フランス大統領選の第1回投票から、分断された政治の現状が浮かび上がってくる

2つの現象がフランスの確立した政治を揺るがした。

「なんという日だ!」1981年5月10日夜のフランソワ・ミッテラン氏の言葉が今も耳に残っている。自分の姿が映し出されるテレビの前で勝利演説に手を加えようとしていた彼は、信じられない、というようにペンを置いた。

この日の出来事は、4月23日の第1回投票で最高潮を迎えた、現在の大統領選と様子が似ている。2週間後の決選投票の結果を予測するのは容易ではない。もちろん、6月の国民議会選挙までの間には、これまでに作られたストーリーがさらに確固となることもあれば、完全にひっくり返ることもあり得る。

過去2年間、怒りと失望に満ちたフランスの民衆の手で、2人の大統領と3人の首相が退場した。この2年で、我々はいかなるシナリオや結果も完全に軌道を外れる――時には何度も――可能性があると知った。この2年で、この国のエスタブリッシュメント(既得権益層)の政党、特に1969年以来、これほどまでの危機に見舞われたことのなかった社会党が崩壊した。予備選は、各政党が支持者の確保に完全に失敗する茶番となった。大臣たちの中には、自党の代表に投票するのを拒否する者まで現れた。

第2回投票で国民戦線の大統領が選ばれる、という考えは、15年前なら暴動が起きただろう。しかしそれは今や広く受け入れられている。マリーヌ・ルペン氏の得票率が24%、そして30%となり、わずか22%の得票率の差で2位につけることなど、誰が想像し得ただろう。予備選の最後で不屈の候補として浮上したフランソワ・フィヨン氏は、この2カ月の間で力を失ってしまった。

しまいには、2つの現象がフランスの確立した政治を揺るがした。1つは、ジャン=リュック・メランション氏が見せかけの穏健派を装い、疎外されて不満を持つフランスの人々を巧みに欺いたことだ。彼は僅差で2位に及ばなかった。そして、もう1つは、この選挙までは比較的無名の若手だった、エマニュエル・マクロン氏だ。彼は何の後ろ盾もなく新しい政治運動を一から作り上げた。トップの座へのぼりつめようとする彼の驚くべきレースは、彼にとって有利に傾いている。

「アン・マルシェ!」(前進)を率いる2017年フランス大統領選挙のエマニュエル・マクロン候補。彼は23日、第1回投票の結果が明らかになった時点で、パリのパルク・デ・エクスポジション・ホールで勝利を祝った。BENOIT TESSIER/REUTERS

マクロン氏が大統領になる運命は、歴史的・統計的に考えればあり得ないことだ。彼はわずか1年前に政治運動の「前進!」を立ち上げたばかりだ。政治的経験が乏しいにも関わらず、彼の基本的信条はフランス第五共和政の常識を窓から投げ捨てるものだ。現時点の彼は、フランスの財務大臣を2年間務めた人物にしか過ぎない。彼は自動車市場の自由化と、日曜日にフランス中の店舗を開店させた業績で名を上げた、と専門家は揶揄する。

政治家は彼を嘲笑い、ジャーナリストは歓喜した。まるで救世主のように急に現れた、この出しゃばりな夢想家はいったい誰だ、と彼らは口々に言った。

しかし、彼の話には説得力があった。雑誌は彼に魅了され、選挙集会はいつも満員だった。彼は大統領戦の第1回投票で1位となり、わずか2週間後には、この共和国大統領に選ばれる可能性がある。

マクロン氏が勝利を収めた23日の夜、パリの通りをカメラが奔走し、1995年のジャック・シラク氏の勝利を思い出させた。この時の選挙では、彼も自分が有利だとある程度理解していた。

しかし、彼は自分の運命を全く恐れないのだろうか。フランスが善と悪の2分化にうんざりしている、という直観に裏打ちされた彼の大胆さは、競争相手が自滅していくにつれ、力を増してきた。考えてみれば、アラン・ジュペ氏、ニコラ・サルコジ氏、フランソワ・オランド氏、マニュエル・ヴァルス氏、フィヨン氏らはすべて、外的要因や自分の失策で敗北した。 この未曾有の政治的虐殺を生き延びたのは、マクロン氏だけだ。

彼はこの段階で自画自賛するのは賢明でないと知っている。フランスは脆弱で、再度テロ攻撃があればすべてが崩壊する可能性がある。フランスも分断されている。 今回の選挙では、2002年以来初めて第1回選挙で25%の投票率を上回る候補が出なかった。フランスの人々は、不平等主義のひどさに直面し、憤慨している。エスタブリッシュメントの政党は崩壊しつつある。政治家は敵意の塊で、互いから自分を切り離して孤立し、敗者を暴き晒すための卑劣な攻撃に余念がない。

4月23日の第1回投票速報の結果を聞いて祝うフランス国民戦線党首・大統領候補のマリーヌ・ルペン氏。PASCAL ROSSIGNOL/REUTERS

我々は皆、敗北を軽々しく捉えない共和党員の間で流血沙汰が起こるだろうと考えた。議会の猛者ローラン・ウィキーズ氏らは、マクロン氏への投票を拒否すると述べた。

一方、左派には真剣に自己反省する余地がある。ブノア・アモン氏らの候補は、支持者に対しマクロン氏に投票するよう呼びかけたが、オランド大統領が権力の座にいた悲惨な時期は言うに及ばず、なぜキャンペーンがこれほどまでに破綻したのかを検証する必要がある。メランション氏らは、マクロン氏の支援は「難しい」と明言するが、メランション氏の怒りは、彼の長い政治家人生を通してもっと醜いことが多々あったことを思い出させるのに十分だ。彼のこの態度は、彼の最後の数週間で人気が急上昇したことを考えれば理解できるが、自らの敗北を受け入れて責任を取ることを拒否したために、ジャン・ジョレス氏による雄弁で平和主義的な態度ではなく、ジョルジュ・マルシェ氏による激しい批判を招いた。

国民戦線の歴史で最多となる700万人近くの支持者がいても、ルペン氏が決選投票で勝つ可能性は低い。彼女の「ガラスの天井」はこれまでになくはっきり見えており、多くの人々はそれがなくならないよう望んでいる。フランスは統一を取り戻さなくてはならない。フランス人の4分の1は穏やかで安定した生活を望んでいる。次の4分の1は税金や債務の削減を優先している。次の4分の1は、エリート層を代弁しないポピュリストのリーダーと国家安全保障を求めている。そして、最後の4分の1は、国の将来に対し多少楽観的で、フランスの政治やガバナンスの改革を望んでいる。

マクロン氏が体現するのは、この最後のカテゴリーだ。他の全てのカテゴリーも体現できることを証明するために彼に残された時間は、あと2週間。もしうまく行けば、注目すべき彼の物語は、今、始まる。

ハフポスト・フランス版英訳より翻訳・加筆しました。

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