京都の春光院が、同性結婚式を後押しする本当の理由 川上全龍副住職「昔は偏見があった」

仏前で同性結婚式を挙げられる寺院がある。

日本の法律では同性の結婚は認められていないが、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)などの性的マイノリティが、仏前で同性結婚式を挙げられる寺院がある。 京都・花園にある春光院(しゅんこういん)だ。春光院には、海外の同性カップルも訪れており、2014年にはハフポストUS版でも紹介され大きな反響を呼んだ。

京都・花園にある春光院。同院は、20世紀初頭の日本の禅宗における最重要拠点のひとつだった。

なぜ春光院はLGBTの結婚式に対して積極的に取り組むようになったのか? LGBT婚について「昔はLGBTに偏見があった」と語る、春光院副住職の川上全龍(ぜんりゅう)さんにその理由を聞いた。

妙心寺の塔頭寺院、春光院の川上全龍副住職。

■自分のなかの差別意識に気づく

「自分がゲイでもなければ、育った環境にLGBTがいたわけでもありません。むしろ、かつての私は、性的マイノリティーに偏見がありました」

川上さんは代々、春光院の住職を務める家系に生まれた。臨済宗妙心寺派系列の花園高等学校を卒業後、アメリカ・テキサス州にあるライス大学の付属の語学学校を経て、アリゾナ州立大学に進学する。

「友人とお茶をしていたら、一見してゲイとわかる人が通りかかったんです。私が差別的な意味のあるスラングで『He’s fagot』(彼はゲイだね)と言うと、友人は『ぼくもゲイだよ。タカはぼくに対してもそんな差別をするのかい?』と応えたんです」

そのとき、アメリカ南部を旅行した際にアジア人として「見えない差別」を受けたことを思い出した。差別された経験があるからこそ、激しく自分を恥じ、180度意見を変えた。意識を改めると、友人たちがゲイやレズビアンである事実を打ち明けてくれるようになった。

■英語での座禅指導が入り口に

川上さんは、かつては宗教学の研究者を目指していたという。アリゾナ州立大学で宗教学と心理学を専攻し、アメリカで約8年過ごした。2004年、「大学院進学に僧侶の資格があると有利だから」という理由で、宮城県にある瑞巌寺(ずいがんじ)で1年間修行するために帰国する。

2006年に修行を終えて春光院に戻ってきたとき、知人のアメリカ人に、英語で座禅を指導する機会があった。うわさは口コミで広がり、欧米人が京都観光の時に春光院を引きも切らず訪ねるようになった。2007年、正式に副住職になったのを機に、より広く一般に向けて英語による座禅体験をはじめた。

■きっかけは、座禅体験に訪れたスペイン人女性の願い

最初に同性結婚式の是非を尋ねてきた女性は、春光院の座禅体験に何度も訪れていたスペイン人だ。

「結婚式をここでできませんか?」

「できますよ」

「もうひとつ聞きたいことがあります。パートナーは女性なんですが」

「……いいですよ」

大乗仏教の経典をひととおり調べ、教義に反しないと確認した。批判も予想できたが、日本でLGBTがもっと受け入れられるようになるために、同性婚ができると表明することが追い風になる確信があった。

「欧米と日本で、LGBTが受け入れられない理由が違います。日本には『同性愛は罪』と主張するキリスト教保守派のような宗教的な圧力がありませんから、欧米のような激しい対立はありません。一方で日本には『みんな同じであれ』『同じように異性愛者であれ』という見えにくい同調圧力があり、LGBTの生きづらさにつながっています。だから、うちのような寺院が同性婚を積極的に受け入れる意見表明をすることで、問題が可視化できると思いました」。

2010年、スペイン人の女性カップルは、晴れて式を挙げた。

■日本で増えている、仏前での同性結婚式

2014年の春よりホテルグランヴィア京都と提携し、LGBTのための仏前結婚式パッケージツアーを受け入れはじめた。2014年までで合計5組だったのが一挙に増えて、2015年に入ると10月までに8組のカップルが愛を誓った。そのうち6組が中国をはじめとする海外のカップル。2組は日本人で、男女1組ずつの同性カップルだった。

