「パルミラ神殿の破壊だけが、シリア人の壊滅を世界に気付かせるきっかけになっている」 専門家は嘆く

ある専門家は、象徴的な神殿の破壊がなければ世界にシリア社会の「寸断」が知られることがないのかと、疑問に思っていた。

ある専門家は、象徴的な神殿の破壊がなければ世界にシリア社会の「寸断」が知られることがないのかと、疑問に思っていた。彼女は、過激派組織IS(イスラム国)によって何百万人の命が奪われ、パルミアの歴史ある神殿が破壊されていることを記憶しているかを人々に尋ねていた時に、そう思った。

シリアの専門家ダイアナ・ダーク氏の発言を伝えた報道によると、「ISIS」としても知られているISは、シリアのパルミラ遺跡にある古代ローマ遺跡で「宝石」といわれる築2000年になる「ベル神殿」を、粉々に破壊した。

ダーク氏はBBCラジオ4のトゥデーの番組のなかで、過激派グループが先週、パルミラにある、小さめの神殿の50倍もの大きさがあるバールシャミン神殿を、がれきにしてしまったことについて「想像を絶する」と語った。

「パルミラをなくしたことで、国中のいたるところでシリア人は泣いていることでしょう」。ダーク氏はそう言った。しかし、彼女は「とても怒りました」とも語った。なぜなら、有名な考古学的な遺跡が攻撃を受けるまで、シリアの状況は世界の注意を引かなかったからだ。

爆破されたと報道された巨大なベル神殿

「それは大きな問題です。シリアの中で何が起こっているのか、シリア人の絶望感というものに対して、神殿の破壊が起きるまで人々の関心が向かないことに、とても怒りを感じます」

「シリアは寸断されています。シリア社会は寸断されてしまい、このように神殿の破壊のようなことがなければ、私たちがそれに関心を向けることがないのです」。彼女はそう言った。

シリアについて何冊かの著書があるダーク氏は、国内の状況はほとんど改善されておらず、それが今、「開放創」(外力による損傷で皮膚に生じた開口・亀裂)になってヨーロッパへの移民の激増の引き金になっていると強調した。

「想像を絶します。もちろんこの問題は、これらすべてから逃げ出す移民という形で私たちにも波及しています。そしてその問題は、手当もされず、開放創として4年も放っておかれているのです」

膨張式の小さいボートで逃げてギリシャに到着したシリア人女性とその息子

国連によると、 内戦前の人口の半分にあたる1100万人以上のシリア人 が、紛争のため家から撤去せざを得なくなっている。

ダーク氏は、シリア人が「自分たちの文化遺産を失っていると感じています」と付け加えた。

彼女は、ベル神殿の爆発は「シリア全体にとって、今まで起こったこととは全く別格の大きな打撃でした」と述べた。

「パラミラを失ったことで、国中のシリア人が嘆き悲しむでしょう。ベル神殿は、その敷地内でもっとも尊い宝石です。これは、想像を絶します」

「それはシリアの国営テレビのでも放送されていないし、ウェブサイトにさえ載っていないことに気づきました。これをどのように報道したらよいのかさえも、わからないのです」

UNESCO(国連教育科学文化機関)は8月上旬、そのような古代遺跡の破壊は戦争犯罪であると言った。

ダーク氏によると、ベル神殿の敷地内部の聖所には、世界の芸術に影響を与えたローマ時代からの新古典主義彫刻がたくさんあるという。

ISが公開した、小さめのバールシャミン神殿の爆破が映されている画像

「これは、歴史的価値のある聖なる境内です」と、ダーク氏は説明した。「列柱の通りがこの巨大な境内で終わります。それは、とても壮大です。とてつもなく巨大で、何世紀にもわたって要塞としても使われていたんです」。

神殿は、長年にわたって教会としてばかりでなく、イスラム教礼拝所「モスク」としても使われていた。

ISは、5月にダマスカス北東部にあるグレコ・ローマン遺跡を掌握した。

8月には、パルミラの著名な考古学者ハレド・アサド氏を斬首し、切断された遺体を史跡のメーン広場にある円柱に吊るした。

アサド氏は、貴重な工芸品が保管のためにどこに移されたかを教えることを拒み、殺害されたという。

武装集団に殺害されたハレド・アサド氏

歴史的に有名なバールシャミン神殿のまわりに置かれた爆発物

爆発された後のがれき

パルミラの住民ひとりを含む武装集団は、ISが8月30日、築2000年のベル神殿を爆破させて多大な被害を与えたと話した。AP通信によると、その住民は、大規模な爆発の被害状況を写真で見たものの、現場には近寄れなかったと説明したという。

ダマスカスの文化財博物館総局の総局長マーモン・アブドルカリム氏は、「間違いなく」大規模な爆発が広大なローマ時代の施設のそばで起きたと言いった。しかし、被害の程度は不明のままだと付け加えた。

匿名のIS工作員が8月31日にインターネット電話「スカイプ」を使ってAP通信に語ったところでは、詳しいことには言及しなかったものの、神殿を破壊したという。

「彼らが7月、初めてベル神殿とバールシャミン神殿をダイナマイトで破壊しようとしていて、その通り進められるだろうという報道がされたときには、だれもが当然恐れました」と、ダーク氏はラジオ4に話した。「それで先週、もっともっと小さいバールシャミン神殿が爆破されたとき、だれもが震え上がりました。もちろん、それが起こらないことを願っていたのですから」。

この記事はハフポストUK版に掲載されたものを翻訳しました。

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