「戦闘で荒廃した街の復興、日本と共に」ガザの女性起業家が語る夢

イスラエルに境界を封鎖されて「天井のない監獄」とも呼ばれるパレスチナ自治区ガザ。当地の女性起業家2人が来日し、自身の取り組みについて報告をした。

イスラエルに境界を封鎖されて「天井のない監獄」とも呼ばれるパレスチナ自治区ガザ。当地の女性起業家2人が来日し、3月10日、参院議員会館で自身の取り組みについて報告をした。イスラエルとの度重なる戦闘で荒廃した街を復興したい――2人はそんな情熱で溢れている。

ガザは2014年7月、イスラエルの大規模な侵攻を受けた。50日間の軍事作戦でパレスチナ人2200人以上、イスラエル側も兵士ら74人が死亡と過去最悪の状況となった。ガザの経済は一層荒廃して失業率は4割を超えており、女性は約6割、特に15~24歳では約8割と世界最悪のレベルだ。人口約190万人のガザの約8割が支援に頼り、起業に注目が集まっている。

そこで会社員の上川路文哉さん(35)ら日本人有志がつくる有志団体「ジャパン・ガザ・イノベーション・チャレンジ」が2016年8月、ガザの若者の起業を支援しようとビジネスコンテストを現地で開いた。今回来日したマジド・マシュハラウィさん(23)とアマル・アブ・モエリックさん(25)は、このコンテストでそれぞれ優勝、準優勝となった。

2人は同団体などの招きで3月8日の「国際女性デー」に合わせて来日し、国際会議に参加したり日本企業で研修を受けたりした。ガザから日本まで、片道で3日間かかったという。

参院議員会館で開かれたガザ起業家報告「ガザ地区に於ける起業支援の取組み」の様子

■焼却灰で建設用ブロック

マシュハラウィさんは、コンクリートの代わりにごみ同然の焼却灰から作るブロックを開発した。「ガザは多くの建物が戦闘で壊され、再建のため建築資材を必要としています。この安価なブロックを使った建設がすでに始まっています」

報告会でプレゼンをするマシュハラウィさん

14年夏の戦闘で被害を受けた約14万戸のうち、再建できたのは半数ほどという。ガザは「テロ対策」としてイスラエルに境界を封鎖され、セメントなどの建築資材は軍事施設の建設などに使われるとして、搬入が厳しく規制されている。

イスラエルとの大規模戦闘が数年おきに起こることもあり、マシュハラウィさんは「復興のためにも代用品のブロックが必要」と考えていた。そこで着目したのが大量に排出される焼却灰だった。燃料が高騰しがちなガザでは木材などで火をおこすことが多く、年間排出量は6億トンともいわれる。実験を1年繰り返しブロックを開発した。通常のブロックよりも25パーセントコストカットでき、環境に優しく、軽くて強く、ごみを減らすことにも繋がる。

焼却灰で作ったブロックのイメージ(プレゼン資料から)

マシュハラウィさんは、学生時代の得意科目は数学や物理で、現地の大学では土木工学を専攻した。エンジニアとしての勤務経験を経て、2015年に建築資材会社「グリーン・ケーキ」を起業。会社のプロジェクト紹介動画が1500万回以上も再生されるなど、現在、注目を集めている。

ガザでは女性を取り巻く社会的壁は低くない。「多くの女性たちが高度な教育を受けていますが、大学を出たら結婚する人が大半です。まだまだ箱の中で暮らしているような状況です」とマシュハラウィさん。「ガザには才能あふれる人がたくさんいるのに、それを生かすチャンスがまだ少ないです。私も日本からもらったこの機会を生かし、女性の起業支援に取り組みたい」と力を込めた。

■大量の電力を使わずに荷物を運べる昇降機

モエリックさんは、電力供給が不安定なガザで、重い荷物を階段で運ぶための「昇降用キャリア」を開発した。「ガザは美しい場所ですが戦争の問題があります。自由に移動ができず、1日18時間は停電しています。医療を受けるにも制限があります」とモエリックさんは訴えた。ガザには戦争で手足に障害を負った人も多く、車椅子利用者も多いという。「昇降用キャリア」はそういった人たちを支える。

プレゼンをするモエリックさん

モエリックさんは、現地の大学で機械工学を学び、14年の大規模戦闘の後に「スケッチ・エンジニアリング」を創設した。「拍手は片方の手ではできません。ガザと日本とが手を取り合って進めていきたいと思います」と話していた。

開発した「昇降用キャリア」のイメージ(プレゼン資料より)

■「新たな国際協力の枠組みを創り出したい」

「ジャパン・ガザ・イノベーション・チャレンジ」は、9日には海外で活躍する女性起業家を紹介する催しも開催、ガザの2人も参加した。同団体の上川路さんはハフィントンポストに対し、「今回ガザから来た2人は、同時に招いたタンザニア、インドネシア、日本の同世代の女性企業家を始め、日本の企業、政治家、若手ビジネスパーソン、市民の方々との交流を経て、大きな希望を携えて帰国しました。私たちはこうした希望の種を撒き、育て続けていくことで、ものづくりなど日本の強みを活かした新たな国際協力の枠組みを創り出し、世界に広げていきたいと思います」と話した。

ガザでのビジネスコンテストは、2017年夏にも開く予定。ガザを先駆的な事例とし、その後には世界に広げていきたいという。

登壇者や関係者らの記念撮影。手前でしゃがんでいるのが上川路さん

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