「カップルは女性のほうが多いですね。今年は日本人同士のカップルは初めてだったので、うれしかったです。もっと増えるといいなと思います」

同性カップルの仏前結婚式を手がけるようになり、川上さんはGE(ジェネラル・エレクトリック)の社内講演や東大の講義をはじめ、さまざまな会合に招かれるようになった。アメリカで宗教学を研究した観点から、歴史をひもといて話すことも多い。

「戦国時代に大名が小姓と肉体関係をもっていたことは、宣教師ルイス・フロイスが記録しています。江戸時代の春画にも同性愛はあり、おおらかに受け止められていました。一変したのは明治期。脱亜入欧を目指したときのプロテスタントの教えを基準とした西洋における「文明国」の定義をそのまま輸入して『同性愛は罪』と考えられるようになりました。歴史的な経緯をみると、明治以前の日本は『ゲイ・フレンドリー』なんです」

■資本主義の限界を越える「Oneness」

さらにLGBTへの取り組みは、資本主義が抱える問題を解決し、次のイデオロギーを見つけるための示唆に富む、と川上さんは指摘する。

「世界的に金融危機を招いた2008年のリーマンショックは、資本主義と実践主義の限界を示しました。実践主義を徹底して、『より優れた投資を』を繰り返して勝ち組は最高の場所にいけるはずだったのに、それを支える社会全体が経済的に崩壊した。これはアメリカにとって大きな衝撃でした」

川上さんによれば、今アメリカの知識人の間で注目されている思想に「Oneness」(ワンネス)がある。「One」(=1)の名詞形、「ひとつであること」を意味する。

「勝ちか負けか、善か悪かといった2元論ではなく、Onenessは全体の調和を重視します。この発想の違いは、部位に分けて治そうとする西洋医学に対し、身体全体の調和を重視する東洋医学にたとえるとわかりやすいかもしれません」

たとえば環境問題。他国の大気汚染は日本に影響するし、二酸化炭素に国境はない。個別対応では解決に限界があり、「世界全体はひとつのもの」ととらえていく必要がある。

「仏教に『真如』『一如』という言葉がありますが、まさに『世界はすべてつながりあっている』、そんな世界観を示す言葉なんです」

■少数派が幸福を感じる社会が、幸せへの道

川上さんにとってLGBTの仏前結婚式への積極的な取り組みは、そんな「Oneness」の思想の実践でもあるのだ。

「『LGBTは少数派だから、切り捨ててしまっていい』ではだめなんです。調査では日本のLGBTは全人口の7.6%と出ています。これは約7%もの人に結婚という選択肢がないわけです。それでは日本全体の幸福につながるとはいえません」

LGBTだけではない。女性も、ハンディキャップのある人も、外国籍の人も、少数派が幸福を感じる社会になることこそが、日本全体の幸せへの道なのだ。川上さんは、日本全体を「ひとつのもの」ととらえ、そこにいる誰もが幸せな気持ちで過ごせるようにすることが、全体が調和につながる確信があると話す。

■自己実現から利他の時代へ

では、幸せへの具体的なヒントはどこにあるのか。川上さんは「お金と幸福感」に関するユニークな研究に注目している。

カナダにあるブリティッシュコロンビア大学の心理学者で、自己認識と幸福についてを専門とするエリザベス・ダン博士は、「お金は、自分のために使うよりも、他人のために使うほうが、人は幸福感を感じる」という研究結果を発表した。また、ロンドンスクール・オブ・エコノミクスのリチャード・レイヤード博士によると、「お金は人間に与える幸福度のうち2%しか貢献しない」という。

「これまでの日本では、幸せを計るのは『自分のやりたいことをいかに実現するか』。すなわち『自己実現できたら幸せ』、という考え方が一般的でした。しかし今後は『自分の欲望はコントロールして他者を幸せにする』、すなわち『利他できたら幸せ』という考え方にシフトしていくのではないでしょうか」

日米でさまざまな価値観に触れた僧侶が、寺院でLGBTを本格的に受け入れはじめて、まだ2年足らずだ。「Oneness」の思想や仏教思想とのつながりは、まずは動いて実践して、のちに気づいたことだ。

「どうしたら幸せになれるのか」。これからも続く春光院の取り組みは、私たちが暮らしやすい社会を考えるための示唆に富んでいる。

(呉玲奈)

【関連記事】

ハフポスト日本版ライフスタイルはTwitterでも情報発信しています@HPJPLifestyle をフォロー