遅咲きのチアリーダーNFLの舞台へ、「人生って何が起こるかわからない」橋詰あずささん

橋詰さんが、チアを始めたのはわずか4年前だという。
Azusa Hashizume

アメリカン・フットボール(アメフト)の最高峰、NFLの試合を華やかに彩る「12番目の選手たち」と呼ばれるのがチアリーダー。橋詰あずささん(30)は2016年、倍率18倍という熾烈な競争を勝ち抜いて、ワシントン・レッドスキンズ(ワシントンDC)チアリーダーズの今シーズンのメンバーとして選ばれた。今年、憧れの舞台に立つことができるルーキーはたった8人。その一員となった橋詰さんが、チアを始めたのは26歳、わずか4年前のことだという。「思いもよらなかった」夢をつかんだ橋詰さんに、成功への軌跡を聞いた。

ーーチアを始めて4年ということですが、ダンスは幼少期からされていたそうですね

はい、5歳からクラシックバレエを始めました。高校1年生の時に通っていた学校のアメリカの姉妹校へ交換留学することになり、そこでも、ダンスや音楽芸術を学びました。でも、高校3年生でダンスは一旦やめてしまったんです。大学でまた留学したいと思ったので「今やるべきことは?」と考えて、英語や受験勉強に専念することにしました。カナダの大学を卒業して、日本で電気メーカーに就職しましたが、その後は、たまにレッスンに行くぐらいでしたね。

ーーチアを始めたのはいつでしょうか?

仕事に少し慣れてきた入社3年目、2012年にダンスをもう一度しっかりやりたいなという思いが湧いてきました。それで、遅咲きながら26歳でチアを始めたんです。チアを選んだのは偶然同じダンススクールに通っていた子がやっていたのを思い出したから。YouTubeで見た動画に惹かれた、日本のアメフトの社会人リーグ「X League」に所属する「IBMBigBlue」の専属チアリーダーのオーディションを受けました。最初はアメフトのルールや試合の流れも知らず、どのタイミングで踊り出すのかさえわからない状態でした。フィールド上ではいつも、曲のイントロを聞いてタイトルを当てるクイズ、「イントロ・ドン」をしているような感じ。試合の流れに応じて曲がかかり、その前奏を聞いてどのダンスか瞬時に判断して踊るんです。覚えることがたくさんあり、週に2回の練習に自主練、家に帰ってもトイレの鏡でと、ダンスが体に染み込むまでひたすら練習の日々でした。

ーー応援のために踊るのは、それまで続けて来られたダンスと全く違う世界では

はい。初めての経験でしたが、チアでは「いかにファンの声援を引き出すか」が大事。応援を盛り上げるために、ダンスだけではなく、2年目以降はなるべく自分ができることを提案していこうという思いで、自分たちでニュースレターを発行したり、試合のポイントやルールを解説したり、試合の状況がわかりやすいようなボードを作って掲げたりいろいろなアイデアを試しましたね。

チアスティックという長い風船のような応援グッズがあるのですが、それを配って一緒に応援しましょうというキャンペーンを始めたこともあります。最初は客席に少しだったチアスティックがだんだん増えていって、応援に一体感が出てくると「お客さんと繋がりながら踊っている」という感覚が本当に嬉しかったです。チームに入って3年目、キャプテンとして引っ張ることになった2014年に、チームが初めて東京ドームでの決勝戦Japan X Bowlの舞台に進むことになりました。3階までいっぱいのお客さんと一体となって応援したことが一番の喜びでした。

IBM BigBlue Cheerleadersの一員としてJapan X Bowlでパフォーマンスする橋詰さん(2014年12月)

ーーNFLへの挑戦はなぜ

やっぱり最終的に世界のトップの舞台で踊りたいという気持ちが芽生えてきました。元チームメイトだった勝呂美香さんが先に、サンフランシスコ・49ersのチアリーダーに挑戦し、メンバーに加わっていました。それで、2014年の年末、リーバイススタジアムでアリゾナ・カージナルズ戦の試合を観戦しに行ったんです。フィールドのワクワク感の違いを肌で感じました。お客さんの数も桁違いです。お客さんも試合よりかなり早く来て、テイルゲイトというのですが、駐車場でバーベキューをしていたり、家族の一大イベントという感じでした。その規模と、エンタテイメント性に衝撃を受けましたね。チアチームも人数が日本の倍で、踊りに迫力があり、それぞれ皆輝いていて、「やってみたいな」と思いました。日本ではその後のステップがないということもあります。

ーーフルタイムのお仕事を続けながらの活動やオーディション挑戦でした

仕事との両立に関しては周囲のみなさんの助けで何とかやっていけました。練習や試合のスケジュールを考え、基本的には定時で帰れるように、スケジュールを管理しながら。オーディション前にけじめをつけようと上司に退職の意思を伝えていたのですが、「まずは休暇を取って行ってみたら」と保留にしてくださり、職場のみなさんが温かく送り出してくれました。人って目標があって何かを目指す時に一番力を発揮できると思うんです。例えば筋トレとか「今日は疲れたからやめようかな」と怠けてしまうこともあるんですが、ゴールが見えているときちんとやるし、ダンスの練習も。ゴールにつながる道が見えた時に、底力が発揮できると思います。

ーーオーディションはどんなものなのですか

私の場合は1週間に渡って3度の試験を受けることになりました。ダンス以外にもウォーキング、水着審査、ポージング試験も。中でも二次試験では観客からの質問に即興で答えるという面接もありました。どんな質問が飛んでくるのかわからないのでドキドキです。でも私への質問は簡単で、「好きな食べ物は?」。もちろん「寿司」と答えました。中には「レッドスキンズが過去に優勝したのは何年と何年?」なんて質問もありました。でも重要なのは知識ではなく、とにかく観客を沸かせること。たとえ答えられなくてもうまく客席を盛り上げられることができるかを審査されています。最終オーディションでは、たくさんのダンスを覚えてすぐに踊ることが求められました。追い詰められて、心配や不安の要素もありましたが、自分のリミットを超える感覚で緊張せず、自分も、お客さんも楽しんでもらえるダンスができたと思います。

レッドスキンズチアリーダーチームのTwitterでアップロードされた、ルーキー陣によるカレンダー撮影の風景。左から2人目が橋詰さん

ーー夢をつかんだ今、思うところはありますか

最初はチアの基本の形さえもわからず始めて、その頃にはまさかこんな所まで来るとは全く考えていませんでした。4年間、自分にできることを探してやってきただけで。人生って何が起こるかわからない、やってみたら道は開けるんだってことを感じました。レッドスキンズのチアチームはNFLの中でも歴史が最も古く、先輩たちがそれぞれ誇りを持っているのを感じます。1年契約で来年にはオーディションをまた受けなければなりません。厳しい世界で、付いていくので必死かもしれませんが、まずはチームの色に染まって、それから自分らしい踊り方や個性を徐々に出していけたらと思います。フィールドに立ってお客さんと触れ合ううちに、何かが見えてくると信じています。

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