アメリカ大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏は9月11日、CNBCの番組で11月8日の投票日まで予定されている3回のテレビ討論会に「進行役の司会者はいらない」と述べた。
アメリカ大統領選では、民主・共和の両党の候補者によるテレビ討論会が投票行動に大きな影響を与える。1960年の大統領選で初めてテレビ討論会が行われた時、民主党候補のジョン・F・ケネディがテレビ映えするようにメイクやスーツに気を使い、はきはきとした発言で視聴者の印象を良くし、メイクもせずに疲れの色が濃かった共和党候補のリチャード・ニクソンと対象的な姿を見せ、大統領選の勝利につなげたこともある。
ジャーナリストたちがトランプ氏の発言のファクトチェック(事実確認)を進める中、トランプ氏は進行役抜きの討論会を提案している。
NBCで7日に放送されたアメリカの安全保障に関する討論番組「最高司令官フォーラム」で、司会のマット・ラウアー氏が、ドナルド・トランプ氏への追及が手ぬるかったと批判されて以来、テレビ討論会の進行役はもっと上手くやるべきだとの声が、一般人や報道陣のあいだで高まっている。
例えば、候補者が「自分は強くイラク戦争に反対していた」と嘘をついているのなら、その人物は追及を受けるべきだろう。これは7日の討論番組に限らず選挙戦の間ずっと実際にトランプ氏がついてきた嘘だ。
ラウアー氏の問題に加え、「討論会はジャーナリストがトランプ氏とクリントン氏の虚偽を追及するものにしろ」との声の高まりに対し、トランプ氏は11日、「進行役をなくせばいい」と提案した。
「我々に司会者はいらないと思う」と、トランプ氏はCNBCで述べた。「クリントン氏と私が、ただそこに座って議論をするだけにしよう。きわめて不公平な討論会になるようなシステムが、間に合わせで仕立てられているように思う。たった今、こうしたことが起きている。『ラウアーはトランプに弱腰だった』と言っている。そうすると、別の司会者はトランプに強い姿勢で当たろうとする。単にその司会者が『自分はできるんだ』と証明するためにだ。彼らがしていることは非常に不公平だ。我々は進行役なしで、クリントン氏と私が座って話をするだけの討論会にすべきだ」
トランプ氏はおそらく実際に進行役を排除されることを期待しているわけではないだろう。しかしトランプ氏が前もって「不公平だ」と主張することで、司会者が攻撃的に自分に異議を唱えるのを思いとどまらせる狙いが効果的に働く可能性はある。司会者はジャッジとしての役割があることも知られている。このように、討論前から不平を漏らすことで、自分の討論の欠点を補うのに役立たせる可能性もある。
トランプ氏は26日にクリントンと初のテレビ討論会に臨むにあたり、この数カ月の間先手を打って討論会の進行方法に疑問を投げかけてきた。
トランプ氏は7月の時点で、すでに発表されていた討論会のスケジュールがクリントン陣営に有利に仕組まれていると主張した。トランプ氏は、「予定されている討論会のうち2つが、NFLの試合とぶつかって放送される」と言っている。しかし、秋に行われる討論会が NFLの試合と重なる時間に放送されるのは珍しいことではない。なぜならNFLは週に3日、夜の時間帯に放送されるからだ。さらにMLBのポストシーズンは10月に開催される。討論会のスケジュールに異議を唱えたとき、トランプ氏は「NFLが自分に討論会のスケジュールについてクレームをつけている」と嘘の主張をした。
8月に討論会のスケジュールが合意に達すると、トランプ氏は早くも難色を示した。まず、誰が司会を務めるのかを知りたがっていた。「フェアな司会者でないと困る」と、トランプ氏はタイム誌に語った。数日後、誰が司会なら良いのかと尋ねられると、「NBCナイトリーニュース」のアンカー、レスター・ホールト氏の名前を挙げ、「彼はいい人物だ」と発言した。
「正直なところ、新しい顔ぶれを起用してもらっても構わない」と、トランプ氏はラジオ司会者ヒュー・ヒューイット氏に言った。「なじみの顔ぶれもいいが、新しい人でもいい。でもアンフェアな人間はお断りだ」
9月初め、NBCのホールト氏が26日に行われる初回の討論会の司会に選ばれた。タウンホール形式の2回戦はABCニュースのマーサ・ラダッツ氏とCNNのアンダーソン・クーパー氏、そして3回戦はFOXニュースのクリス・ウォレス氏が担当する。ニュースサイト「ポリティコ」によると、司会者選出中の「アンフェアな人間はお断り」というトランプ氏の発言が影響したという見方があったという。
「テレビ局の幹部たちの間で、憶測が広がっています。NBCのニュースキャスター、レスター・ホールト氏はトランプ氏のお気に入りだ。26日、ホルト氏はなだめ役として討論会を仕切る。同じように第3回討論会の司会者に選ばれたFOXニュースのクリス・ウォーレス氏は、トランプ氏がよく答えをはぐらかす公約を聞き流す役割だともっぱらの噂だ」と、政治関係者は語る。
FOXニュースのウォーレス氏は、自分は司会者としてではなく、候補者自身に切り込むつもりだと述べている。討論会の間にもファクトチェックし、ジャーナリストとして批判意見を出し、矛盾を指摘していくという。
マット・ラウアー氏の件以来、候補者が明らかに虚偽の主張をしたとき、司会者は議論を中断して事実をきちんと確認できるかどうかという点に懸念が集まっている。
トランプ氏は11日、「ライバルは自分をレフリーのようにさえぎったマット・ラウアー氏だ」と批判したが、インディアナ大学のバスケットボールコーチで、名将と呼ばれるボブ・ナイトは素晴らしいと称えた。
「ボビーならきっとレフリーを震え上がらせるし、試合終了までそうするだろう。きっと討論会の司会者たちも無意識のうちに、どうすればいいのか彼に電話をかけるだろう。そのことにかけてはプロだからね」と、トランプ氏は言った。
ハフポストUS版編注:ドナルド・トランプ氏は世界に16億人いるイスラム教徒をアメリカから締め出すと繰り返し発言してきた、嘘ばかりつき、極度に外国人を嫌い、人種差別主義者、ミソジニスト(女性蔑視の人たち)、バーサー(オバマ大統領の出生地はアメリカではないと主張する人たち)として知られる人物である。
ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。
▼画像集が開きます
(スライドショーが見られない方はこちらへ)