスプリントを買収。さらに業界4位のTモバイルの買収に乗り出す。スプリントとTモバイルを合併させることでアメリカ1位のベライゾンや2位のAT&Tと同様の規模になるため、「三国志のような状態になれば、十分な戦いができる」と考えていたのだという。
しかし、アメリカ当局から承認を受けられず、ソフトバンクは2014年8月にTモバイルの買収を断念する。この時の心境について孫社長は、「自信をなくして、スプリントを手放すことまで覚悟した」と告白。「正直言って、意気消沈していた」と打ち明けた。
しかしその後、ベライゾンやAT&Tを追い越せるような計画を建てられるまでに「自信が蘇ってきた」と説明。日本の成功パターンをスプリントに持ち込み、再建を図る戦略が見えたのだという。
孫社長によると、現在スプリントはソフトバンクモバイルより契約者数が多く、売り上げも大きいという。しかし、スプリントの利益は国内通信事業の3分の1。経営効率を改善するために、営業費用(OPEX)と設備投資(CAPEX)を大幅に削減する方針を示した。その方法が、ソフトバンクモバイルで培った日本のやり方だ。
「従来スプリントが持っていた設備投資計画よりも、大幅に金額を減らし、期間も5年から2年に短縮する。それでもなお、ライバル企業を超えるネットワークを作れる。」。
孫社長は現在のアメリカの通信事情を説明。上位4社とも、特に都市部でネットワークの環境が悪く、スマートフォンで言えば「風車がグルグル回っている状態がしょっちゅうあり、恐ろしいほど繋がりにくい」と述べた。そのため、ネットワークの品質向上が、事業拡大のカギを握ると指摘し、その方法は、ソフトバンクモバイルで培ったノウハウが使えるとした。
「いくら説明してもわかってもらえなかったが、ソフトバンクモバイルでは、繋がりにくい電波しか許認可をもらっていなかった。その状況から、なんとか接続率を上げるような様々な工夫を行ってた。それが、3年ぐらい前に900メガヘルツ・プラチナバンドの許可を得てから、努力が一気に花開いた。そのノウハウをスプリントにも持ってくる。少ない設備投資で接続率をナンバーワンにする」。
孫社長は具体的な設備投資については明かさなかったが、スプリントの持つ2.5ギガヘルツの周波数帯を活用した次世代ネットワークで、他社を追い越す計画だと語った。2.5ギガヘルツの特徴について、孫社長は「他の電波より距離が飛ばないので、(必要な設備を)たくさんつくる必要が出てくる」と指摘する。しかし、スプリントの持っている2.5ギガヘルツ帯は、「車の車線で言うと他社の10倍の車線を持っているようなもの」だと孫社長は説明。特徴を活かした設計にしたいと述べた。
ネットワーク設計についても、孫社長自らが「チーフネットワークオフィサー」として、設計に携わっていると自信を見せる。当初はアメリカのエンジニアに任せていたというが、上がってきた案があまりにも一般的で、膨大な設備投資が要求されるものだったとして、口出しせずにいるのが「がまんできなくなった」と笑った。孫社長は、「このネットワーク設計でうまく行かなかったら、僕の責任」と話し、2年後くらいには改善のめどがたっていると胸を張った。
スプリントの事業規模に対して、専門家からは「アメリカ政府は別に第3のAT&TやVerizon Wirelessがほしいわけではなく、スプリントやTモバイルには別の役割を果たしてほしいと考えている節があったのではないか」とする見方がある。ITジャーナリストの鈴木淳也氏は、スプリントを巨大キャリアに成長させたいはずの孫社長にとって「大手2社からこぼれた領域をカバーしろ」というアメリカ政府の要望は、「ビジネスとして面白味はあまりないはず」と指摘している。
しかし、孫社長はこの日の会見で「私が公の場で話したことで実現しなかったものは、私の記憶ではない」と述べ、実現できるプランであることを強調した。
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